溶かしてくずして味わって

辻河

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本編

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「ごちそうさま、でした」

 結局、アイスを食べ終わるまで終始無言のまま時間が過ぎていった。絶えず注がれている熱を孕んだ眼差しを敢えて気にしないように努めながら、最後の一口を飲み込む。

「美味しかった。ありがとう、伊織」

 礼を言うと彼はふっと表情を和らげたが、相変わらず距離は近いままだ。お互いの肩が触れ合い、そこからじわりと体温が流れ込んでくるような錯覚を覚える。

「……あの、ずっと見られると恥ずかしいんだけど」

 異様な雰囲気に耐えきれず問い掛けると、伊織はぱちぱちと目を瞬かせた。

「ん?あ……ごめん、そんなに見てたか。無意識だったかも」

 照れたように笑う姿は、いつもの彼そのものだった。先程までの不安が嘘のように和らいでいく。ほっとして思わず息をつくと、突然伸びてきた手が頬に触れた。その手つきは明らかに普段のそれではなくて、思わずびくりと身体が震えてしまう。

「冷たい食べ物が苦手ってことは、口の中が敏感なのかな」

 何を言われるのかと身構えていた矢先、耳に届いた言葉の意味を理解するまでに数秒を要した。そして理解した後も、言われたことがよく飲み込めなかった。一体どういう意味だろう。そもそも何でいきなりこんなことを聞くんだろうか。ぐるぐると考えている間に、彼の指先は頬から唇へと移動していく。親指で軽く下唇を押されたかと思えば、開いた隙間から人差し指が入り込んできた。歯列を確かめるように撫でられ、ぞわぞわと背筋が粟立つ。

「ひ、っ……!な、に……ひ、て……っ」

 すぐに二本目の指も入り込み、冷え切った口内を好き勝手に動き回り始めた。上顎を撫でられる度にくすぐったいような未知の感覚に襲われ、変な声が出そうになる。舌先で押し返そうとするも逆に絡め取られてしまい、ちゅく、と濡れた音が響いた。そのまま舌の裏を指の腹で何度も擦られると、ぞくりと腰の奥が疼いた。

「んん゛……!ん、ぐ……っ、ふ……ぁ、……っ!」

 自分でも気にしたことがないような繊細な部分を丹念に刺激され、下半身にもどかしさが溜まっていく。どうして急にこんなことをされているのか全く分からなかったが、与えられる快感は確実に思考力を奪っていった。伊織の手首を掴み抵抗を試みても、力が入らないせいでほとんど無意味なものになってしまう。

「ふは……顔、蕩けてる」

 ようやく解放された時にはすっかり息が上がり、冷めたはずの身体は燃え上がらんばかりに火照っていた。口の端から溢れた唾液が首元にまで伝う感触すら、今はさらに熱を煽る要因にしかならない。乱れた呼吸を整えようと必死になっていると、今度は耳たぶを食まれ、舌でゆっくりと舐め上げられた。鼓膜に直接響く水音に、頭の中を直接犯されていくようだ。

「ごめん。アイスを食べる吉野があまりにもえっちだったから我慢できなくなっちゃった」

 伊織の声が直接脳に流れ込んでくるようで、上手く言葉を紡ぐことができない。混乱したまま手首を掴まれ、伊織の下腹部に掌を押し当てられた。服越しでも分かるほど硬く張り詰めたその感触に、喉が小さく鳴る。

「……ぁ、え……俺の、せい…………」

 恐る恐る視線を上げれば、ゆらゆらと仄暗い炎を湛えた瞳がこちらを見下ろしている。このままではまずい、と反射的に身動ぎすると、逃がさないとでも言うように腰を抱かれた。身体の距離が一層縮まり、耳にかかる吐息がくすぐったくて仕方がない。

「そうだね。吉野のせいかも」

 囁かれると同時に再び深く口付けられ、熱い舌を差し入れられる。先程指で撫でられた部分を執拗に責め立てられ、隅々まで蹂躙するように貪られる。酸素を求めて喘げば余計に深く絡みつかれ、もうどちらのものかも分からないほど混ざり合った唾液を飲み込むしかなかった。

「……っふ、ぁ……んん゛……っ!ふ……ぅ、……っ」

 何度も角度を変えて繰り返されるキスに頭がくらくらして、何も考えられなくなる。いつの間にかお互いの体温を分け合うようにぴったりと密着していた身体からは、心臓の音までも伝わってきそうだ。抵抗できないのを良いことに、伊織の手がシャツの中に潜り込み、背中や脇腹を這い回る。時折胸の先端を引っ掻くようにして弄ばれ、大袈裟なくらいに身体が跳ね上がった。
 長い時間をかけて散々口内を掻き乱された後、伊織の顔が離れていく。二人の間を銀糸が繋ぎ、やがてぷつりと切れて落ちた。荒くなった息を整えることもままならず、目の前の男をぼんやりと見つめることしかできない。

「ねえ」

 ごり、と硬いものが太腿に押し付けられる。それが何かなんて考える必要もなかった。

「こんなになっちゃった責任、取ってくれる?」
「……せき、にん」

 穏やかだが有無を言わせない声音に、じりじりとした痺れが全身に広がる。これはきっと良くないことだ。けれども自分のせいでこうなったと言われてしまうと、放っておくことなんてできるはずもない。それに、何より───

「わかった……せきにん……とる、から……ベッド、行こう……?」

 上手く働かない頭で何とか言葉を絞り出し、伊織の首筋に顔を埋めた。すっかり熱くなってしまった肌の感触で分かって欲しくて、すり、と頬を寄せる。

「…………っ、……いお、り」

 重苦しい沈黙に居た堪れなくなって、縋るように名前を呼ぶ。しばらく経って、頭上から深い溜め息が聞こえた。呆れさせてしまっただろうか。不安になってそっと顔を上げると、そこには何かを堪えるように唇を強く結んで目を伏せた彼の姿があった。
伊織はソファから立ち上がり、俺の手を引いて寝室へと向かって歩き出した。もつれそうになる足をどうにか動かしながら後を追う。ドアの前でぴたりと立ち止まったかと思うと、掴まれていた手がドアノブに添えられた。

「……いいんだよね?途中で嫌だって言っても止まれないよ」

ドアノブを握る手は、いつの間にか背後に回った伊織の手に包まれる。振り返ると、燃えるような熱を帯びた瞳に見据えられていた。重ね合わされた掌から伝わる体温が、じわじわと身体中に染み渡っていく。返事の代わりにこくりと小さく首を縦に振ると、一層きつく手を握り込まれた。二人分の重みを受けて、ゆっくりと取っ手が押し下げられていく。どくどくと壊れんばかりに脈打つ鼓動は、果たしてどちらのものなのだろう。
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