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本編
第32話 マヨイはモフられる。
しおりを挟む「これは兄さん用でしょ」
「ケモミミ触りたいです!」
笑いを堪えながら僕に"草原狼王なりきりセット"を勧める暁と自分の欲求を隠す気のないクレアちゃん。
「いや、クレアちゃんが手に入れて自分で自分のケモミミを触ればい「それじゃダメなんです!」……ソウデスカ」
結局、2人が受け取らないようなので僕が貰うことになった。なりきりセットというからケモミミ付きのカチューシャのようなものを想像していたが、見た目は狼の尻尾っぽいのヘアピース、要するに付け毛だった。付け方がよく分からないのでメニューから操作すると……鏡がないから変化が分からない。
「装備してみたけど変じゃないか?」
「ほら、そんな事より早くケモミミ生やしてよ」
「お兄さん、お願いします!」
質問に答えてくれよ、と言いたいところだが2人からの圧がすごいので落ち着いてから改めて聞くとしよう。
「はぁ……"狂狼化"」
「「………………」」
「なんか言ってくれないかな?」
さすがに2人して黙られるとつらい。
やっぱり僕のアバターに狼耳は無理があったかな。
「いや、普通に似合ってて可愛いよ」
「可愛い?格好いいじゃなくて?」
「うん、何か髪の毛も伸びてるし前にも増して女の子っぽくなってる。銀髪に黒のメッシュだから格好いいでも間違いじゃないけど」
「銀髪?金髪じゃなくて?」
僕のアバターは昔作成したアバターを流用したものだ。
金髪に青い瞳、身長は当時の僕と同じ160㎝のアバターのはずだ。
「うん、銀髪」
「…………たぶんスキルか称号、もしかしたら覚醒の影響かな。髪の色は銀色じゃなくて灰色なんだと思うけど」
「へぇ……そんなこともあるんだ」
この様子だと眼の色も変わってそうだ。
そこまでアバターの容姿には拘ってないからいいけど、僕と違って拘っている人からすればスキルや称号で容姿が変わるのは大問題だろうな。
「…………お兄さん、お耳を触っていいですか?」
「…………まぁ減るもんじゃないけど、ほどほどにね」
「いただきます」
「いただきます!?」
クレアちゃんが正気を失ってしまったようなので、大人しくモフられる。うん、やっぱり歳下の女の子に触られるのは恥ずかしいな。
そうだ、今のうちにステータスを確認しておこう。
◼︎パーソナル
名前:マヨイ
性別:男
位階:30
資質:狩人/魔術士/神使
覚醒:灰神の使徒/蒼神の使徒
称号:灰神の寵愛/蒼神の祝福
森大猪の討伐者/草原白蛇の討伐者
草原狼王の討伐者
自然の破壊者/環境の破壊者
星に爪痕を残す者
◼︎ステータス
体力:18400
魔力:104535
筋力:33035
耐久:33035
器用:42106
敏捷:47568
知力:44000
精神:54894
◼︎スキル
①探索
┗消費魔力減少
②魔力弾
┣形状変化
┣軌道操作
┗消費魔力減少
③灰の神威
④灰神の法器
⑤蒼の神威
⑥蒼神の法器
⑦攻撃威力調整
「うわぁ……」
"狂狼化"の効果は補助スキル扱いらしい。
そして"灰神の法器"と"蒼神の法器"の補助スキル効果+100%の効果で知力以外のステータスが知力の元々の値の3倍ほど増えている。また"狂狼化"のデメリットである"封魔"と"狂乱"の状態異常は"灰神の寵愛"の効果で無効、更に知力が0になるというデメリットは"灰の神威"の効果で0になる効果が反転したようだ。おそらく計算式が(元々の知力値×0)ではなく(元々の知力値-元々の知力値)だったんだろう。親切設計なのか反転した減少効果も3倍になっている。
「魔力のコストも自然回復分のが多いから減ってないとか、さすがに不具合だろ……」
「兄さん、見せて」
「いいぞ、ほれ」
「うわぁ……私と違うゲームしてない?」
「否定できないな。しかもこれ、装備の補正抜きの数字だぞ」
「もう誤差じゃない?」
スキルの補正値は適用されているのに装備の補正値は適用されていないのは何故なのか。不具合の可能性もなくはないし後で運営に要望を出しておくか。
「たぶん覚醒前提でのバランス調整になってるんだろうな」
「それはありそう。私も早く覚醒……できれば兄さんたちと同じ彩神関係のやつが欲しい」
ここで僕に覚醒の獲得方法を聞いて来ないということは、しばらくは自分で探すつもりなんだろう。藍香伝で既に聞いているという可能性もあるけど、藍香のことだから僕の了解が無ければ「言えない」とか言いそうだ。
「お兄さん、尻尾もモフりますね」
「ごめんね、耳は別に頭を撫でられるようなものだから構わないんだけど尻尾は無理」
「あ、ご、ごめんなしゃい!ごめんなさい!」
注意されたことでクレアちゃんは正気に戻ったようだ。
顔を俯かせて何やら悶えて始めた。
「あはは……暴走もほどほどにね」
「そういえば、その耳と尻尾って感覚あるの?」
そう言われて生えた耳と尻尾に触れてみる。
モフモフとした手触りはあるが触られているような感覚はない。
「んーないね、さすがに人間にはない部位の感覚を再現するのは難しかったんじゃない?」
「なるほど、手触りの方は?」
「思ったよりも柔らかい、かな?」
自分で耳を触っていても、腕が疲れるまでは触ってられそうなくらい肌触りがいい。ただ僕は現実の狼に触れたことはないので、ゲームだから柔らかいのか、現実の狼も同じくらい柔らかいのかは分からない。
「わ、私も触っていい?」
「はぁ……少しだけだぞ?」
しばらくモフられながらステータスに装備の補正値が適用されていないことについて運営に問い合わせた。どうやら装備の補正値が適用されていないのは不具合らしく、後日修正される予定らしい。
「いつまでもいじけてないの、行くよ?」
「う、うん……お兄さん、ごめんなさい」
「いいって。許可を出したのは僕なんだし」
役得、とまでは言わないけど、母さんや藍香から着せ替え人形にさせられていた黒歴史に比べたら大したことない。いつだったか藍香に女装させられて街に出た時は男女の区別も付かない猿どもが近寄って来て羞恥で死にたくなった。
「ようこそ、テコの街へ。身分証はあるかな?」
「組合の登録証でも大丈夫ですか?」
「もちろん」
僕らが登録証を見せるとすんなりとテコの街に入ることができた。メニューから確認できる現実の時間は午後5時27分だ。夕飯の支度を手伝いたいし、そろそろログアウトしたい。
「今日はここまでかな。2人ともありがとね」
「え、もうそんな時間?」
「お兄さんもありがとうございました」
こうして僕の"Continued in Legend"2日目は終了した。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
本話で第2章は終了です。
この後、間章──藍香視点でのゲーム2日目──を挟んでから第3章に移ろうと思います。
掲示板回のタイトルを変更しました(2020/11/20)
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