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本編
第39話 マヨイはソプラを目指す。
しおりを挟む「ペル、地図貸して」
「いいぜ、てか組合で買わなかったのか?」
「買えるの?」
メニューから確認できる地図は自分を中心とする1辺100mの簡素な地図だが、ペルセウスさんの持っている地図はタッチパネルのように拡大と縮小ができるアルテラ地方全域を確認できるものだった。どうやらソプラやテコはアルテラ地方に含まれるらしい。
「1000Rしたけどな。受付嬢に言えば買えるぞ」
「分かった。次に行ったら買う」
僕もそうしよう。広範囲の地図はあると便利だ。
「はい、これ」
藍香から差し出されたものを反射的に受け取ってしまった僕は受け取っものを見て驚いた。たぶん、これはオリオンさんが今手に持っているのと同じものだ。
「え、なにこれ」
「アルテラ地方の地図よ。たぶん買ってないんじゃないかと思って買ってきたの」
「お金ないんだけど」
「別にいいわよ。でもボス素材は売らなかったの?」
「腕のいい加工持ちの子と知り合ってね。この籠手と短剣を作ってもらったんだ」
クレアちゃんのことだ。
籠手は装備しているだけだから今のところ使い心地ははっきりしてないけど、短剣に関して言えば満点の使いやすさだ。測ってもないのに手に馴染むフィット感はゲーム特有のものかもしれないが、かなり使いやすかった。
「女の子?」
「女の子」
「可愛い?」
「可愛い、かな」
懐いた仔犬みたいで。
というかアバターだから基本的にブサイクはいないよね。リアルモジュールでアバターを作っても補正されるらしいし、わざとブサイクするなんて奇特な人は少数派のはずだ。
「ふーん、今度紹介してね」
「いいよ」
藍香もボスの素材で装備を作りたいらしい。
それだけじゃない気もするけど、たぶん気のせいだ。
「おもいあい、だね」
「そうよ。羨ましい?」
「ちょっと」
"思い合い"なのか"重い愛"なのかは確認しない。
どちらで返されても反応に困る。
「オリオンも準備OK?」
[オリオンからフレンド申請が届きました]
このタイミングで?
こちらを凝視してくるオリオンさんの圧に負けてフレンド申請を承諾する。最近、こういう女性からの圧に負けることが増えた気がする。
「OK。ありがと」
「……?ならあとはマヨイがサインしたら出発ね」
レオさんのおかげで全財産前払いよりはマシになった契約書にサインする。手のひらで10秒触れるだけなのは便利だ。
「ん、こっちの方角」
「はぁ……こっちよ」
2人とも間違った方角を指差してる。
これ本当に間に合うのかな……
⚫︎レオ
「ふぅ……」
オリオンたちがアルテラ大森林に入るのを見届けた俺は大きな溜め息をついた。周りを見渡せば多かれ少なかれ他のメンバーも張り詰めた空気から解放されて安堵している様子が伺える。それもこれも全てはリーダーが見なくてもいい足下を見てアイの逆鱗に触れたせいだ。こちらがお願いする立場なのに足下見てどうするんだよ。
「リーダー、弁解は?」
「あれが最善だと思いました。後悔も反省もしています。申し訳ありませんでした」
「最初に提示された条件からして俺らと対等な交渉するつもりだったぞ。なんでリーダーは足下を見るような発言した?」
「ペルもかっかすんな。止められなかった俺にも責任はある」
アイから最初に提示されたのは『ソプラまでの移動中に手に入れたアイテムの譲渡』と『24時間の録画機能の使用禁止』のみだった。前者は報酬代わり、後者は情報の流失を防ぐためだろう。妥当というには俺たちに少し有利な提案だった。リーダーが余計な口出しをして全財産を要求された時には本当に焦った。
ただ最終的な着地点は俺らにとって決して悪いものではなかった。同行するオリオンから得られるだろう2人の情報とイメージアップ効果、他のプレイヤーと交流することで一大コミュニティを作ろうとしている節のあるKING'Sへの牽制、それらを考えれば安い買い物になる可能性の方が高い。
「これが初めてじゃねぇんだぞ?いい加減に学習しろよ」
「申し訳ない……」
ちなみにリーダーを詰問しているペルセウスはアバターと口調で誤解されやすいが女だ。中性的なアバターや男っぽい口調は未だに男社会の傾向があるプロゲーマー界隈で見下されたくないらしい。また尊敬していた女性プロゲーマーと結婚して、長期休業させているリーダーに対して思うところがあるようだ。
「24時間の録画機能の使用禁止を条件にするということは、少なくともアイくんは録画されたら困る何かがあると言っているようなものです。なので、オリオンに道中を録画して貰いたくて、つい……」
「『つい』で相手の逆鱗に触れたってか!?交渉能力クソザコなんだからレオさんに任せりゃ良かっただろうが!」
「ご、ごもっともです……」
というより俺と交渉しているところにリーダーが口を挟んだんだけどな。この腹黒は計算高い癖に交渉能力がポンコツなせいで色々としなくていい損を何度もしている。今回も報酬が激増した上、重いペナルティまで設定されてしまった。
「ペルちゃんも落ち着こうや。リーダーが口を挟むんを予想できとったのに止められんかったうちらにも問題がないわけじゃないよ?」
「さて、ジャコビニの言うとおりだ。気を取り直して報酬を用意するぞ。組合に素材を大量に持ち込めば値崩れするのは昨日の時点で分かっているからな。どうすれば効率よく金を稼げるかを考える必要がある」
「それについては私に考えがあります。昨日と今朝で手に入れた白蛇の装備、特に私の槍に関しては組合で見積もりを出した上で渡す。そして素材についてはデルタに装備品へ加工して貰った上でプレイヤーに売却する。現時点ではプレイヤー間で流通していないものだ。当初の予定より少し高く売り捌けば目標金額に届くだろう」
「おいおい、残業代は出してくれよ?」
「そ、そこは自分で妻と交渉してください」
「分かった。旦那のせいで苦労する羽目になったって言っとくわ」
「ちょ、待って、それはやめてください!」
リーダーの言う『妻』とは"流星群"のサブリーダーのライラのことだ。普段は温厚な人ほど怒らせると怖いを体現したような女性で、もし今回の顛末をライラに知られればリーダーは「またアイちゃんに迷惑掛けたの?」とドスの効いた声で怒られるに違いない。
ちなみに今は俺がサブリーダーの代理を務めている。それというのも半年前に長男が生まれたことで育児休暇を取ったからだ。予定では再来週には復帰することになっているが、それまでは"流星群"の裏方仕事をしてくれている。ほんと頭が上がらない。
「つうか、問題はオリオンがいねぇと安定して白蛇倒せねぇことだろ。位階も29で止まっちまったし、位階を30以上にする方法も探さなきゃなんねぇ。どうすんだ?」
「それについては仮説がある。位階は9、19、29と10の倍数から1引いた位階で止まる傾向があることが分かっている。位階が9以上のモンスターを倒さなければ位階10になれないことは既に分かっている。掲示板の書き込みによれば位階10に上がっているプレイヤーの多くがゴブリンの亜種、位階20以上のプレイヤーはゴブリンの進化個体を倒したことがあるらしい」
「つまり?」
「位階29以上のモンスターを倒す必要があると私は考えた。この辺りに出現するモンスターの中で条件を満たすモンスターがいないかテコの組合で確認したところアルテラ近辺に1種だけ平均位階32のモンスターがいることが分かった」
「さっさと結論を言えっ!」
ペルセウスの容赦のない蹴りがリーダーを襲う!
パーティ内だと普通な赤になる行為でもセーフなのは昨日デルタがリーダーをぶん殴った時に判明している。
そのせいかツッコミ(の見た目)が回数を重ねるごとに派手になっている気がする。
「ぐふっ……南の海岸線に稀に出現するらしいDeep Sea Turtleという亀のモンスターだ。魔術と防御に優れているらしい」
こうして俺たち"流星群"は金策と覚醒を獲得するためのキーアイテムの捜索と並行して亀に関する情報収集もすることになった。
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お読みいただきありがとうございます。
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