VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

文字の大きさ
73 / 228
本編

第58話 マヨイはギルドを立ち上げる。

しおりを挟む

「ねぇ藍香、スタンあった?」

「ないわね……本当にあるのかしら?」

 木を魔力弾で切り倒してできた木材を回収し終わった僕らが回収した木材の内訳を確認したが、ほとんどがゼパース・ウッドで加工しやすいと聞いたスタン・ウッドは1本もなかった。

「ゼパース・ウッドが326本……もっと必要かしら?」

「供給過多になってもプレイヤーに渡さず、僕らで使えばいいし500本くらい回収しておくか」

「そうね」

「それじゃぁ……魔力弾×300」

 先ほどと同じように刃のように形を変化させた魔力弾を南側の木々に向けて放つ。魔力弾は木を切り倒すと何故か消滅してしまうので、放った魔力弾の数が入手できる木材の最大数になる。最大数を割る要因は思いつくけれど確証はない。いずれ暇な時に検証しようと思う。

「266本……全部ゼパース・ウッドね」

「スタンなんてなかった?」

「まぁ……木こりプレイしてるプレイヤーが見つけてくれるわよ」

「それもそうか」

 2回の魔力弾斉射で合計592本のゼパース・ウッドを手に入れた僕らは歩いてテコまで戻った。やはり道中、すれ違うプレイヤーから何やら見られているような気がした。僕らの配信が原因である可能性が高いので、しばらくは我慢すべきだろう。

「これは想定以上だね」

「そうね」

 テコの組合に入ると鬱陶しい視線は更に増えた。特に非戦闘系のプレイヤーが多いようだ。こちらに視線を向けているプレイヤーのほとんどが加工の素質を持っている。
 鬱陶しい視線を無視して前回と同じ受付口に向かう。視界の端やな数十分前に来た時と同じように受付嬢の前だけ混雑しているのが見える。このゲームの世界にも過労死ってあるんだろうか。

「おや、もう戻ってきたのかい?」

「はい。それで300本くらい回収したのですが、僕らは市場を混乱させたくありません。どのくらい納品するのが適切でしょうか?」

「さっ……ちょっと待って貰えるかな」

「分かりました」

 少なく見積もったのは自分たちで使う分を確保するためだ。日曜大工DIYに使うだけでなく、錬金術の素材としても優秀そうなので、僕が今思っている以上に使い道がある気がする。

「確認してきたよ。200本納めて貰えれば当面は足りるそうだ。そこの彼女と100本づつ納品すればギルドを組織するための信用点も十分だろう。ここで出すわけにもいかないから裏にある倉庫に来て欲しい」

「分かりました」

 昼過ぎに利用した訓練場の奥にある倉庫まで案内されてゼパース・ウッドを200本納めた僕らは対価として2000Rを渡された。僕も藍香も物納と言われたのでタダ働きだと思っいたので嬉しい誤算だ。
 そのまま受付に戻らず別室に通された僕らはギルドを組織するための要項が書かれた紙と羽根ペンを渡された。個人情報を保護するためらしい。

「ギルマスはマヨイ、サブマスは私でいいわよね?」

「管理や運営なんて僕には無理だと思うけどなぁ……」

 ギルマスというのはギルドの責任者のことだ。ギルドの人数が多いほどギルドの管理や運営は大変になるイメージがある。僕のような行き当たりばったりな人間には向かない役職だ。
 しかし、そんな僕の意見を無視して藍香はギルドのギルドマスターの欄に僕の名前を書き込んでしまった。

「活動内容は何て書けばいいかしら?」

「メンバーによる相互互助でいいんじゃない?」

「そうね。あとは募集方法はメンバーによる推薦のみで」

「だね。あとは……もうない?」


ギルド名:迷い家
責任者名ギルドマスター:マヨイ
活動内容:メンバーによる相互互助
募集方法:メンバーによる推薦
受付人名:ブライト


 ギルド名は藍香のアイデアが採用された。そもそも僕はネーミングセンスがないし特に反対する理由もない。それにしても受付の人の名前はブライトさんと言うらしい。左舷の弾幕を気にしてそうな名前だ。

「書けたわ」

「記載漏れは……ないね。審査に少し時間が掛かるけど、問題なく受理されると思うよ」

「「ありがとうございます」」

「こちらこそ、これからもよろしくね」

 その後、僕らは2000R分の癒草の採取依頼をギルド"迷い家"の名義で出してから組合をあとにした。依頼の達成状況は組合の受付に直接確認しなければならないようなので、しばらくはテコを中心に活動することになりそうだ。

「なし崩し的にギルドを立ち上げちゃったわけだど次は何する?」

「とりあえずポーションで資金稼ぎかな。掲示板で見た限りは相場そこそこ高そうだし、品質ある程度抑えたものを量産すればプレイヤーに飛ぶように売れる思う」

「なら私は変異種のリストの下の方のモンスターに挑んでくるわ」

「分かった。僕は掲示板で情報収集しつつ適当にテコを散策してるよ」


[ギルド:ギルド『迷い家』の結成が承認されました]
[ワールドアナウンス:ギルドを結成したプレイヤーが現れました。ヘルプにギルドの項目が追加されます]
[CIL運営:第1回イベントのお知らせ]
[CiL運営:不具合の修正のお知らせ]
[CIL運営:スキル性能調整のお知らせ]


 僕らが別行動を取ろうとしたタイミングで運営から大量の情報が投げ込まれた。まず何から確認しようか。


────────────────
お読みいただきありがとうございます。
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...