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本編
第58話 マヨイはギルドを立ち上げる。
しおりを挟む「ねぇ藍香、スタンあった?」
「ないわね……本当にあるのかしら?」
木を魔力弾で切り倒してできた木材を回収し終わった僕らが回収した木材の内訳を確認したが、ほとんどがゼパース・ウッドで加工しやすいと聞いたスタン・ウッドは1本もなかった。
「ゼパース・ウッドが326本……もっと必要かしら?」
「供給過多になってもプレイヤーに渡さず、僕らで使えばいいし500本くらい回収しておくか」
「そうね」
「それじゃぁ……魔力弾×300」
先ほどと同じように刃のように形を変化させた魔力弾を南側の木々に向けて放つ。魔力弾は木を切り倒すと何故か消滅してしまうので、放った魔力弾の数が入手できる木材の最大数になる。最大数を割る要因は思いつくけれど確証はない。いずれ暇な時に検証しようと思う。
「266本……全部ゼパース・ウッドね」
「スタンなんてなかった?」
「まぁ……木こりプレイしてるプレイヤーが見つけてくれるわよ」
「それもそうか」
2回の魔力弾斉射で合計592本のゼパース・ウッドを手に入れた僕らは歩いてテコまで戻った。やはり道中、すれ違うプレイヤーから何やら見られているような気がした。僕らの配信が原因である可能性が高いので、しばらくは我慢すべきだろう。
「これは想定以上だね」
「そうね」
テコの組合に入ると鬱陶しい視線は更に増えた。特に非戦闘系のプレイヤーが多いようだ。こちらに視線を向けているプレイヤーのほとんどが加工の素質を持っている。
鬱陶しい視線を無視して前回と同じ受付口に向かう。視界の端やな数十分前に来た時と同じように受付嬢の前だけ混雑しているのが見える。このゲームの世界にも過労死ってあるんだろうか。
「おや、もう戻ってきたのかい?」
「はい。それで300本くらい回収したのですが、僕らは市場を混乱させたくありません。どのくらい納品するのが適切でしょうか?」
「さっ……ちょっと待って貰えるかな」
「分かりました」
少なく見積もったのは自分たちで使う分を確保するためだ。日曜大工に使うだけでなく、錬金術の素材としても優秀そうなので、僕が今思っている以上に使い道がある気がする。
「確認してきたよ。200本納めて貰えれば当面は足りるそうだ。そこの彼女と100本づつ納品すればギルドを組織するための信用点も十分だろう。ここで出すわけにもいかないから裏にある倉庫に来て欲しい」
「分かりました」
昼過ぎに利用した訓練場の奥にある倉庫まで案内されてゼパース・ウッドを200本納めた僕らは対価として2000Rを渡された。僕も藍香も物納と言われたのでタダ働きだと思っいたので嬉しい誤算だ。
そのまま受付に戻らず別室に通された僕らはギルドを組織するための要項が書かれた紙と羽根ペンを渡された。個人情報を保護するためらしい。
「ギルマスはマヨイ、サブマスは私でいいわよね?」
「管理や運営なんて僕には無理だと思うけどなぁ……」
ギルマスというのはギルドの責任者のことだ。ギルドの人数が多いほどギルドの管理や運営は大変になるイメージがある。僕のような行き当たりばったりな人間には向かない役職だ。
しかし、そんな僕の意見を無視して藍香はギルドのギルドマスターの欄に僕の名前を書き込んでしまった。
「活動内容は何て書けばいいかしら?」
「メンバーによる相互互助でいいんじゃない?」
「そうね。あとは募集方法はメンバーによる推薦のみで」
「だね。あとは……もうない?」
ギルド名:迷い家
責任者名:マヨイ
活動内容:メンバーによる相互互助
募集方法:メンバーによる推薦
受付人名:ブライト
ギルド名は藍香のアイデアが採用された。そもそも僕はネーミングセンスがないし特に反対する理由もない。それにしても受付の人の名前はブライトさんと言うらしい。左舷の弾幕を気にしてそうな名前だ。
「書けたわ」
「記載漏れは……ないね。審査に少し時間が掛かるけど、問題なく受理されると思うよ」
「「ありがとうございます」」
「こちらこそ、これからもよろしくね」
その後、僕らは2000R分の癒草の採取依頼をギルド"迷い家"の名義で出してから組合をあとにした。依頼の達成状況は組合の受付に直接確認しなければならないようなので、しばらくはテコを中心に活動することになりそうだ。
「なし崩し的にギルドを立ち上げちゃったわけだど次は何する?」
「とりあえずポーションで資金稼ぎかな。掲示板で見た限りは相場そこそこ高そうだし、品質ある程度抑えたものを量産すればプレイヤーに飛ぶように売れる思う」
「なら私は変異種のリストの下の方のモンスターに挑んでくるわ」
「分かった。僕は掲示板で情報収集しつつ適当にテコを散策してるよ」
[ギルド:ギルド『迷い家』の結成が承認されました]
[ワールドアナウンス:ギルドを結成したプレイヤーが現れました。ヘルプにギルドの項目が追加されます]
[CIL運営:第1回イベントのお知らせ]
[CiL運営:不具合の修正のお知らせ]
[CIL運営:スキル性能調整のお知らせ]
僕らが別行動を取ろうとしたタイミングで運営から大量の情報が投げ込まれた。まず何から確認しようか。
────────────────
お読みいただきありがとうございます。
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