VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第66話 マヨイは本を読む。

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⚫︎マヨイ

 朝食の後、非公式の情報サイトや掲示板で情報を収集してからログインする。掲示板の話題は主にギルドとイベントについてが主だった。

「あ、そうか。今日は僕だけか」

 ログインしているフレンドを確認しようとして手が止まる。
 今日はギルドメンバーでログインできるのが僕しかいないのだ。藍香はクラスメイトとカラオケ、暁は朱莉ちゃんの家で昼前から一緒に夏休みの宿題をする予定だったはずだ。

「おはようございます。ご用件は何でしょうか」

「おはようございます。昨日はありがとうございました。このアイテムの相場を知りたいのですが、教えて貰うことは出来ますか?」

 受付でウーバーヒール・ポーションの相場を確認することにした。元の材料費は1本で3~4Rの癒草と加工施設で自由に使える水、あとは僕の魔力だけだ。回復量は多いけれど組合で売っている回復薬が1本50Rなので似たような金額になるはずだ。

「回復薬もポーションも性質、その回復できる体力や傷の度合によって値段が決まります」

「はい」

「このポーションの性質なら1本で10000Rほどになるでしょう」

「え、そんなにするんですか!?」

 それと同じ性質のポーションが619本、それより性質の良いポーションが1本あるんですが。しかも材料費は加工施設を借りた代金を含めて2100Rちょっとだ。いくらなんでも暴利が過ぎる。

「過回復が可能なポーションを作れるのは神々から加護や祝福をたまわった錬金術だけなので非常に希少なのですよ。それに兵士や傭兵からすれば自分の命に値段を付けるようなものですからね」

「な、なるほど?」

 称号の明記されていない効果、ということだろうか。
 ゲームに登場する神様を信仰する気はないけれど、少なくない恩恵を授かっている身としては感謝の言葉くらいは伝えたいな。
 この手のゲームの神様は設定だけで姿を見せなかったり、特殊な条件を満たさないと会えなかったり、あるいはNPCに紛れ込んでいたりと様々なケースが考えられる。1つ目でないことを運営に期待しておこう。

「テコ東部高原地帯でスケルトンが大量発生して、テコとエイトとを結ぶ街道が使用できない状態にあることはご存知ですか?」

「ちょっとだけ聞いた気がします」

「それを解消するために領軍と組合が協力して事に当たっているのですが、武器防具やポーションなどの消耗が激しいのです。可能ならウーバーヒール・ポーションを300ほど卸して貰えないでしょつか」

「でも過回復?するポーションの場合は中毒が発生するのでは?」

「それに関してはポーション中毒用の抗中毒薬を併用すれば問題ありませんよ」

「へぇ……それは知りませんでした」

「まだ調薬や錬金術を覚えたばかりですか?それなら調薬指南書や錬金術指南書を買うといいでしょう。調薬指南書は初心者向けから上級者向けまでの3冊で3500R、錬金術指南書は初心者向けの1冊で500Rなのでポーション1本でお釣りが出ますね」

「その指南書は誰にでも買えるのですか?」

 指南書、特に錬金術の指南書は絶対に確保する必要がある。
 僕以外に錬金術を習得しているプレイヤーがいないので、掲示板から情報を集めるという手段は使えないからだ。それに調薬の指南書に関しても初耳だ。これの入手条件も含めて知っておきたい。

「誰にでもではないですね。正式な組合員、つまり特定のギルドに所属している方にのみ案内しています」

「なら僕は条件を満たしているんですね。買わせていただきます」

 僕は計4冊の指南書を4000Rで購入した。ついでにウーバーヒール・ポーションを300個売却したので収支的には大幅なプラスだ。
 指南書を拡散すれば調薬スキルを持ったプレイヤーは間違いなく既存のギルドに押しかけるだろう。もしかきたら自分でギルドを立ち上げるプレイヤーも出るかもしれない。この調子なら鍛冶や裁縫などにも指南書はあるだろうから加工系プレイヤーでギルドを作るなんて話も出てくると思う。


…………………………………


……………………………


………………………


 広◯苑ほどではないけれど、それなりに分厚い本を4冊購入した僕は読書のために組合近くのカフェテリアに移動した。加工施設の中で読むのも考えたのだけど、何をするにしても素材が必要になる。僕の手元にあるのは昨日手に入れた宝石類とゴーレム素材、600個弱のウーバーヒール・ポーションだけだ。何が作れるのか確認してから借りた方が利用費を無駄に支払わなくて済むと考えたのだ。
 ちなみに何も買わないのも店側の迷惑になるので15#__・__#Rのサンドイッチを購入して食べている。美味しい。

「薬関係は素材を乾燥させて砕いた粉末を……って回復薬もか」

 掲示板に書き込まれていた回復薬の作り方には乾燥させる工程は書かれていなかった。未発見の情報、というよりは誰かが秘匿しているんだろう。注釈の部分には素材に魔力を与えることで性能が向上することが書かれていた。

「調薬や調合は足し算、錬金術は掛け算なのか」

 掛け合わせた時の素材の性質に関して調薬や調合は足し算、錬金術は掛け算と覚えればいいようだ。性質を高めるのなら錬金術スキルは調薬や調合スキルの上位互換だ。
 しかし、錬金術指南書には錬金術スキルだけで素材を掛け合わせることは不可能だと書かれている。錬金術指南書には調薬や調合スキルの利用を前提とした工程も含まれているので、錬金術スキルは調薬や調合スキルを習得していることが前提なのだろう。

「人工魔石の作成?」

 錬金術指南書に書かれた説明によれば、錬金術士によって魔力を付与された石や宝石のことのようだ。人工魔石は使い魔の餌や素材になったり、武器や防具の装飾品としても使える汎用性の高い素材らしい。魔物からドロップする魔石の方が質の面で優れていることが多いが、付与された魔力量と属性、魔石の持つ特性によっては変異種由来の魔石と同等以上のものを作ることも可能らしい。
 作り方は石が持つ抗魔の性質を錬金術スキルで削除してから魔力を付与するだけだ。ポーションを作るよりも簡単なので、後で加工施設を借りた時にでも水晶を使って試してみよう。


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お読みいただきありがとうございます。

Rの日本円換算は考えてません。

店員「あの客、さっきから独り言ばっかり……」
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