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本編
第67話 マヨイは誘いを受ける。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
気がついたらカフェテリアで読書を始めて2時間近くが経過していた。サンドイッチ1つで粘るのも限界だろう。ひとまず調薬指南書と錬金術指南書の初級は読み終えることができた。
『こんにちは。シキだけど今大丈夫かな?』
『こんにちは、どうかしたの?』
カフェテリアを出て組合へ向かう途中、昨日知り合ったシキからフレンドコールがきた。
『テコの東でスケルトンが湧いてる話は知ってる?』
『ちょっとだけ組合で聞いたよ。NPCに怪我人が結構出てるとか』
『その原因を突き止めたんだけど、私ら4人パーティだからパーティの枠余ってるんだよね。もし良かったら来ない?』
イベントのボスに挑むから助っ人に来て欲しいということか。
ボスのドロップに関しては良くて山分けだろうから期待薄だけど、まだ見ぬボスに興味がないわけじゃない。
『……行くよ。どこで合流する?』
『テコの東門にいるよ。何分くらいで着く?』
『組合前にいるから5分も掛からないと思う』
『分かった。東門を出てすぐの場所で待ってるから』
こうして僕は東門に向かうことになった。
ギルドメンバーではないプレイヤーと交流して人脈を広げるのもギルドマスターに求められる仕事の1つだから、これは決してギルドメンバーが誰もログインしない寂しさを紛らわすためなんかじゃない。ないったらないのだ。
…………………………………
……………………………
………………………
『こっち、こっち!』
東門から出たところでシキが手を振っているのが見えたので小走りで駆け寄る。
「この人が私のフレンドのマヨイくん。実は魔術士ってこと以外は知らないけど、助っ人としてお呼びしました!」
「あのさー、これからボスに挑むのに初期服の奴を連れてくとか正気か?」
そう指摘したのは革鎧を着た赤いショートヘアが特徴的な女性。
名前はショウ、位階は21で公開している素質は拳闘士と狩人だ。
「まぁまぁ、シキにも考えがあるみたいですし……」
そう言ってショウを宥めているのはマリア、位階はパーティで最も高い23だ。素質は槍術士と信徒、このパーティは物理一辺倒だと聞いていたけれどヒーラーはいるらしい。
「えっと、フレンドには非公開に設定してても名前と位階が分かるんだ。マヨイは私のフレンドの中で1番位階が高いんだよ」
「はぁ!?こいつが?」
「…………マリアより?」
「えっと、これ言って良いの?」
そうか、シキが僕のプレイヤー名を知っていたのはフレンド欄に載っていたからか。盲点だった。ここで拒否するのは小火で済んでいるトラブルにガソリンを撒くようなものだろう。
ちなみに僕は彼女らに魔術士だと思われているのは公開されている素質が未だに魔術士のままだからだ。1度でも獲得した素質なら変化した後でも設定できる仕様は色々な意味で便利だ。錬金術士の素質を公開すれば覚醒の獲得以上に騒がれる可能性もある。
「なるべく秘密にして欲しいんだけど、秘密にしてもトラブルの種になるだけだし今回は構わないよ」
「ありがと。あのね、マヨイの位階は33なんだよ!」
「「はい?」」
「だから、マヨイの位階は33なんだよ!」
現在、テコ周辺にいるプレイヤーの平均は20前後くらいだ。
夏休み中にスタートした話題作ということもあって次々と新規プレイヤーが増えているため、全体的な位階の平均は15前後になるだろう。そんな状況で位階が33というのは、何かの冗談だと思われても仕方ない数字だ。
「……ん?」
シキが「マヨイの、位階は、33なの!」と壊れたオルゴールのように同じことを繰り返している中、僕は服の袖を誰かに引っ張られた。
「こんにちは」
僕の袖を引っ張っているのはシキの最後のパーティメンバーであるルイというプレイヤーだ。アバターの見た目年齢は小学校低学年ほど、長い黒髪をサイドポニーでまとめている姿は背伸びした幼児のような印象を受ける。
しかし、彼女こそシキのパーティの要となるプレイヤーだ。
位階は20とシキのパーティの中で最も低いが、素質が使役者と隠密と使徒、そして暗殺者と金の使徒の覚醒を獲得している。ステータス面では他のメンバーとは比較にならないはずだ。
彼女の足元には黒い毛と金の瞳が特徴的な小柄な狼が侍っている。この狼はルイがテイムしているモンスターなんだろう。まだ小さいからかカッコいいよりもカワイイという印象が強い。
「こんにちは」
「シキの言ってること、ほんと?」
「位階のことなら本当だよ」
「マヨイくん、ショウが信じてくれないの。ほんの少しの間でいいから位階を公開情報にしてくれないかな」
僕はメニューから公開設定を変更して位階の欄を公開した。
野良というか固定パーティに混ぜて貰うのだから、これは信用を得るための必要経費のようなものだ。
「マジかー、ってことは位階が1番高いのってマヨイ?」
「個人情報だから数字までは出さないけど、僕より位階の高いプレイヤーはいるよ」
これは藍香のことだ。昨日、変異種をソロで狩り続けたらしい藍香の位階は現在35になっている。まだ覚醒を1つしか獲得していないので僕の方がステータスは上だと思うけど、逆に言えば藍香が使徒に匹敵する覚醒を獲得したら逆転されてしまう。
「へぇ……でも何で初期服なんだ?」
「後衛の胴体装備って流通少ないし、低性能でも値段設定が少し高めなんだよ。だから当分は今のままでいいかなって思ってる」
「なるー。さっきは変に疑ってごめんね。そろそろ出発しよっか」
「いいよ。そういえば、そのボスの名前は分かってるの?」
「兵士からマリアが聞き出してくれたんだ。なんでもヤクって名前のモンスターらしいよ」
「そっか、高原地帯か……」
「どうしたの?」
「そのモンスターの名前に心当たりがあるんだ。テコ近隣で組合が確認している変異種──あ、変異種ってのはフィールドボスみたいなやつらのことね──そのリストの討伐難易度トップ3に名を連ねているモンスターに厄っていうモンスターがいるんだよ」
「「「「!!!???」」」」
そりゃ臨時の助っ人に呼んだ奴から初見のボスの情報が出てくれば驚くよね。ただ僕も名前を知っているだけで具体的な特徴は何も知らない。
「たぶん組合で特徴くらいは教えて貰えると思うから、組合に寄ってから挑まない?」
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
次話は掲示板回になります。
ルイ「幼女に見られた気がする。これでも高3なのに」
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