VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第97話 その頃の運営サイド3

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 マヨイが彩神から嘘と脚色たっぷりの話を聞かされていた頃、運営側では1人のプレイヤーが引き起こした事態をリアルタイムで観測している人物がいた。同業他社から引き抜かれたという経歴を持つ斎藤林檎りんごと"Continued in Legend"とは異なるゲームの運営チームからの助っ人に来ている蓬崎よもさき和馬かずまの2人だ。

「和馬さん、感情系のシステムってそっちで初めて導入されてたやつっすよね。こんなことありました?」

「あー、喜怒哀楽の波が異常に激しいプレイヤーが偶にやらかしてるよ……とはいえ複数の感情が同時に上限を超えるなんてのは初めて見るな」

 感情系のシステムとは言葉の通り"Continued in Legend"のプレイヤーの感情を脳波や言動などから読み取る仕組みのことだ。利用規約にはしっかりと記載されているのだが、大半のプレイヤーは認知していない。ちなみに大抵のプレイヤーは高くても観測上限の1~2割前後の数値で収まっているのでプレイヤーが感情値を意識することはほぼないと言っていい。

「他にも上限ギリギリの数値になってるのがありますね。この間のストレスの観測上限ぶっちした子といい……なんで強制ログアウトされないんすか?」

「まず異常な数値を出したプレイヤーをメンタルサポート用のAIが監視して俺たち運営に通知が届く、そして心拍数が規定値を超えたところで一般のプレイヤーから隔離、プレイヤーを落ち着かせてから強制ログアウトって段階を踏むんだ。だから心拍数が平常なら監視と報告だけで隔離や強制ログアウトは行われないんだよ」

「なんでっすか?」

「あー、こっちのプレイヤーでな。心拍数は平常なのに日に何度もメンタルサポートで隔離されてロクにゲームを進行出来なかったプレイヤーが1人いたんだよ」

「そのプレイヤー1人のためにシステム弄ったんすか!?」

「いくら脳波や言動で感情を観測しているとはいえ脳はブラックボックスの塊みたいなもんだからな。将来、医療や福祉の分野に役立てるためのサンプルを収集したいのが開発者の本音らしい。貴重なサンプルにゲームをやめてもらっちゃ困るって言って仕様を変更するためにデスマーチさせられたよ」

「ははは、おつかれさまっす」

「それにしてもこのプレイヤー凄いな」

「どうしたんすか?」

「このアイってプレイヤーの感情値の履歴を確認したら愛情と特定のプレイヤーへの接触欲が常に上限を超えてるんだよ」

「はい?」

「こういうのヤンデレっていうんだっけ?」

「いや、待ってください!佐藤さん!メンタルサポートに問題があるかもしれないっす」

「ったく……何よ、今は局長がいるじゃない。局長!」

 本来なら隔離するか否かに関係なく感情値──感情の種類と強さを指標化したもの──が上限を超えたプレイヤーはメンタルサポートの監視対象としてリストアップされていなければならない。しかし、くだんのプレイヤーはその監視対象のプレイヤーではないのだ。

「んー?ごめん、今から少し早めの昼休憩に入るから後よろしく」

「ふざけんな若作りババァ!職務怠慢だっつって上にチクってやる!」

「さ、佐藤さぁん!?」

 ここまで仕事を押し付けられても本人に面と向かって何か言うことはなかった佐藤がキレた。実際、ここ数日のトラブルらしいトラブルはほとんど佐藤に押し付けられていたのだから我慢の限界だったのだ。
 メンタルサポートのリスト漏れはゲームの進行にはなんら問題はないが、プレイヤーの健康安全上は大問題だ。こう見えてまだ平社員に過ぎない佐藤には手に余るのだ。

「はぁ……で何がどうしたの?」

「斎藤、説明して!」

「は、はいっす」

 その佐藤の形相に気圧されてしぶしぶといった様子で斎藤からの報告を聞かされた局長はしだいに顔色が悪くなっていく。まだ世間的には完全没入型のVR技術に対して懐疑的な声も根強く、今回の件は恰好の攻撃材料になりうるからだ。

「……そのプレイヤーの行動履歴を洗い直して原因を究明するわ。それと他に似たような事例がないか、その原因も含めてチェックするわよ!佐藤は仮眠室にいる奴らを叩き起こして来なさい!蓬崎さん、あなたの所ならメンタルサポート関係のチェックは経験あるわよね。そっちのチームから人員を貸してちょうだい。ほら、急いで!!」

「「うぇ!?」」

 佐藤は今から起す仮眠室で休憩中の同僚からの不平不満を想像して、蓬崎はかつて経験したデスマーチを思い出して悲鳴をあげた。そして我関せずと報告直後に逃げ出そうとした斎藤は……

「仕 事 か ら 逃 げ る な」

「ぐへっ」

 局長に襟首を掴まれモニターの前に座らされた。
 ちなみに普段から仕事を部下佐藤に押し付けている当人の言葉なので説得力はあんまりない。
 そんなこんなで他のゲームの運営チームから人員を借りての作業が開始された。


…………………………………


……………………………


………………………


 デスマーチ開始から19が経過した。
 途中、局長から「こいつらも使いなさい」と電話1本で読んだ壮年の社員たちも今は床で寝息を立てている。

「終わったーーーーー!!!」

「最終チェックしたらパッチ当てて詫び配るぞ」

 発端となったプレイヤーの行動履歴を確認し原因が"ログイン時点で感情値が上限に達していたこと"だと判明したのがチェック開始から4時間後のことだった。

「スキルや称号まで見直すハメになるなんてな……」

「気がついた佐藤さんの悲鳴が強烈だったっすね」

 ログインした時点で感情値を参照するスキルや称号の条件を満たしていたにも関わらず、それらを獲得できていなかった例が数件あったことに気がついたのは佐藤だった。

「遡ってスキルや称号を与えることにならなくてよかったっすね」

「あー、そうだな。そうなってたら今でも終わりが見えなかったろうな」

 遡及そきゅうしてスキルや称号を与えることはしないという決定は一部のプレイヤーから苦情が寄せられるかもしれないがアイテムの配布で勘弁して貰うしかないだろう。

「みんな疲れてるでしょうから今日は早めにあがっていいわよ」

「はいっす!」

 こうして"Continued in Legend"の運営チームはプレイヤーの知らないところでサービス終了の危機を乗り越えていた。

「佐藤さぁん!」

「少しは休ませないよぉぉおお!!」


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
感情の測定限界をぶっちぎったのは誰なんでしょうね?
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