VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

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本編

第106話 マヨイは翻弄される。

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⚫︎マヨイ

 昨日の夜は母さんのお小言でログイン出来なかったけれど、どちらにせよ藍香たちからのレベリング禁止令によってログインしてもやることがなかった。そしてゲーム8日目──イベント4日目──の今日もそれは変わらないはず

「マヨイ、ありがとう」

「アイたちからレベリング禁止されてるから暇なんだ」

「ん、タイミング良かった?」

「そうだね。それで僕にお願いって?」

 昼前にログインした直後、オリオンからフレンドコールが届いた。どうやら僕に頼みたいことがあるらしい。僕は現在、彼女と組合で合流して例の酒場にやってきている。昨日ここでログアウトしたのでログインした場所に戻ってきた形だ。道中で聞いた話によると藍香にこの酒場を教えたのはオリオンらしい。

「これ、全部あげる」

「え、いや、はい?」

 そう言ってオリオンがテーブルに出したのは髪飾りや指輪などの装飾品や回復薬などの消耗品だ。鑑定すると装飾品は全てが変異種からのドロップ品だった。

「私、このキャラ、消すから」

「え、なんで?」

「私、流星群からGHに移籍する。キャラ作り直す」

「へぇ……そうなんだ。ってことは預かっていて欲しいってこと?」

 キャラクターを削除する前に装備やアイテムを信用できるプレイヤーに預けておいてキャラクターを再作成した後で受け取ることで少し有利な状態からゲームを始めるというMMOでは使い古された手法がある。
 この手法は預けられたアイテムを持ち逃げするようなプレイヤーに渡してしまい泣き目を見た、なんて話も多い。それでとオリオンから見た僕や藍香のように現実での知り合いがいるなら話は話を通しやすい。もっとも、現実での知り合いだからと信用したら……なんて話もあるので絶対ではないんだけどね。

「違う。あげる」

「……なんで僕?アイじゃなくて?」

 どうやらオリオンは普通にくれるらしい。僕にメリットがあるなら引き受けるかどうかは別にして少し拍子抜けだ。しかし、だとすれば何故オリオンは僕を選んだんだろう。僕にこれらを渡すメリットが彼女にはないはずだ。何か裏があるとしか思えない。

「……アイ、会うの、怖い」

「何、なんか怒られることしたの?」

「昨日、アイと流星群の決闘、知ってる?」

 オリオンが油断して藍香に瞬殺されたのは知ってる。
 あと少し気になったのは藍香にしては珍しく指揮役シブンギを最後に倒したことだ。あれはシブンギに無力感や絶望感を覚えさせるためにわざとやってたんだろう。

「あー、うん。アイがアーカイブに残してくれてたから観たよ」

「胸を貫かれた時、アイの顔、邪魔な石を蹴飛ばした、顔だった……」

 アイの心境はまさにオリオンの感じた通りだったんだろう。圧倒的に有利な立場だった藍香が最も警戒していたのは持久戦に持ち込まれるパターンだった。だからこそオリオンを含めた回復役を早々に倒しに行ったんだろうけど、あの時の藍香はおそらくオリオン個人を見ていなかった。真っ先に倒してしまいたい回復役の1人が余所見して隙だらけだったから最初に倒しただけだろう。

「うん、それで?」

「アイが怖い。すごく、怖い。今は会いたくない」

 もしかしてトラウマにでもなってるのかな。
 僕としてはステータス差が開きすぎている相手との決闘を受けた流星群──というかシブンギ──の狙いは分からないけれど、どうせ藍香の実力を低く見積もって失敗しただけだろう。最初は意図して惨敗することで周囲の同情を誘い、藍香や僕を悪者にするつもりなのかとも思ったけれど、それなら不意打ちなんてしないよね。

「アイを怒らせた流星群が悪いよ。それに勝ち目の薄い決闘の申し出を受けたのは流星群だ。それに参加したんだからオリオンのそれは自業自得なんじゃない?」

「…………うん。でも怖いからショウに全部あげる」

「一応、確認しておくけど、これは例の契約の支払いとは別扱いだよね?」

 差し出された装飾品やアイテムの相場は確認しないことには分からないけれど少なくとも数十万Rはするだろう。これだけで例の契約の支払いが達成される可能性だってなくはない。そうなれば藍香が色々としたことが水の泡になってしまう。

「……大丈夫、問題ない」

「ならありがたく貰っておくよ」

「ありがとう」

 貰った装飾品やアイテムは藍香たちに相談して──

「って、何脱いでんの!?」

「ん、全部、あげる」

「だとしても!ここ酒場だよ!?それにゲームなんだからメニューから操作すればいいじゃん!」

「そうだった」

 慌てて席を立って目の前でローブを脱ごうとするオリオンを止める。この酒場に他のプレイヤーはいないようだけどNPCはいるわけで……彼らからの視線がものすごく痛い。
 オリオンはメニューから装備を初期のものに変更すると畳まれたローブを差し出してきた。NPCからの視線が更に僕に突き刺さる。受け取るまではテコでも動かない様子の彼女に根負けした僕は仕方なくローブを受け取った。

「はぁ……で、何か頼みたいことでもあるの?」

 スポンサー契約を解除されて崖っぷちにあるらしい流星群を助けて欲しいとか、本来なら僕が受けることに何のメリットもない頼み事を聞いてもらうためにアイテムを差し出したんだろう。

「ない」

「え」

「もったいなかったから、あげた」

 そう僕に告げるとオリオンは目の前から消えた。
 このゲームではログアウトしても30秒ほどアバターがゲーム内に残るのでオリオンはログアウトしたわけではなくワールドを切り替えたんだろう。どちらにせよ追い掛けてることは難しそうだ。

「…………なんだったんだ、いったい?」

 オリオンの意図を測りかねた僕は何か釈然しない心持ちのまま酒場をあとにした。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。

疑り深いマヨイvsど天然オリオン
マヨイはオリオンの気紛れに翻弄され彼女の持っていた装備品などを全て押し付けられました。
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