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本編
第123話 マヨイは観察する。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
「そんなの弱らせてテイムすればいいじゃん」
「あ」
朝食後、昨夜の周回中に気がついたことを暁に伝えると僕が失念していたことをあっさりと告げられた。ククルをテイムしたことで"モンスターを弱らせてテイムさせる"というパターンが抜け落ちていたらしい。
「兄さんって偶に抜けてるよね」
「…………かもね」
暁にだけは言われたくなかったけど、今回ばかりは僕の早とちりだったのだから仕方ない。ただ周回して魔物素材を集める必要はなくなったと考えて良さそうだ。
「あ、そうだ。兄さん、トリスって覚えてる?」
「暁のストーカー?」
「…………違うけど。私やクレアのクラスメイトだよ。で、そのトリスがギルドを立ち上げたの。それで私やクレアのところには勧誘とかは今のところは来てないんだけど……」
「だけど?」
「織姫が何か色々と脅されてるみたいなの。友達だし助けてあげたいんだけど、クラスメイトはトリスに味方しててアテにならないんだよね」
「もう少し詳しく」
脅されている、というのは穏やかじゃない。しかし、それが本当なら運営に通報すればいいだけの話だ。暁の話では通報することが出来ない状況なのか、もしくはクラスメイトだから躊躇っているのか、他の理由があるのか判断つかない。
ちなみに暁のクラスメイトの大半がトリスに味方している理由は織姫と暁、クレアちゃんの3人を除けばトリスがクラスメイトの中で最も強く、位階の低いクラスメイトのレベリングを助けたりしているかららしい。意外なことに人望自体はそこそこあるようだ。
「織姫を迷い家に参加させられないかな?」
「織姫がどう思ってるのかは確認したか?」
「え、してない」
「はぁ……してこい。話はそれからだ」
「分かった!」
僕も織姫のことが嫌いなわけじゃない。しかし、僕は彼女に迷い家に加入するための条件として"僕らについて来れるだけのプレイヤースキルを身につける"ことを要求した。
これに関しては実際に僕らとパーティを組んで貰わなければ判断がつけられないことだ。それで足手まといになるようなら織姫が迷い家に参加したところで不幸になるだけだ。
前言撤回してまで加入を認めることはお互いのためにならない。
…………………………………
……………………………
………………………
ゲーム10日目、イベントも今日を含めて残り2日と大詰めだ。
そして今日は流星群との契約の締め切り日でもある。
藍香の話ではシブンギは鬱病になっていたらしい。いつからかは不明だけど、定期的に薬を飲んだりカウンセリングを受ける必要があるのだとか。おそらくゲームにログインする余裕はないだろう。
ちなみに藍香のソースはオリオンだ。シブンギの容態を外部に伝えるのは守秘義務違反だと思うんだけど、そこら辺は大丈夫なのだろうか。
「んにゅ……パパおはよー」
「おはよう、ククル」
「きょうはなにするのー?」
「まずはアイたちと情報を共有して、しばらくイベントを周回しようかな」
魔物素材を集める必要がないという僕の予測はまだ藍香たちと共有できていない。なのでログインしてすぐに藍香たちと情報を共有するためにギルドチャットに原竜のテイムについて書き込むことにした。
「ん?」
「あれなにー?」
そしてイベントエリアに向かうためにテコの組合から南門に足を向けると、南門の方から喧騒のような音が聞こえてきた。
近づくにつれて明瞭に聞こえるようになったそれは瓦礫が崩れたような低重音、硬いものに金属が弾かれたような硬質な高い音、そして誰かに命令するような鋭い印象を受ける男の声などが入り乱れた戦闘音だった。
「何あれ?」
「きらいー!」
「ん?ククルはあれが何か分かるの?」
「わかんないよ?でもきらいー!」
渦中にククルが嫌悪するものがあるらしい。
更に近づくと顔見知りの──というかフレンド登録済みの──プレイヤーの姿を見つけた。あまり話したことはないけど、事情くらいは教えてくれるだろう。
「ショウ」
「あ、マヨイじゃん!ナイスタイミング!」
「何があったの?」
「紫色の小さなドラゴンが暴れてるんだよっ」
「ドラゴン?」
「テイムされたのが暴走してるっぽいんだけど、肝心のテイマーの姿はないんだよ。しかも───」
ショウも伝聞で知ったらしいが、渦中のテイムされた紫色のドラゴンは昨夜もテコのリスポーンエリアに出現して猛威を振るっていたらしい。おかげでテコのリスポーンエリアは使用不可なのだとか。そして今から30分ほど前に再び現れたドラゴンによってリスポーンエリアを復旧しようとしていたNPCが怪我、そのNPCを庇ったプレイヤーが死亡したらしい。
タチの悪いことにリスポーンエリアが破壊されているせいでアルテラかソプラを選択してリスポーンするしかなく、死亡したプレイヤーが戦線に復帰するには1時間近く必要になるそうだ。
「さっき来たクラウンズってギルドの人たちが抑えてくれてるから街の被害とかは食い止められてるけど、すでにテコにいた中堅どころは壊滅だ……」
暴れているドラゴンはテイムされているらしく、倒せばテイマーの元で正気に復活する仕様らしい。
ちなみにクラウンズのギルマスであるノウアングラウスさんはKING'Sというプロゲーマーチームのリーダーだ。僕とはチャラ王の一件で面識があるくらいだけど、サブリーダーであるマードックさんとは配信者時代に何度か対戦している。
「ん、あれって……」
「どうした?」
「いや、ちょっと顔見知りがいて驚いただけ」
「へぇ……」
クラウンズの人たちと一緒になって戦闘に参加しているプレイヤーの1人に見覚えがあった。2本の大剣を振り回している彼のプレイヤー名はチャラ王。藍香をナンパした迷惑プレイヤーだ。
「っと、悪りぃ。シキたちが住民の避難誘導してるから手伝ってくるわ」
「またね」
「おう」
そう言ってショウは組合の方へと走っていった。
ショウの位階は40と現在のプレイヤーの平均よりも少し高めではあるけれど、どうやらドラゴンと戦うつもりはないらしい。ステータスが云々という話ではなく、目の前で自分よりも強いプレイヤーが殺されるのを見て戦意喪失したのだろう。
「さて、ここでドラゴンを倒せば彼を助けることになるのか……」
「あのひとたちよわいからしんじゃうよー?」
ノウアングラウスさんが回避盾としてヘイトと稼ぎ、チャラ王とマードックさんが攻撃を仕掛ける。マードックさんの奥さんであるサタナリアさんがバフとデバフ、僕が名前を知らない2人がノウアングラウスを回復している。
「確かに微妙に回復が間に合ってないからジリ貧だね」
「じりひん?」
「どんどん余裕がなくなっていくってことだね」
傍目から見てバランスの取れた良いパーティだと思うけど、チャラ王とマードックさんが物理攻撃一辺倒なのがよくない。紫色のドラゴンの物理防御力を突破できず、ダメージをロクに与えられていないのだ。
「じりひんー!」
手を出しても「余計なことをしやがって」と文句を言われるかもしれないし、手を出さなくても「見殺しにしやがって」と文句を言われるだろう。
「………………負けが確定するか助けを求められるまで見てようか」
「みてるー!」
僕が他のプレイヤーに魔力弾を隠しているのと同じように彼らも何か隠しているだけという可能性もある。ソプラでワイバーンからNPCを守った彼らのことだから、この状況で故意に負けるなんてことはしないだろう。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
更生したのにチャラ王カワイソス回でした。
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