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本編
第124話 チャラ王は手札を晒す。
しおりを挟む⚫︎チャラ王
「うらぁぁぁぁぁぁあああ!!」
2本の大剣で目の前の紫色のドラゴンを斬りつける。
しかし、自前の技能の効果やナリアさんの支援で攻撃力はかなり上がっているはずなのにほとんどダメージを与えられていない。俺と同じ前衛のドックさんは槍を使った貫通属性攻撃なので俺よりはマシだけど、それでも与えたダメージ量は似たような感じだ。
「チャラくん、離れすぎ!」
「すいませんっ」
ナリアさんがドラゴンに弱体化を掛けるための射線を確保するために数歩下がったら、パーティのメインヒーラーであるクリミアさんの支援技能が届く範囲から出てしまっていた。
この人たちの無駄のない安定した連携にはまだ慣れないけれど、パーティメンバーや敵のスキルだけでなく、再使用が可能となる時間なども頭に入れて立ち回る姿は凄くカッコいいと思う。
「ブレスくるぞ!10・9・8……」
「挑発!…………フォートレススタンス!」
「「ヒール」」
ドックさんがブレス攻撃を予測、カウントダウンを始めたのに反応してノウアンさんがターゲットを引きつける。
俺には戦闘中に正確に時間を測るなんて真似はまだ出来ない。ノウアンさんに誘われるがままプロゲーマーになったけれど、実力は間違いなく1番下だ。
「突進くるぞ!10・9・8……」
「持続回復、ヒール」
「挑発!ディフェンダー」
「筋力低下、防御強化」
「ヒール」
「ハイヒール」
今のところドラゴンの攻撃パターンは腕や尻尾を振り回すだけの攻撃とブレス攻撃、そして1度離れてからの突進攻撃の3つしかない。でもブレスと突進は強力でノウアンさんがフォートレススタンスを使わずに攻撃を受けた場合、支援込みでも最大値の80%以上もダメージを受けてしまう。
「チャラ王、次の挑発に合わせろ!」
「はいっ」
これを使えば対人戦で圧倒的に格上のドックさんとも良い勝負ができるようになるんだけれど、1日に1回しか使えないから余程のことがなければ自重するように言われている俺の切り札。
「ブレスくるぞ!10・9・8……」
「挑発!」
「……希望!!」
希望。あの屈辱的な惨敗の直後に手に入れた自身と自身の味方全体に複数の効果を発揮するノウアンさん曰く"バランスブレイカー"な技能だ。確かに俺と味方の体力と魔力を全回復、30秒間のステータスの大幅な上昇、不利効果の解除と無効化、こんなのチートもいいところだと思う。
「うらぁぁぁぁぁぁあああ!!大剣乱舞!」
戦闘中に大声を出すだけで簡単に発動できる戦場の雄叫びを使いながら両手の大剣を振り回す。ノウアンさんたちの邪魔にならないようにドラゴンを斬りつける。
相変わらずドラゴンの鱗に阻まれる感触はあるものの、さっきまでと違って確実にドラゴンの体力を削れている。
しかし、ドックさんたちの顔は険しいままだ。
「ちっ、足りねぇ……」
「ルー!」
「ホーリーセイバー!」
いつもなら攻撃にも参加している拳闘士のルーさんは兼任しているサブの回復役に集中している。どうやら紫色のドラゴンに直接触れると全ステータスが低下する"呪い"の状態異常になってしまうようだ。
そんなルーさんが使ったホーリーセイバーは味方1人の武器に聖属性を付与する効果がある。再使用までの間隔が長いのが欠点だ。
「これでも足りねぇか……ノウアン!」
「分かっている!削れるところまで削るぞ!」
ここで俺もこのままでは回復が間に合わずにノウアンさんが倒れ、戦線が崩壊するのは時間の問題なのが分かった。
「そうじゃねェ!マヨイ、手伝ってくれ!」
あいつがいるのか?
そんな疑問を浮かべた直後、灰色の何かが俺たちとドラゴンの間に割り込んだ。
⚫︎マヨイ
「そうじゃねェ!マヨイ、手伝ってくれ!」
なかなか良いものが見られたと思っていたらマードックさんからSOSが届いた。どうやら彼も今のままだと倒せないと判断したらしい。それにしても戦闘中なのにパーティ全体に的確な指示を出しながら野次馬の1人でしかない僕まで認識しているのは素直に凄いと思う。
「ま、これで大手を振って助けに行けるか」
狂狼化を使った僕は、ノウアングラウスさんと紫色のドラゴンの間に入り込んで挨拶代わりに腹部をぶん殴った。いわゆる腹パンだ。ついでに高位鑑定を使って紫色のドラゴンのステータスを確認したのだけど、昨日の夜に遭遇した原竜の成体とは比べものにならないほど弱い。
「がっ」
腹パンされてちょうど良い高さまで下がった頭を踵落としで地面に叩きつける。この時点で介入前には6割弱残っていたドラゴンの体力は1割を切った。やはり弱い。
「ぎゃっ」
あとは頭を踏みつけている足の裏から──
「(形状変化・魔力弾×50000)」
「どーんっ!」
ドォォォォォォォォォンッッ!!!
こうして僕はロクに苦労することもなく紫色の羽付きトカゲを討伐した。戦闘の余波でテコのリスポーンエリアに巨大なクレーターを作ってしまったけれど、それでも誤射して街や街壁を破壊するよりはマシだろう。
「マードックさん、お久しぶりです」
「お、おう。ありがとよ、おかげで助かったわ」
「あのままでも何とかなったんじゃないですか?」
「まさか。あの時点で9割方詰んでたさ」
どうやら僕がいなくてもどうにかなったらしい。
これだから手札を隠すのが上手い人は苦手だ。
「んっ、マヨイくんだね。ありがとう。マードックも言っているが本当に助かった」
「いえ、困った時はお互いさまですから」
握手を求められたので素直に握り返す。
ついでに高位鑑定でステータスも見てしまおう。どうせあっちも同じことしてるだろうし咎められはしないはずだ。高位鑑定の仕様上、接触した状態で使ったとしてもステータス差があれば名前や性別くらいしか表示されないので僕としては問題ない。
「あんな強いのに何で早く助けに来なかったんだよ!」
「チャラ!」
そう怒鳴ったのは例の迷惑プレイヤーだ。どうやら助けを求められるまで行動しなかった僕にお冠らしい。
「横殴りはマナー違反だからだ。そのくらいわかんだろ」
「うっ」
僕が何か言う前にマードックさんがチャラ王を嗜めた。
この場合の横殴りとは他のプレイヤーもしくはパーティが戦闘しているモンスターを第3者が攻撃するマナー違反行為のことだ。
「ま、そういうことだね」
「いいとこ取りじゃねぇか!」
「……マードックさん、ノウアングラウスさん。僕はこれで失礼します」
ちょうど藍香がログインしたらしい。ギルドチャットには「いつものカフェで3人とも待ってるわ」とメッセージが残されている。どうやら暁やクレアちゃんも一緒のようだ。
「します!」
「ん?ねこ……?どこから?」
ヒーラーをしていたクリミアというプレイヤーが僕の帽子の中にいるククルの鳴き声に気が付いたようだ。珍しいモンスターをテイムしているというだけで絡んでくるギルドがあるという話を掲示板で目にすることが増えてきている。野次馬の多いここでククルを衆目に晒すのは避けておきたい。
「すまないな。また機会があればゆっくりと話をしたいものだ」
「そうですね、機会があれば」
こうして僕ははクラウンズの人らと別れて藍香たちが待っているらしいカフェへと向かうことにした。背後でチャラ王が怒られているのが聞こえてくる。なんか小さな子に言い聞かせるような叱り方なのが気になったけどそれだけだ。
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
チャラ王はチートだとか騒いだりしなくなったので多少は成長してます。それでも(チャラ王だけは)勝てると思ってたところに乱入されているので納得いかなかったんでしょう。
名称:希望
分類:回復 強化 支援
説明:絶望がなければ希望は生まれない。
効果:自身と味方の体力を最大値を超えて回復する(+100%)
自身と味方の魔力を最大値を超えて回復する(+100%)
自身と味方の全ステータスを強化する(+100%/30秒)
自身と味方の不利効果の解除ならび無効化(30秒)
条件:戦闘中のみ使用可能
制限:使用後24時間使用不可
習得:[感情:絶望]の計測限界値を記録
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