211 / 228
本編
第198話 クレアはダメ押しする。
しおりを挟む⚫︎マヨイ
僕とシキが訓練場の様子を見に来たのを察知したらしい暁とルイは僕の顔を見ると何も聞いていないのに現在に至るまでの経緯を説明し始めた。
「で、アカトキとルイが模擬戦した結果が訓練場の半壊と畑の焼失、と」
「「……はい」」
僕は目の前で煙をあげている訓練場の外縁部と焼け野原になった元畑を見る。
これ修理費ってどれくらいかかるのかな?
「ギルドの施設って壊せるものなの……?」
「壊れるから壊れたんじゃない?」
「えぇ……」
そう思わなければやってられない。
「畑はともかく、訓練場の設備に関しては僕らにはどうにも出来ないからウォルターに相談しないといけないかな」
「「「ウォルター?」」」
「ウォルター・エイト。これから会いに行く領主様だよ」
「兄さんは面識があるんだっけ」
「シキたちと一緒に倒した厄の関係でね。この装備もその時に貰ったんだ」
「一緒じゃない。ボクたちは厄に手も足も出ないで死んだ」
確かに最初の不意打ちに対する肉壁くらいにしかなってなかったけど、それでもパーティを組んでたのは事実だ。そうでなければドロップを分配したりなんかしない。
「ただいま。これ何?」
「おかえり、アイ。うちのアホがやらかしたみたい」
「はぁ……アカトキ?」
「うっ……ごめんなさい」
「私に謝られても困るわ。とりあえず畑に色々と植えてたクレアには土下座してでも許して貰いなさい」
「あ……」
僕は知らなかったけど、どうやら畑にはクレアが何か植えていたらしい。これは温厚なクレアもキレるんじゃないかな。普段は温厚な人ほど怒らせると怖いって言うけど、クレアの場合はどうなんだろう。
『クレア、ちょっと訓練場まで来てくれないかな?』
『はい、すぐ行きますね!』
善は急げとばかりに僕はギルドコールでクレアを訓練場に呼び出した。
「ちょ、お兄ちゃん!?」
「どうせ遅かれ早かれ知られるんだから早めに謝っておきなよ」
「心の準備ってのがあるの!」
「魔力弾×4274」
「ちょっ!?」
轟音、そして暁は無傷だ。暁はダメージを受ける度に回復するから、数でゴリ押す僕の戦闘スタイルとは相性が最悪なんだよね。ちなみに都合の良いことにギルドホームの訓練場は組合の訓練場と同じく攻撃による犯罪者判定が発生しない。
「説教代わりだよ……ってアイたちはどうしたの?」
「いきなりぶっ放さないでちょうだい……」
「……ビックリした」
「効かないの分かってても心臓に悪いよ……」
「な、な、何いまの?」
「ごめん、ごめん。つい」
ダメージを与えられない──厳密にはダメージを与えた直後に回復されてしまう──ことは分かっていたけれど、身じろぎさえさせられないのは少し悔しいな。次のイベントで対戦する可能性がある以上、何らかの対策を講じる必要がありそうだ。
そして砂埃が晴れてすぐクレアが訓練場にやってきた。
「お兄さん、これはどういうことですか?」
「アカトキがアホやった。以上」
「ア カ ち ゃ ん ?」
「ひっ……ごめんなさい!」
「お兄さん、ごめんなさい。訓練場なくなっちゃうかもしれません」
「あー、うん。いいよ、半壊も全壊も似たようなもんだし」
「ありがとうございます!アカちゃん、いくね」
「え、何を──」
「攻撃威力調整+100%、技能効果調整+100%、範囲拡張+100%、始原の一矢、全身全霊、専心の極み、万矢纏装、必中、破砕効果付与、完全貫通付与、破滅の一撃、天弓の一撃、カスタムアロー、アサシネイト・スタイル──」
「え、ちょ、クレア、待っ──」
そのクレアが紡ぎ始めた尋常じゃない技能名の羅列に危機感を覚えたのか、暁は慌てた様子でクレア作の盾を構える。
「え、マヨイ!?」
そしてクレアが弓を放つ直前、僕はシキの腕を掴んで空れ逃げた。アイも僕と同じ判断をしたらしい。
──大地が爆ぜた。
生き残ったのは空へ逃げた僕とアイ、僕に腕を掴まれて空中でぶら下がってるシキの3人だ。防御に関しては間違いなく全プレイヤーでもトップクラスである暁とルイ、そして攻撃を放ったクレアの3人の体力は一瞬で溶けた。
ちなみにログにはクレアが暁に約4000万、ルイとクレアにそれぞれ約3200万のダメージ、小次郎に約2650万のダメージを与えたと表示されている。
あ、小次郎を救うの忘れてた。
⚫︎アカトキ
私はギルドホームで復活するとルイと一緒に訓練場のあった場所に戻って来た。過去形なのは訓練場が管理棟まで含めて巨大なクレーターに呑み込まれるようにして文字通り消し飛んでいたから。
「死んだ~」
「なに、あれ……」
「うわぁ……すっごいね」
クレアはどこか他人事のようだけど、これ私がやらかしたよりも数倍ヤバイからね?兄さんもクレーターを作ってたけどクレアのこれは規模が違う。まるで隕石でも落ちたかのような深くて広いクレーターだ。
「今のがクレアの全力かしら?」
「は、はい……初めて使ってんですけど、思ったよりもおっきな音がしてビックリしました」
確かに音にもビックリしたけど、私は半径300mはある巨大なクレーターを作った破壊力の方にビックリして欲しい。
兄さんは悪い顔して苦笑いしてるし、たぶん次のイベントで対戦する可能性の高いクレアの実力を測るために止めなかったんだ。お姉ちゃんも何か考えてるみたいだし、2人とも本当に抜け目ないなぁ……
「クレア」
「ルイさん、巻き込んじゃってごめんなさい……」
「いい。それより今のって物理攻撃?」
「そうですよ?」
「…………物理ダメージ無効ってなんだっけ?」
「たぶんクレアは相手の技能や称号、ステータスを無視してダメージを与える攻撃技能を持ってるんだと思うよ。さっき"完全貫通付与"って言ってたのがそうだよね?」
「はい。本当は他の攻撃技能と一緒に使えないんですけど、オリジナル技能の"技能併用制限解除"を使つと一緒に使えるようになるんです!」
クレアによると"技能併用制限解除"の効果は『技能Aと技能Bの強化効果が同時に発動した場合、数値の高い技能Aが優先され、技能Bの効果はないものとして扱う』という仕様を『技能Aと技能Bの強化効果が同時に発動した場合、それぞれ別々に計算される』と書き換える効果と、超火力を発揮する攻撃技能によくある『他の技能もの併用不可』という制限を無視できる2つの効果を持った技能らしい。
これは弓術に分類される全ての技能を使えるらしいクレアには絶対に持たせちゃいけない技能だと思う。ステータスだけでなく耐性すら貫通する数千万単位のダメージなんてどうやって凌げばいいのさ……
「ごめん遅れ……ええっ、何これ!?どうなってんの!?」
約束した時間から4分ほど遅れてショウさんがログインした。訓練場(跡地)の惨状を目の当たりにしてパニックを起こしたのを見てほっこりしたのは秘密だ。
それから彼女を宥めて私たちは領主様のところへ出発した。次のイベントまであと3日。早く強くならないと……
ちなみにクレアに再び謝ると拍子抜けするほど簡単に許してくれた。もう2度とクレアを怒らせないようにしなきゃ……
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
訓練場にトドメの一撃。
オマケのように管理棟と(元)畑も吹き飛びました。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,176
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる