VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重

文字の大きさ
214 / 228
本編

第201話 マヨイは久しぶりにやらかす。

しおりを挟む

⚫︎マヨイ

 衛兵に案内され通されたのは前とは違う部屋だった。
 中央には見ただけで分かる高級そうなソファーが足の短い木製の机を挟んで向かい合っている。会議や執務という用途ではなく、応接用の部屋のようだ。

「ソファーにお掛けになってお待ちください」

「あ、はい。ありがとうございます」

 下座側のソファーに座る。想像以上に柔らかい。スプリングでも入っているのか弾むような感触もある。その感触を楽んでいるとすぐにウォルターがやって来た。前にもウォルターの側にいた男女も一緒だ。

「待たせたな!」

「いえ、こちらこそアポイントもなく申し訳ありません」

「気にするなよ。わざわざ来たということは何か相談事でもあるんだろう?」

「はい。実は──」

 僕は暁とクレアの攻撃によってウォルターから下賜さられた屋敷の施設、訓練場と畑が破壊されてしまったことを説明する。

「そこそこ頑丈に設計したんだけどなー。あ、もしかして壊した子たちは神の使徒や巫女か?」

「……そうみたいですね。直接そうと聞いたわけではないですけど」

 暁は使徒でも巫女でもないけれど、クレアの覚醒の名前が少し前まで弓神の巫女だった。今は弓神の後継者という名前に変わっている。

「なるほど……それは悪かったな。さすがに干渉力の高い使徒や巫女の全力に耐えられる設計にはなってないんだ。前もって伝えておけばよかったな」

「干渉力、ですか?」

 攻撃力とは違うもののようなニュアンスだ。

「干渉力というのは簡単に言えば"個人の行動に付加される力"のことだな。シーリー、訓練場から抵抗球レジストボールを持ってきてくれ」

「……分かりました」

 ウォルターはウォルターの後ろに控えながら僕を睨みつけていた女性の護衛に指示を出した。彼女はウォルターの姪だったはず。特に話したこともないのに睨まれるっていうのは居心地が悪いね。

「悪いな。少し前にアポイントもなく訪ねてきた渡界人が領主館の前で暴れんだ。それもあって同じように訪ねてきたマヨイを警戒してるみたいだな」

「警戒するのは護衛としては当然の判断ですが、客人を威嚇するような真似はよろしくありませんな。あとで指導しておきます故、ご容赦ください」

「あ、あぁ……大丈夫ですよ。実害があるわけではありませんから」

 理由があるなら仕方ない。それよりプレイヤーが迷惑を掛けたという話が気になる。エイトは街に入る段階で悪質なプレイヤーは弾かれるはずだ。それなのに何故そのプレイヤーは領主館までたどり着けたんだろう。

「そいつはアルテラ北部平原での一件でそれなりに活躍したギルドの一員みたいでな。領主からの招待状を見せられたら門番も拒絶はできなかったらしい。それ以降は招待状を持ってきた者は館に入れず入り口付近で感謝状と報酬を渡すだけにしたのさ」

「……それなら僕と会うのはまずかったんじゃ」

「いいんだよ。実際のところ、俺が全員と会うのが面倒だってだけだからな」

 いいのか、イベントの報酬を支払うNPCがそれで……
 まぁ……報酬の受け渡しには不都合はないみたいだからいいのか。

「お待たせしました」

「ご苦労。ここに置いてくれ」

「はい」

 それからしばらく話しているとシーリーが戻って来た。その両手に抱えられている直径20㎝はありそうなピンクの球体が、ウォルターが持ってくるよう指示したレジスト・ボールというアイテムなんだろう。
 机の上に置けば転がり落ちるのではないかと心配になったけれど机と接した部分が凹んだ。どうやら僕の心配は杞憂だったらしい。
 そしてシーリーが手を離すとピンクをしていたレジスト・ボールが半透明になった。どういう仕組みなんだ?

「干渉力について"個人の行動に付加される力"だと説明したが、マヨイは攻撃技能が人や物に与えるダメージ量がどのように決定されるか知っているか?」

「技能の威力とステータス、そして参照される項目による補正によって算出された基礎ダメージ量から相手の耐性や防御力を差し引いた量になる……ですか?」

 当たり障りのない回答だけど、こうとしか言いようがない。細かな仕様については掲示板の検証スレッドでも"ステータスに書かれていない何らかのパラメーターがある"となっていたはずだ。

「ようするに干渉力というのは今言ってくれた参照される項目の1つだな。もっとも、干渉力には大きく分けて3種類ある。まずは個人の持っている干渉力。これは個人の素質や覚醒、位階や称号によって決定される。次に攻撃技能そのものの干渉力。例えば攻撃技能を放つ場合、その攻撃の干渉力は技能そのものの干渉力と放つ者の干渉力の平均になる。そして最後が抵抗力とも呼ばれる干渉力に対する干渉力だな。これも個人の干渉力と同じく素質や技能、位階や称号によって決定される。訓練場を破壊したマヨイの仲間が使徒や巫女だと予想したのは、使徒や巫女であるだけで干渉力が大幅に上がるからだ」

「なるほど……何となく分かったよ」


[ワールドアナウンス:干渉力の情報を獲得したプレイヤーが現れました。以後、ヘルプ欄に干渉力の項目が追加されます]


 これがワールドアナウンス案件だってことは。
 大多数のプレイヤーの皆さん、対人イベント前にこんな情報を拡散させて本当にごめんなさい……

「で、この抵抗球は個人の干渉力を測るために俺が作った魔道具……なんだが、これはまだ試作品でな。データ集めに協力してくれるなら壊した施設は無料で直してもいいぞ」

「ちなみに実費だと幾らくらい掛かるかな?」

「詳しくは見てみないと判断がつかねぇな。でも訓練場と管理棟を修繕するなら最低でも2億は「協力する。何をすればいい?」……ははっ、ありがとよ」

 何か裏がありそうだけど仕方ないよね。
 こうして僕は施設を無料で直して貰う代わりにウォルターのデータ集めに協力することになった。


───────────────
お読みいただきありがとうございます。
この干渉力がフィールドを気安く破壊可能にしていた元凶です。

各スレッドの反応
総合スレッド「干渉力なにそれ???」
検証スレッド「たぎってきたぞぉぉおお!」
対人スレッド「……技能選び直さなきゃ……立ち回りも考え直して……うがぁぁぁぁ!!」

本編200話を記念して番外編を書こうと思います。
しおりを挟む
感想 576

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

奥様は聖女♡

喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...