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本編
第207話 ショウは戦慄する。
しおりを挟む⚫︎ショウ
いきなり絡んできて暴言を吐いてきたプレイヤーには私も腹がたった。しかし、アイに促されるように街の外に出てしばらくすると次々とどこからともなくプレイヤーが現れ、その人数はすでに30人を超えている。この人数のプレイヤーが1人を襲うなんてリンチみたいなもんだ。
私が加勢してどうにかなる人数差じゃないけれど、それでもリンチ同然の決闘を見過ごせなかったオレはアイに加勢を申し出た。
「必要ないわよ?」
「で、でもさ……」
「 邪 魔 し な い で ね ? 」
オレはアイという人外の領域にいる存在に対する理解度が足りていなかった。街の外へ向かう途中でアカトキが言っていた「絶対に怒らせちゃいけないのは兄さんだけど、絶対に喧嘩を売っちゃダメなのはお姉ちゃんなんだよね」という絡んできたプレイヤーを憐れむかのような視線の意味を今なら私も理解できる。めちゃくちゃ怖い。
「エリアヒール」
そして決闘開始からすでに30分が経とうとしている。
もう都合9回目となるアイの神聖魔法の行使。
効果は使用者を中心とした範囲内に含まれる全員の体力を回復するといったもの。敵味方関係なく体力を回復してしまうせいで技能考察スレッドでは「使いにくい」「敵まで回復してしまう欠陥技能」「敵味方の識別できれば神。なお現実」「セーフティエリアで回復薬の節約になるだろ?」なんて言われている。
「もうやめてくれ!」
「悪かった! もう絡まねぇから!」
回復させられた敵プレイヤーが再び吹き飛ばされる。この光景ももう10度目だ。アイが素手でも戦えることは本人がそう言っていたから知っていたけれど、はっきり言ってこれはない。
集まった敵対プレイヤーたちの位階は60前後とそれなりに高い。中には覚醒に手が届いているプレイヤーもいる。しかし、アイの圧倒的なステータスの前には有象無象と大差なく鎧袖一触だ。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁあああ!!」
「こんなの聞いてない!」
「なんなんだよ! マジでなんなんだよ!」
アイは真っ先に敵対プレイヤーの中で神聖魔法を使えるヒーラーを狙った。言葉にすれば集団戦をやる際の当たり前すぎる"ヒーラーから倒せ"を実行しただけだ。もちろん何人かはアイの狙いを読んで即座に反応した。
しかし、アイの狙いは"ヒーラーを倒す"ことではなかった。アイの狙いはヒーラーの封殺。アイがヒーラーの喉元に手刀を撃ち込むと、ヒーラーたちは声を出せなくなってしまった。声を出さなければ技能は使えない。技能が使えないヒーラーはカカシも同然の状態になってしまった。
「リザイン、降参、参った!……くそっなんで反応しねぇ!!」
「──────っ!!」
真っ先に喉を潰された女性プレイヤーが音のない声で叫ぶ。口の動きから「この人でなし!!」とでも言ったんだろう。まったくもってその通りだと思う。
「あっ……あっ……あっ……」
「ちくしょぉぉおおおお!!」
アイはヒーラーを機能停止に追い込んだ後、ヒーラーを守ろうと真っ先に反応したプレイヤーたちの両腕を素手で切り落とした。次いで遅れて反応したプレイヤーたちの両腕を切断。この時点でほとんどの敵対プレイヤーの体力は半分以下になっていた。そこでアイは全体回復を使用して敵対プレイヤーの体力を全回復させた。
ここで重要なのはエリアヒールで体力を回復すれば死ぬことはないけれど、それで部位の欠損が治るわけではないということ。体力の回復と欠損部位の回復は別の扱いなのだ。
「何がしたいんだよ!」
「鬼! 悪魔!」
プレイヤーたちの切断された両腕を放置したままエリアヒールを使ったアイが次にやったのは敵対プレイヤーたち全員の脚の切断だ。この時点ではまだ攻撃魔術で反撃するプレイヤーもいた。
「GMコール! GMコール! なんでだよ、何で反応しねぇんだよ!」
「こうさん、こーうーさーんー! 負けましたー!」
そんな反骨精神に富んだプレイヤーたちもアイの手刀を喉元に受けて沈黙の状態異常(物理)になってしまった。
ちなみに先ほどから降参と何度も叫んでいるプレイヤーは前もって取り決めた"時間制限無制限・全損決着・降参なし・乱入あり"というルールを確認してないただの大馬鹿だ。自分たちから煽るように言い出しておいて忘れてるってかなりダサいと思う。
「お姉ちゃんが楽しそうで何よりです」
「やっぱりアイさんは凄いでふ」」
元から迷い家にいたクレアとアカトキは慣れているのか、感覚が麻痺しているのか、その両方なのか平然と目の前よ光景を受け入れている。
「どうする?」
「ここに加勢するの? いいよ」
「……アイを止めようって話でしょ? うん、無理」
シキとルイに聞けば、ルイは目の前の蹂躙劇に参加したそうに目を輝かせているし、シキはアイを止めようとは思ってるようだけど、この目の前の圧倒的な蹂躙を前にして心が折れている。
「そういえばアイさん、エリアヒール以外の技能使ってませんよね?」
「使ってるよ。あの手足を切り飛ばしたのは人槍一体の副産物だと思うし、明らかに致命傷になるはずの喉元への攻撃で相手の体力がミリ単位で残ってるのは峰打ちの効果でしょ」
「え、でも技能は言葉にしないと発動しないよね?」
「鍵言省略や技能思考発動解禁っていう言葉に出さなくても技能を発動できるようにする技能があるんだよ」
「似たような効果だけど、鍵言省略の方は登録した技能を対応させた動作で発動できるんですよ!」
「死合開始前に左手で服の胸元を掴んでたから、たぶんあれが人槍一体を発動させる動作なんだと思う。峰打ちは手刀の親指の畳み方かな? ちょっと自信ないや」
ああ……分かってたことだけど、アカトキもステータスが高いとか強力な攻撃技能を持っているから強いんじゃない。その視点やあり方がマヨイたち側のそれなんだ。
年下の女の子に劣るっていうのは年上として少し不甲斐ない。最終的に彼女たちを超えられないとしても、比肩できるくらいには強くなりたいな。
「す、すいません! ちょっといいですか!!」
視界の先でアイが22回目のエリアヒールを使った頃、アインの街がある方角から真っ赤な髪の女の子がやって来た。
───────────────
新年になりましたね。
昨日のあとがきにも書いた通り喪中ですので祝辞の言葉は控えさせていただきます。
本年も何卒よろしくお願いします。
本当なら昨日の夜中に新作を投稿するはずだったのですが間に合いませんでした。もう投稿1年先延ばしにするしか……ないよね!
もし感想欄に読みたいという声があれば(本作の十数年後の織姫が主人公のスピンオフなので)本作の閑話扱いで推敲前のプロローグを先行公開しようと思ってます。
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自筆です。
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