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本編
第206話 リエルは駆け出した。
しおりを挟む⚫︎リエル
「すいません、もう1度お願いします」
それを聞いた時、私の頭は真っ白になりました。
「ウチの馬鹿どもが宿場街で迷い家のメンバーに喧嘩を売ったらしい」
「な ん で ?」
「どうせ目についたからだろ。こっちは朱桜會のメンバー20人弱と奴らのフレンドが10人くらい、迷い家側はサブマスが1人で決闘することになったみてぇだな」
「ねぇ……それすっっっごく、既視感があるんだけど?」
今も現地にいるメンバーとフレンドコールで連絡を取りながら状況を説明してくれているミケ猫ジェロニモスにナカミアが不安の声を零しました。
「うん、私も嫌な予感しかしない」
「さすがにマヨイみてぇなデタラメな強さじゃねぇだろ。……ねぇよな?」
「ギルマス。私さ、迷い家のマヨイとサブマスのアイって女の子が3年前まで配信者として活動してたって聞いて動画みたのよ」
「おい、ユリ。なんの話だ?」
話に入ってきたのはユリシードさん。小学生くらいの小さなアバターのドワーフだけど、リアルは専業主婦なんだって。マヨイに蹂躙された日は風邪をひいた娘さんの看病でログインしていなかったけど、朱桜會の頼れるヒーラーです。
「アイって子もマヨイと同じくらいゲームが上手いみたい。世界大会で入賞したっていうイギリス人の女の子を圧倒してたわ」
「つってもよぉ……ここじゃステータスや技能の差がデケェからプレイヤースキルだけ高くてもどうしようもないだろ」
「最後まで聞いて。その最新の動画投稿なんだけど、ほんの数日前にCiLで撮られたものだったの。流星群っていうプロゲーマーチームのメンバーを一方的に蹂躙していたわ」
「どうせマヨイと一緒にだろ?」
「アイちゃん1人でよ。たぶん3つは覚醒を持ってるんでしょうね。それか凄く位階が高いとか」
「マジかよ……」
「ユリシードさん、その流星群のメンバーって何人いたんですか?」
「30人は超えてたはずだけど……ごめんなさい、最近物忘れが激しくって……」
プロゲーマーを30人以上同時に相手取って圧倒するプレイヤーが、パワーレベリング中心で位階を上げている中堅下位のアマチュアゲーマー30人弱に苦戦するとは思えません。
「ねぇ……ギルマス。これ、マズいんじゃない?」
「ナカミアさん?」
「ほら、例のマヨイとの契約とは別に組合から"迷い家に所属するメンバーならび保有財産に対する干渉を禁止する"って言われたじゃない」
「そうでひゅた!?」
特にこれといった罰則はないけれど、アルテラの組合長から"最悪の場合は組合から朱桜會への依頼停止処置を取る"と言われているんです。そんなことになったら朱桜會なエイト領で活動できなくなっちゃいます!
「今すぐ行って謝れば許してくれますよね!?」
「絡んだ奴ら、俺以上に口が悪いから無理じゃね?」
「はぅ」
「ちょ、バカ猫! そこは無理だと思っててもフォローしなさいよ!」
「んだと中身餡子!」
ナカミアさんの本名は長海杏子と言うそうです。その本名からキャラクター名をナカミアンコにするはずが、入力ミスでナカミアになったのだとか。
「若いっていいわねー」
「ユリシードさんも若いですよ?」
「来年にはアラフォーの仲間入りするオバサンに若いだなんて……まったく、リエルちゃんは良い子ねー」
そう言って頭をナデナデされます。
くすぐったいです。
「おい、謝りに行くならさっさと行くぞ!」
「誰が行くの? 全員?」
「んなの俺とギルマスだけでいいだろ。大会までに少しでもバケモンに近づいておかねぇと誰も予選通過できないまであるぞ」
ミケ猫さんは次の大会でマヨイをはじめとする迷い家のメンバー、迷い家のメンバーと敵対したくないギルドや野良プレイヤーから朱桜會のメンバーが狙い撃ちされる可能性が高いと予想しているみたいです。
あの日、私たちに協力してくれたギルドからは「お前らのせいで俺たちまで罰則を受けた!」と同盟関係を解消されてしまいました。フレンドも半分まで減って、あの日ログインしていて決闘に参加しなかったメンバーからは毎日のように文句を言われています。
「迷い家のメンバーはともかく、元同盟ギルドの連中はこっちに恨み骨髄だものね」
「組合からの罰金とイエロー判定くらいは我慢しろってんだ……」
あの日、訓練場でマヨイと戦った同盟ギルドのメンバーの幾人かは"マヨイの装備を奪おうとした"という理由で科料とイエロー判定と受けました。イエロー判定というのは犯罪者一歩手前の状態でNPCからの友好度が激減してしまうだけでなく、イエローが所属しているギルドは組合からの報酬の減額や護衛依頼の受注拒否などの不利益を受けます。
個人に対する罰金の額は中堅プレイヤーが前のイベントで稼いだ金額を大きく上回り、払えなかった差額は所属ギルドに請求がされたそうです。中には所属ギルドに何も言わず私たちに味方してイエロー判定を受けたプレイヤーもいて、そこのギルドのギルドマスターは朱桜會のギルドハウスまで直接文句を言いに来ました。本当は補填として朱桜會からお金を出したいところなんですが、マヨイからの要求の中に他ギルドとの取引の禁止が含まれていてそれもできません。本当に意地の悪い人だと思います。
「あー、ギルマス」
「なんですか?」
「多少は安心できる報告と悪夢のような報告があるけど、どっちから先に聞く?」
「それ聞かなくちゃダメですか?」
「よし、多少は安心できる報告からな。絡んだ連中の負けが確定したぞ」
これで万が一、迷い家のサブマスターに勝ったともなれば間違いなくマヨイから報復されたでしょう。その心配がなくなったと思えば、確かに多少は安心できる話です。
「それ誰か録画してないかしら」
「しとけっつっといたから大丈夫だろ。んで悪夢のような報告な。まだ決闘が終わってないらしい」
「え」
「どういうことよ。絡んだ奴らの負けは確定したんでしょ?」
「ミケ猫さん、矛盾してませんか?」
「エリアヒールって欠陥技能があるだろ?」
「敵の体力まで回復させちゃうやつよね」
「そんでエリアヒールは系統としてはヒール系だから部位欠損は回復できねぇよな?」
「そうですね。エリアヒールは敵がいないところでは便利ですけど、効果範囲が広いせいで逆に戦闘では使いにくい技能です……え、まさか、まさかですよ?」
たった今、脳裏に"拷問"という単語が浮上しました。
いや、まさか、そんなこと出来るはずないです。
出来ないですよね?
「そのまさかだ。すでに決闘に参加した連中は既に両腕と両脚が切り飛ばされてるってよ。挙句、部位欠損を治せる神官連中は声帯を破壊されて技能を発動できなくなってるときた。いまはエリアヒールを連打されながら目の前で自分たちの武器と防具が破壊されてくのを見てるだけになってるとよ」
「……いくら手足が切断されたり、声帯を潰されたとしても降参は思考操作で可能なはずよね?」
「それがよ、あの馬鹿ども時間制限なし降参なし乱入ありって条件で決闘を吹っ掛けたらしい。ま、自業自得だな」
確かにミケ猫さんの言う通りかもしれないけれど、それでも一緒に協力して猪の変異種を倒した仲間です。その仲間がゲームを引退しかねないほどのダメージを負うのを見捨てたらギルドマスター失格だと思います。
「ミケ猫さん、私、先に向かいます!」
「あいよ。パーティを再編成したら追いかける」
私は過去一と言っても過言ではない移動速度で決闘という名の拷問が行われている宿場街へと駆け出しました。
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大晦日ですね!
今年も本作を読んでいただきありがとうございました。
喪中ですので新年の挨拶は控えさせていただきます。
リエルほんと不憫属性よね……
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