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本編
第209話 アイは憂さ晴らしする。
しおりを挟む⚫︎アイ
「やぁぁぁぁぁぁあああ!!」
朱桜會のギルドマスター、リエルは右手に剣を左手に盾を持って真っ直ぐに突っ込んで来た。そのスピードは先ほどまで相手にしていた有象無象よりも遥かに早い。
とはいえ、私からすれば容易く反応できる程度の速度。私はリエルの攻撃に併せるように後退し、そのまま後方で醜態を晒していたプレイヤーの頚骨を踏み砕いた。このままリエルの手札を詳らかにするためには彼らは邪魔にしかならない。かといって、そのために攻撃技能を使う価値が彼らにあるとは思わない。邪魔になれば処理する程度で十分だろう。
「よくも!!」
そのまま私との距離を詰めて斬りかかってくるリエルの姿に違和感を覚えた。怒りに我を忘れているのは彼女の様子からして間違いないのだけど、にも関わらず攻撃することを遠慮しているようなチグハグな印象を受ける。
「うぐっ」
真っ直ぐ振り下ろされた剣の腹を拳でパリィする。実際にやってみると想像していたよりも難しい。ショウはこれを飛来する矢に対してやったのよね。
「やぁっ!」
弾かれた切先を返して逆袈裟斬りを放つリエルの表情は鬼気迫るものがあるけど、やっぱり彼女の気迫に反して攻撃に鋭さはない。
逆袈裟斬りを後退して交わした私はリエルが反応出来そうな速度で接近し、盾で受け止められること前提の掌打を放つ。
「きゃっ」
目論見通りに受け止められた掌打を引くことなく、そのまま更に踏み込んでリエルを吹き飛ばす。もし暁にこれをすれば踏み込んだタイミングで剣による攻撃か蹴りあたりが飛んできそうだけど、リエルに盾で受け止めた体勢から即座に反撃できるほどのセンスはないらしい。
「ん? ……センス?」
必要なのはセンスではなく、反復動作による経験のような気もする。だとすればクレアと同じようにリエルもVRゲーム初心者という可能性もあるわね。
VRゲームの戦闘行為は血飛沫などR15表現が少し派手なので、初心者プレイヤーの中には"攻撃する"という行為そのものに忌避感を覚える者もいるそうだ。リエルの場合はモンスターなら問題はなくても、対人になると腰が引けてしまうのかもしれない。
「興醒めね……」
私がリエルとの距離を詰めると、彼女は腰を落として盾を構えた。このまま盾を破壊しても良いのだけど、おそらく彼女の盾には"攻撃を受け止める"ことを発動条件とするカウンターのような効果がある。その証拠に先ほど掌打を打ち込んだ際、そこそこのダメージを受けてしまった。
「え」
なので盾を掴んで強引に腕を開かせる。
押し込まれる衝撃に備えていたリエルは体勢を崩した。
「っ……あぁぁああ!!」
その隙をついてリエルの右手首を握り潰す。
もちろん、その手に持っていた剣はあっさりと地面に落ちた。
「人を攻撃出来ないのなら乱入なんてしてくるんじゃないわよ」
そのままリエルの腹部に膝蹴りを見舞うと、彼女の身体が地面から浮いた。あとは地面に転がる有象無象と大差ない。空中でロクな抵抗らしい抵抗もできない彼女の両腕と両脚を蹴り飛ばして喉を破壊する。
あとは有象無象よりも遥かに性能の良さそうな装備を破壊して廃品回収すれば再び楽しい拷も……実験の時間だ。この不完全燃焼の憂さ晴らしに付き合って貰いましょう。
⚫︎シキ
「ねぇ……いい加減に止めない?」
「シキさん、あのお姉ちゃんを止められると思う?」
「……ごめん、無理」
目の前で繰り広げられている光景は拷問とか追剥と呼ばれる行為にしか見えないけれど、ゲームシステム的には決闘で間違いない……と思う。
「いくら何でも朱桜會のギルマスがあんなにあっさり負けるとは思わなかったな」
「アイも、規格外?」
「"も"というか兄さんとお姉ちゃん"が"規格外なだけだよ?」
私としてはマヨイとアイにアカトキ・クレア・ルイを加えた5人が規格外というか、やってるゲームが違うような気がするのだけど、アカトキの視点では規格外はマヨイとアイの2人だけらしい。
まぁ……アカトキの視点からでないと見えないものもあるのだろうし、あえてツッコミは入れない。
「ダウト。アカトキも規格外」
「そんなわけないじゃん。私、まだ兄さんたちに勝てる気しないもん」
「…………」
そう悔しそうな声色と表情で告げたアカトキの視線の先には装備を剥いでは粉砕し、それをアイテム欄に入れる作業をするアイの姿があった。
うん、どう見ても追剥です。
「アイさん、あれ売ってくれないかな?」
「クレア?」
「あのね、シキさんたちの装備を作るのに金属が足りないの。でもアイさんが砕いた装備を素材にできれば足りるかなって思って……」
クレアにはアイが鉄塊を採取しているようにしか見えてないのかな。この子もこの子で少しずれてるよね。
「え、あれだけ強いのに装備作れるの? マジで!?」
「私の装備もお姉ちゃんの装備もクレアが作ったんだよ!」
「すごっ!」
「えへへ」
どうやらショウはクレアが装備を作れることを知らなかったらしい。クレアは加工プレイヤーの中では有名人だし、実は組合で相当数の装備を委託販売しているから戦闘メインのプレイヤーでもクレアの名前を知ってるプレイヤーは多い。
「このギルドの目的というか方向性が分からないんだけど……」
「やりたいことをやって、その上で仲間が困っていれば助けられるアットホームなギルドにしたいって兄さんが言ってたよ。でも知らない内に"売られた喧嘩は買いましょう"が追加てたりはするかも」
アカトキの答えに思わず苦笑が漏れる。
ショウも笑っているけど、ルイは何で頷いてるの?
「思ったよりは色々と収穫があったわ」
「アイさん! おつかれさまです!」
「疲れてはないけどね。ありがと」
「ないすじぇのさいど。内臓はあった?」
「血飛沫はたくさん出たけど内臓は無かったわ。ゲームでそこまで再現するつまりはないんでしょうね」
のほほんとした穏やかな口調と声色で勘違いしそうになるけど、話してる内容は穏やかとは正反対のそれだ。
「お姉ちゃん、そろそろダンジョン行こうよ」
「そうね。賠償金代わりも貰ったし行きましょうか」
「あ、アイさん、その装備の残骸を売ってくれませんか?」
「いつもお世話になってるし、こんなのタダでいいわよ」
「ありがとうございます!! あ、でも工房ないです!?」
「んー、クレアはエイトに戻って明日兄さんと織姫と一緒にアインに行けばいいんじゃない? トラブルメーカーと兄さん限定イエスマンを2人きりにするの怖いし」
そんな話をしながら再び宿場町へ向かう。
そういえば織姫って子は会ったことないけど、どんな子なんだろう。私が知っているのはテコでマヨイに抱き着いて押し倒したっていう噂と、テコの訓練場でマヨイと良い勝負をしたという噂。後者は目撃者がそれなりにいたから掲示板でも話題になっていた。
そして、私たちが宿場町に足を踏み入れる寸前。
その人はやって来た。
「お前ら、迷い家だよな? うちのギルマスと会わなかったか?」
────────────────────
お読みいただきありがとうございます。
ミケ猫ぉぉぉおおお!!
憤怒状態のリエルと自己強化なしのアイでは素のステータスがほぼ拮抗します。ただパッシブ技能と装備の差で最終的なステータスの平均はアイの方が2割ほど上です。
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自筆です。
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