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本編
第210話 アカトキは残念。
しおりを挟む⚫︎アカトキ
「お前ら、迷い家だよな? うちのギルマスと会わなかったか?」
そう声を掛けて来たのはケモ耳を付けたミケ猫ジェロニモスとちう大柄な男性だった。素質と位階は隠してあるけど、位階は71とシキさんたちよりも高い。所属ギルドの欄には今さっきまでお姉ちゃんが兄さん不在のストレスをぶつけていたサンドバッグたちと同じ朱桜會だ。
「決闘しているところに乱入して来たから身ぐるみ剥いでリスポーンさせたわよ」
「ちっ……間に合わなかったか。俺は朱桜會のサブマスをしてるミケ猫ジェロニモスだ。うちの馬鹿どもが迷惑掛けたみたいで本当にすまなかった。そんでよ、加害者側から頼むのは恥だって分かってはいるんだけどよ、あんたらに絡んだ奴らには厳しめの罰則を与えるから組合に報告すんのはなしにしてくれねぇか? もちろん、要求があれば何だって飲むつもりだ」
そう言って彼は頭を下げた。
言葉は荒いけど根は仲間想いの良い人なのかな?
「いいわよ、なんなら契約で縛りましょうか」
「そっちの5人もだぞ?」
「いいわよね?」
「「もちろん」」
「オッケー」
「大丈夫です!」
「アカトキは?」
「あぁ……うん、いいよ」
そもそも彼が私たちを口止めしても意味がない。さっきの決闘のことは10人はいた野次馬の誰かから拡散するだろうし、もう掲示板にも書き込まれている。更に言ってしまえば、それを知った兄さんが追い撃ちとばかりに組合に告げ口そうだ。
「契約技能は持ってるか?」
「クレアが使えたはずよね」
「はい! 任せてください!」
「それじゃ"この場にいる6人は先の決闘の内容をギルド外部に口外しない"こと、対価は1人5万Rでどうかしら?」
「……持ち合わせがたりねぇ。闘技大会前までには用意するってのはダメか?」
「構わないわよ」
さすがに無体な要求はしないみたい。
ま、迷惑料としては妥当なんじゃないかな。
クレアが契約書を作ったので手を置いてサイン(?)する。
「んじゃな。ありがとよ」
契約を結ぶと、彼はそう言ってアインの方角へと駆け出した。
ギルドチャット欄を開いていたようだし、リスポーンしたメンバーと合流しに行ったんじゃないかな。
「行ったわね。クレアはすぐ戻る?」
「はい! 今日中にシキさんたちの装備を作っちゃいます!」
「代金、どれくらい?」
「え、いりませんよ?」
「いいの?」
「はい! あ、リクエストってありますか?」
シキさんは大剣装備中の移動速度低下を抑える装備、ショウさんは徒手空拳の状態でも使える盾、ルイは小次郎とお揃いの装備をお願いしていた。
「それじゃ、森を燃やしに行くわよ」
「お姉ちゃん、燃やすのが目的になってる! 目的は素材だからね!?」
「……そうだったわね」
この後、めちゃくちゃ森を燃やしました。
ボスを1度も見ることなくボス素材がいっぱいです。
クレアは周回してからエイトに戻れば良かったとギルドチャットで嘆いてたけど、そこは残念先に立たずってやつだよね。
『皆んな、もうアインに向かってる?』
『まだよ。何かあった?』
そして14周目が終わった頃、兄さんからギルドコールが届いた。その声色から何か後ろめたいことでもあるような印象を受ける。兄さん、まさかと思うけど領主館を壊しちゃった?
⚫︎マヨイ
ウォルターからの依頼やギルドホームの修繕に関する話の詳細を詰めたり、僕の干渉力についてのウォルターの見解を聞いたり、ウォルターとタメ口で話す僕に我慢できなくなったシーリーと決闘したりしてから僕がギルドホームに帰ると、ちょうど入り口のところにクレアがいた。
「あ、おかえりなさい!」
「クレアはアイたちと一緒に行かなかったの?」
「途中の宿場町まで行って私だけ戻って来たんです!」
「なんかあった?」
「えっと、宿場町に着いてすぐ────」
どうやら朱桜會のメンバー、その中でも僕が朱桜會と決闘しようとした時に訓練場に来なかったプレイヤーたちがアイたちに絡んだ結果、アイ1人で絡んで来たプレイヤーたちと決闘することになったそうだ。
「それでアイさんが金属素材をいっぱい手に入れてくれたんです! これでシキさんたちの装備が作れます!!」
「……決闘して金属素材を手に入れたの?」
「はい! こう、ボコボコってして! グシャグシャってするとアイテム欄に相手の装備を入れられるみたいなんです!」
そう言いながらクレアはシャドーボクシングのような動作をした後、瓦割りのような動作をしてみせた。どうやらアイは徒手空拳で戦ったらしい。
「……決闘中に相手の装備を壊すと、それをアイテム欄に入れられるってことかな?」
「はい、そうですっ」
それは仕様じゃなくてバグなんじゃないかな。
そう思ってメニューから公式サイトにアクセスする。
「……うーん、書いてないな。仕様なのか、未発見のバグなのか分からないけど念のため運営にメッセージ送っておくか」
「え、バグなんですか?」
「たぶんね。他人のアイテムを盗むようなものだし、これがセーフなら初心者狩りとか流行っちゃいそうだし」
「え、じゃ、じゃぁ、これ使っちゃダメですか?」
「念のため控えて欲しいかな。金属が欲しいの?」
「……はい。シキさんたちの装備を作るのに金属素材が足りてなくて……」
「なら鋼龍と鋼王龍の素材があるから使いなよ。説明欄に天然の合金って書いてあるし、代用できるは……あ」
「どうしました?」
「いやー、実は鋼龍の巣で原竜の卵を4つ拾って来てたんだよね。完全に忘れてた……」
「えぇ!?」
「ククルの時みたいに素材を与えれば孵化するみたいだけど……」
「ど、どうするんですか?」
「今すぐ孵化するわけじゃないけど、他にも相談したいことがあるしアイたちをギルドホームに呼び戻そう」
ウォルターからの依頼についてもギルド内で情報共有しておきたいし、何よりも早ければ今日にでも領主館から迷い家に派遣される人員のことを伝達し忘れてたら藍香どう反応するか……
「ならお兄さんはギルドコールで連絡を取ってください! 私はちょっとログアウトします!」
「え、ちょっクレア!?」
そう言うなりクレアはログアウトした。
ログインの制限時間が迫っていたのかな?
とりあえずギルドコールで皆んなに連絡しよう。
────────────────
お読みいただきありがとうございます。
ミケ猫ジェロニモス、生存しましたね。
◯後悔先に立たず
×残念先に立たず
これは誤字ではなく暁の国語力のなさを露呈させている演出になります。本話タイトルの"残念"は暁の国語力のことです。
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