手足を鎖で縛られる

和泉奏

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蒼のいない朝

お風呂

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お風呂場にて。

きょろきょろと周りを見回していた俺に、声がかけられる。


「じゃあ、ゆっくり温まって」

「…うん…ありがと」

「そんな不安そうな顔しなくても、風呂場には何も怖いことないから」

「……、うん」


大丈夫だよ、と苦笑まじりに笑った彼は俺の頭を撫でた。
そのままガラガラと扉を閉めて、出て行ってしまおうとする。


「待って、」


とっさにその腕を掴んだ。
嫌だ。もし、また出てきた時に蒼が傍にいなかったら嫌だ。
想像するだけで、不安で、不安で胸が張り裂けそうになる。
驚いたような表情で、彼は首を傾げた。


「何?どうかした?着替えはちゃんと用意するから大丈…」

「一緒に、入らないの?」

「へ?」


いつも一緒に入ってるのに。

どうして、今日は一緒に入ってくれないんだ。

まるで俺の言った言葉が現実かと、信じられないというような絶句したような表情で、何も言葉を返してくれない蒼に。

不安がこみ上げてきて、またさっき収まったばかりの感情が胸を覆う。


「…っ、」


じわじわと俺の目に涙がたまってくるのを見て、彼はその綺麗な顔に焦ったような表情を浮かべた。


「え、いや、その、え…あー、ああ、もう」


仕方ない、とため息をついて、腕を引き寄せられた。

抱きしめられる。
ぎゅっとさっき外でしていたようにその背中に腕を回す。


「う、うう…っやだ…ッ、やだ…っ、いかないで…っ」


もう、会えないと思った蒼が今傍にいてくれているだけで幸せなはずなのに、もしまたいなくなったらと思うと、怖くてたまらない。
声を押し殺して、また泣き始めた俺に頭のうえでため息を吐く気配がした。

迷惑をかけている。

嫌がられる。

そう思われるのも嫌で、「ごめん…っ、ごめんなさ…ッ、」とひたすら謝りながらその身体にしがみつけば、「ううん。いいよ」と優しい声とともに、頭を撫でられた。


「……、…?」


ふいに、いつもこうしていると香るはずの蒼独特の甘い香りがしないことに気づいて、顔を上げる。


「…っ、あお、い…?」

「………」


そう問いかけても、彼は何も言わずにただ俺に悲しげな表情で微笑みかけるだけだった。

「ごめんね」と呟く彼の言葉の意味が、俺にはわからない。

目尻の涙を拭われて、「…?」と首を傾げると、蒼は少し考えるようなそぶりを見せて、でも、首を横に振った。


「ずっとここにいるから、ゆっくり入っておいで。絶対に、いなくなったりしないから」

「…うん。わかった」


小さく嗚咽を零しながら、しょんぼりとして頷いた。
これ以上駄々をこねれば、蒼に嫌われてしまう。今度こそいなくなってしまうかもしれない。
そんなの嫌だ。


「後で一緒にご飯作ろう。足の手当てもしないといけないしね」

「…っ、うん」


俺の髪を撫でて笑う蒼に、俺は安心してへにゃりと緩い笑みを零した。

服を脱いで、ガラガラと風呂場のドアを開けた。
お湯をためたせいか、中からむわっとした空気が流れてくる。
湯船からは、白い蒸気がもわもわと空にあがっていってた。


「蒼、いる…?」


本当にそこにいてくれているのかと心配になって、声をかけると「…うん。いるよ」と返ってきてほっと肩をなで下して風呂に視線を戻した。


「………」


あの大きい屋敷では自動で温度が調節されるやつだったけど、ここのは俺が一人で住んでた時と同じ造りで自分で温度を調節しないといけない。

赤い色と青色の二つの蛇口を適当に捻って、お湯を出す。



シャーっ。


「熱…っ、」


顔を歪める。
シャワーから思いのほか熱い温度の湯が出てきて、思い切り足にかかった。


「ぁ…ッ」


ガシャンッ。

はずみでシャワーを手から離してしまった。
大きな音が耳に届いて、反射的に身体が震える。

しまった。


「あ…っ、わ、ああ…っ、熱ッ!」

「え、大丈夫?!何かあった?そっち行った方がいい?」

「あ、ごめん…っ、だいじょ…ッ、」


床に転がったシャワーから、無造作に熱湯が身体の方にかかってきて、せめて身体にかけないようにしようとこっちに熱湯を吹きかけてくるそれをつかもうと手を伸ばす。

外から聞こえてくる心配そうな焦りを含んだ声に、こたえながらばくばくと困った事態に心臓が驚いて早鐘を鳴らしている。
シャワーを掴もうとするその間にも、お湯が顔にかかってひりひりと痛んだ。

ああ、もう、なにやってるんだ。ばか。


「っ、」


シャワーをとって、きゅっと蛇口を閉める。
はぁはぁと肩で息をしながら、今度こそお湯をうまく調節して身体にかける。

足にかけた瞬間、傷に染みてずきりと痛んだ。


「ほんとに、大丈夫?ひとりでちゃんと洗えてる?」

「う、うん。ごめん、心配かけて」


自分の失態を恥ずかしく思いながら、少し早口でそう答えた。

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