手足を鎖で縛られる

和泉奏

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蒼のいない朝

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黙り込んだ俺を、彼方さんが覗き込んでくる。
その不安そうな表情に、へらっと笑った。


「ばかなこと、言わないでください」

「…っ、」

「…その、」


なんて伝えたらいいかと、考えて迷いながら言葉を返す。
相変わらず、思ってることを誰かに伝えるってものすごく苦手だ。

むずかしい。


「えっと、…さっきは、彼方さんのことを蒼だって、言っちゃったこと、…その代わりにしようって思った事、…本当に申し訳ないことしたって思ってて」

「真冬くん…」

「…たぶんっていうか…絶対、…俺は誰かの代わりにされるなんてすごく嫌だし…、彼方さんも、そんなのされたら…嫌だと思う、ので…」


…嫌に決まってる。


もしも、相手に誰か大切な人がいて。
その人がいないからって、俺をその人の代わりにされるなんて…嫌だ。
本当に彼方さんには嫌な思いさせてしまった。


「だから、」と言葉を続ける。


「だから…そんな悲しいこと、なんてことない風に言わないでください」


頬に触れている手に手を重ねてできる限りの笑顔でへらっと笑ってみると、彼方さんが驚いたように目を瞬いた。
その表情にハッとして慌てて手を放す。


(う、うわ、許可もなく勝手に触ってしまった…っ)


「ご、ごめんなさい…っ!」

「…?…いや、別に、何も…」


何か反応の鈍い彼方さんに首を傾げる。

どうかしたのかな…?


「彼方さん…?」


そう問えば、考えるような顔をして、怪訝そうに眉を寄せて俺をじっと見つめた。


「…真冬くんって、俺と会ったことある?」

「へ?」

「いや、そんなわけない…か…。なんか一瞬、…」


そこでぷつりと言葉を切って考え込んでしまった彼方さんに、余計に混乱してその言葉について思考を巡らせた。

会ったことなんて、ないはずだけど…。
蒼にも似たようなこと言われたな、なんて思い出した。

昔、彼方さんと蒼に会った…?

…いつ…?

思い出そうとして、記憶の中を探る。


不意に。


「…え、」


ゴミ置き場。

夕焼け。

コンクリート。

何かの映像が、映画のスクリーンのように一瞬だけ、映った。


「…?」


なんだ、これ…?

見たこともない光景に、よく思い出そうとして……ずきりと頭が鈍く痛む。


「…っ、」

「…くん…真冬くん?大丈夫?どうかした?」

「…ぁ、…へ?」


気が付けば、彼方さんが焦ったような表情で俺の肩を掴んで揺さぶっていた。
問い返せば、ほっとしたように笑う。


「今日はもう疲れてるだろうから、やっぱりちょっと休もう。ね?」

「…はい」


ぼうっとする頭で、今何してたんだっけと考えて首を傾げる。

…思い出せない。


(…?)


頭の上に乗った手が、優しく頭を撫でる。


「…蒼に会いたいなら…もう一回だけよく考えて。本当に蒼に会いたいか、どうか。それが本当に真冬くんが自分にとって、良いことかどうか」


そう言葉を続ける彼方さんに、俺はこくんと静かに頷いて、それ以上は何も言わなかった。


ーーーーー

その日は彼方さんと一緒にご飯を作って食べた。
とても優しくて、ご飯もおいしくて。
彼方さんと初めて会ったはずなのに、何故か初めて会った感じもしなくて。

もしも俺にお兄さんがいたら、こんな感じだったのかななんて思ったりもした。

…蒼もいれば、もっと楽しかったんだろうなと思ったら、すごく寂しくなった。

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