手足を鎖で縛られる

和泉奏

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蒼のいない朝

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「あ、う…」


反射的に何か答えないとと思ったら変な声が出た。
少しだけ、迷う。

一応今日初めて会った人だし…ここまでしてもらうのもなんか変だし…でも多分一人で寝るより彼方さんと一緒に寝た方が安心できるんだろうし、だけど、でも…なんてぐるぐると思考の渦に飲み込まれる。


でも結局。


「あ、りがとう、ございます…」


たどたどしくお礼を言いながら、のそのそと彼方さんの方の布団に入らせてもらう。
それと同時に、「あ、そうだ」と声を上げて起き上がる様子を見上げて、彼は棚の上に置いてあったものを俺にポイと投げた。


「これあげる。絶対真冬くんに似合う」

「…?」

「…俺がずっと持ってても仕方ないし、どうしようかと思って悩んでたんだよね。丁度良かった」

「…こ、れ…って」


受け取った物をじっと見る。

顔の部分をぐーっと両方に引っ張ると変な形になった。
70センチくらいある、ピンクの、やわらかい


「うさぎのぬいぐるみ…」


でも、なんかところどころ布が切れて、ぼろぼろになってる…。
結構昔のものなのかな…?

ぐにぐにと顔を左右に引っ張って、そのへんてこな顔と見つめ合う。
なんか、解脱したような、何かから解き放たれたような顔のうさぎ。
見てて癒される。

可愛い。確かに可愛い。

可愛い…んだ、けど、


「…明らかに小さい子用ですよね」

「うん」

「俺、高校2年生なんですけど…」


学校行ってたら、だけど。

高校2年生にぬいぐるみって。
しかも男子高校生にぬいぐるみってどうなんだ。

ちょっと不機嫌そうに眉を寄せて、隣に横たわる彼方さんを困惑して見上げれば、彼はまた俺にそのぬいぐるみを押し付けてきた。


「ほら、ぎゅってしてみて」

「…?」

「うん、可愛い。似合ってる」


言われるままに首を傾げながら、とりあえずぬいぐるみを抱きしめる。
そうすれば、すごく嬉しそうに微笑んで、そんなことを言う彼方さんに一瞬硬直した。


(な…っ、なな…っ)


さらりとなんかすごく居たたまれない言葉を吐かれて、ギョッとする。


「い、いきなりなんですか…っ、」

「あはは、ごめんね。蒼が君を可愛がってた気持ちがすごい良く分かるなって思って。うん、可愛い」

「……ぐ、」


なんだこの爽やかな言い方は。

反論しても彼方さんが相手だとすぐにやりこめられそうで、余計になんか恥ずかしくなりそうで。
やるせない気持ちを抱きながらも、何も言わないことにした。


(…確かに、ぬいぐるみがいるだけでも結構違うものなんだな)


何もないよりはぬいぐるみがあったほうが、安心できるかもしれない。


「…あのさ、真冬くん」

「…はい…?」


うさぎを彼方さんとの間に挟みながら、眠ろうと目を閉じていると聞こえた声。


「蒼は…夜、ちゃんと眠れてた…?」


目を開ければ、隣に寝ている彼方さんが窓の外を見上げていた。

暗い空に浮かぶ沢山の星。


「…悪夢を見たと言って、夜に何度か起きてたことはありました…けど…でも大体は、ちゃんと眠れてたと、思います…」


どうしてそんなことを聞くのかと不思議に思っていると、彼方さんは窓の外を見上げたまま、ほっとしたように息を吐いた。


「…そっか。君の傍では安心して眠れてたんだね。…よかった」

「どういうことですか…?」


不意にこっちを向いた彼方さんと視線が合ってどきりとする。

ゆっくりと頭を撫でられた。


「…君と蒼は、とてもよく似てる気がする…」

「…似てる?」

「なんだろう…?雰囲気、かな」

「……ふんいき…似てますか?」


考えてみても、蒼と似てるって思ったことないし、やっぱり自分ではよくわからない。


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