手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
394 / 842
吐き気と、暴力と、

彼女の悪巧み

しおりを挟む








………

……………


妃さんとの話を終え、廊下に出る。

疲労感に思わず息を吐いて、蒼の部屋に戻ろうとした時だった。


「……」


視線を上げた瞬間、向こうから歩いてくる着物姿の人間が見えた。

思わず顔を強張らせると、向こうはそんな俺を見て顔色一つ変えずにその顔に鬱陶しいほどの楽しげな笑みを張り付けている。


「…あら、偶然ね。そんなところにいて、彼女の相手は終わったの?」


今気づいた、というようなわざとらしい雰囲気を露骨に醸し出している声音。
偶然というより狙ってやって来たんじゃないかと思うほどのタイミングの良さだ。
無意識に眉根が寄る。


「ねぇ、彼方」

「…椿さん」


慈しむような表情で、頬に伸ばされた手。
払いのける。
そういう選択肢がないこともないけど、俺はそんなことが出来る立場でもないし別段そうしようとも思わなかった。


「……」


ゆっくりと顔を近づけてきた椿さんに、瞼は閉じない。
向こうだって目を閉じてないし、ここで避けたり目を閉じたりしたら負けたような気がしてならなかった。

暗くなる視界と、香水の匂い。

静かに重なった唇は、すぐに離れていった。

離れた後さえ、お互いに目を閉じず、見つめ合うというよりもむしろ睨み合うような視線を向けている。

ずっとそうしていると、飽きたのか珍しく”彼女”の方が折れた。
ふ、と呆れたような吐息を吐いて、肩を竦める。


「相変わらず面白くない」


貴方も、という言葉をぐっと飲みこんで「何か用ですか」とぞんざいな口調で返せば椿さんは不気味なほど上機嫌な表情で微笑んだ。


「明日、お前に見せたいものがある」

「…?、なんですか」


表情はいつも通りなのに、急に少年っぽい声と言葉遣いに変わったことに狼狽えた。

大人っぽい女性の見た目とのギャップに、本当にその口から発されているのかと怪訝に思う。
昔聞いた荒っぽい男のような低い声とも違う。
この人は一体どんな声帯をしているんだと、その声の変化に毎回驚く。


「見たらわかる。きっとお前も喜ぶぜ」

「…は?」


喜ぶ?


「最近新しいオモチャを手に入れたんだって言っただろ」と続ける椿さんの言葉と俺が喜ぶ、という言葉が頭の中で繋がらない。

確かにその新しい玩具が云々の話は聞いた…ような気がする。

でもいつものことだし、俺に関係ないだろうと聞き流していたから、今の今まで忘れていた。

理解できずに、怪訝に歪んでいた顔がさらに不信感と困惑の色に染まる。


「じゃ、明日の午後お嬢さんと話し終わった後、俺の部屋の前に来い」

「………」


俺の返事も待たず、あっさりと手を振って椿さんは元の道を帰っていった。
すれ違う黒服にいつも通りの女声で返しているのを目で追って、少し経ってから何も言わずに踵を返した。





しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

人気俳優に拾われてペットにされた件

米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。 そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。 「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。 「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。 これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...