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彼の愛しい人
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彼の少し後ろを、歩く。
高身長に加えてすらっとした体型で、風によって微かに揺れるサラサラな黒髪は後ろ姿でさえ見る者の心を奪い、無性に惹きつけて止まない。
陽の光でキラキラしているように見える姿に、眩しくて少し目を細めた。
時々まばらに振る雪が間を通り、その距離を実感させる。
「座って」
声に従い、隣に腰を下ろす。
まるで、俺が蒼と別れたあの日のように。
縁側で、用意してくれていたらしい紅茶。
取っ手を持とうとすれば、震えている指のせいで陶器が受け皿にぶつかってしまう。
「俺がやるよ」と手が添えられ、飲みやすいように代わってくれる。
申し訳なくて、小さく謝った。
一口飲めば、温かく優しい味が口の中に広がる。
ちゃんと自分でもできるようにならなければいけないからと、受け取ってなんとか自分の口に運ぼうとして……やはりうまくいかなかった。
蒼が再度気遣って声をかけてくれたけど首を横に振った。
カップをお盆の上に置いて、一息つく。
全てが、巻き戻ったような気がした。
会いたかったと、抱き締めたいと、そう叫びたくなるほどに欲してしまう身体を抑制する。
「美味しい?」
「…うん」
ありがとう、と御礼を言う。
感情は、今は落ち着いていた。
…正しく言えば、違うかもしれない。
何度もめちゃくちゃになって、けれど答えを得ることができないからそうなるしかなかったというほうが近い。
なにもかもが、全部覆ってしまった。
彼女の言う通り、……俺は、紛れもない『人殺し』だ。
今度は、正当性のかけらもなかった。
言い訳なんてできないほど、愛情を求めた自分のせいだった。
(……問題は、それだけじゃなくて――、)
隣をこっそり見上げる。
声をかけたくて、無意味に唇を動かそうとする。
喉だけが震えてしまって、音にならない。
何を言えばいいかもわからなくて、すぐに諦めて俯き、閉口した。
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