貴方の隣で呼吸がしたい。

ハリエンジュ

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第三話『貴方はいい子よ』

その2 たった一人の、愛しい人

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★貴方の隣で呼吸がしたい。 第三話『あなたはいい子よ』その2 たった一人の、愛しい人

 私が黄桜高校に赴任して、数日後。
 初めての学級会の後、フウリさんが我々2年1組の学級委員長になった。
 フウリさんはやはりと言うか、元々人望の厚い生徒だったらしく、クラスほぼ全員の支持を得ていた。
 中には、委員長という一見面倒な仕事を他人に丸投げしたいという生徒もいたのかもしれないが。
 そうして、学級会を改めて委員長としてフウリさんが仕切り、委員会の分担が終わってチャイムが鳴った頃。
 フウリさんの幼馴染のリクトくんが、ぴょんっと教卓近くのフウリさんの机に飛び乗った。
 驚くフウリさんの頭を、リクトくんがわしゃわしゃと乱暴に撫で回す。

「今年も委員長になっちまうなんて、やっぱフウリはすげえな! ほんとかっこいいぜ!」

 そう言って、リクトくんは屈託なく笑う。
 リクトくんの言葉に、頭を撫でる手に、フウリさんの顔はじわじわと真っ赤になって。

「うがーっ! バカリクト! 頭撫でんな! 耳触んな! ほんと怒るよ!?」

「へ? 何でだ?」

 リクトくんは、きょとん、という効果音が良く似合う表情を浮かべ、首を傾げていた。
 怒ると言えば。

「リクトくん」

 私は静かに、彼の名を呼んだ。
 リクトくんが、フウリさんから手を離し、私の顔を見る。

「おう、何だ、千歳先生――がっ!?」

 殴った。
 不意打ちだったのか、そこそこガタイが良いはずのリクトくんの身体でも、わりかし簡単に吹っ飛んだ。
 教室の空気が固まる。
 フウリさんも、かなり驚いているようだった。
 それでも、リクトくんはすぐに復活して。

「いってえ!! 何すんだよ先生!?」

「何をするんだ、はこっちの台詞です。机の上に乗るなと何度も言わせないでください。ちなみにこの注意はこれで九回目です。次やったら折りますよ」

「何を折るんだよ!? あっ、でも、それは確かにオレがわりぃな! おう、気をつける!」

「ええ、気をつけてください」

 まあ、接していれば良くわかるが、リクトくんは決して悪い人間ではない。
 裏表がなく、どこまでも真っ直ぐで――それゆえに、思慮が浅いだけだ。
 私たちのそんな様子を見て、ちょいちょい、と何者かに服の裾を引っ張られた。
 視線を下げると、クラスのムードメーカー的存在のテラくんがにこにことこちらを見上げていて。
 ちなみに、リクトくんはフウリさんに説教を食らっている最中だ。
 テラくんは、何がそんなに面白いのか、とても晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「ははっ、ちぃ先生は面白いね、ほんと!」

「……ちぃ先生って、何ですか。ちぃ先生って」

「へ? あだ名。だってひじりんが先生のこと『ちぃ』って呼んでるじゃん」

 ひじりん。
 聖くんのことか。
 少し抗議の視線を、少々お門違いと思いつつも割と近くの席にいた聖くんに向ければ、フィーナさんと談笑していた筈の聖くんが私の視線に気付いたのか、意味深な笑顔をこちらに向けてきた。
 少々腹が立った。
 そのあと、聖くんとフィーナさんが小夜さんに声をかけたのを見て、小夜さんが儚げに笑い返したのを見て。
 やっぱり、胸が苦しくなった。

「ねえねえ、ちぃ先生」

 少し、小夜さんを見ていたせいで意識がテラくんから逸れていた。
 もう一度視線を戻し、私はなるべく平然を装う。

「リクトとフウリちゃん、付き合っちゃえばいいのにって思わない?」

「……どうしてですか」

「えっ、なんかお似合いじゃん?」

 何故、高校生というものはこの手の話題にすぐ食いつくのだろう。
 思春期なんてどこもそんなものかと思いつつ、私は言い捨てた。

「……勿論、本人たちにその気があるなら応援くらいはしますよ」

「あれ、意外。ちぃ先生、もしかしてこういうのに乗り気? あっ、まさかちぃ先生も恋人とかいるの?」

 恋人。
 なんて答えるのが正解なのだろう。
 今は、恋人ではない。
 今の小夜さんには、私と過ごした記憶が何一つないのだから。
 だけど、私はあの優しい時間をなかったことにはしたくなくて。

「恋人と言うか……とても、愛しい人なら居ますよ」

 私の言葉に、テラくんは、ぽかん、とびっくりしたかのように大きな口を開けていた。
 ――この時、小夜さんの方に視線を送る勇気が持てなかった私は、やはり臆病者なんだと思う。
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