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第三話『貴方はいい子よ』
その3 ミスター・トリガーハッピー
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★貴方の隣で呼吸がしたい。 第三話『あなたはいい子よ』その3 ミスター・トリガーハッピー
当たり前のように訪れた、2年1組の数学の時間。
今日は、前回の授業で行われた数学の小テストを返却する日だった。
ある生徒は、点数が良かったことに表情をぱっと輝かせ、ある生徒は、点数が悪かったことにひどく落胆し。
そんな、生徒たちが一喜一憂していく中。
小夜さんは――私からテスト用紙を受け取るだけで、警戒したような、緊張したような素振りを見せて。
いい加減、小夜さんの私へのこの態度にも慣れないといけないのに、全ては私が撒いた種なのに。
それでも割り切れず、彼女の思い出に縋り、また笑いかけてほしい、などという身勝手な願いを未だに抱いてしまう自分が、私はやはり無性に憎らしい。
「リクトーーっ!! りっくとー!! 何点だったー!? オレ、こないだよりなーんと2点もアップ!」
「ぐああっ!! 負けた!! くそっ、オレはこないだより5点下がったぜちくしょう!!」
テラくんとリクトくんが、授業中だと言うことも忘れてお互いのテストの点数の話題で盛り上がり、騒ぎ始める。
それに触発されたかのように、と言うか主な元凶の一人はやはりと言うか聖くんだったが、他のクラスメイトも次々と雑談を始めてしまう。
小夜さんは、少し困ったかのような顔をしていた。
止めたいのだろうが、皆の楽しそうな空気を壊したくない、とでも言うかの表情だ。
そうだった。
小夜さんは、周りの調和を大事にする人なのだ。
そろそろ注意しようと咳払いしたと同時に、クラス委員長のフウリさんが席を立った。
ここは彼女に任せるべきか、と言葉を引っ込めたところで。
ぱん。
乾いた、破裂音のような音が響いた。
その音を皮切りに、しん、と教室中が静まり返る。
――何だ、今の音は。
だって、今の音は。
日常生活を平穏に過ごすにおいて、絶対に聴いてはいけない音じゃなかったか?
私は絶句していたし、フウリさんも絶句して、しまいにはフウリさんはすとんとその場に着席してしまった。
その、視線の先には。
眼鏡をかけた、黒髪の、白衣を羽織った――まるでフランケンシュタインの怪物のように、肌がツギハギだらけの少年。
少年の手に握られているのは、鉄の塊。
ドラマや映画でしか見ることができないような、拳銃、だった。
つまり、先ほどの破裂音は、乾いた銃声ということで。
良く見れば、教室の床に真新しい弾痕が出来ている。
と言うことは、あれで威嚇射撃した、ということなのだろう。
少年は、教室中を見回して心底鬱陶しそうに言う。
「――うるせえんだよ、有象無象」
私は溜息を、吐いた。
それはそれは、長い長い溜息を。
まあ、確かに、先ほどの教室は少々騒がしすぎたかもしれない。
けれど。
けれどだ。
ちらり、と小夜さんを見やる。
小夜さんは、少し怯えたように身を震わせているようだった。
何であの少年が実銃を持っているのか、とか、言いたいことは多々あるが、それはもう多々あるが。
そんな小夜さんの姿を見たら、見てしまっては。
私がやることは、一つしかない。
ばん、と教材を教卓に叩きつけ、丁度近くに無造作に置かれていた空いた机を片手で引っ掴む。
そのまま足早に白衣の少年に近付く。
少年は突然の私の行動に驚いたのか、銃口をこちらに向けてくる。
だが、その程度で怯むほど私は弱くはないつもりだ。
ぱん。
またしても、銃声が響く。
威嚇射撃だと言うことはわかっていたので、気にも留めず少年に近付いた。
ぱん、ぱん。
銃声の間隔が短くなる。
そして、いよいよ威嚇射撃だけじゃ私が止まらないと察したのか、彼は私自身に銃口をはっきりと定め――。
たん。
一際大きな、銃声が響いた。
だが、銃弾は私には届かなかった。
先程引っ掴んだ机を盾にガードしたからだ。
自分の身を守る為、と言うのもあるが、自分の生徒に人を傷つけさせるわけにもいかない。
それから、白衣の少年の席に辿り着き。
殴った。
それはもう、思いっ切り。
少年が、声にならない悲鳴を上げて頭を押さえる。
私は、淡々と、それでいて怒りを滲ませた声で説教をした。
「馬鹿ですか? 馬鹿なんですか? 君は。何故そんな危なっかしい物を持ち歩いているんですか。しょっぴかれたいんですか。そもそも今の銃弾が誰かに当たっていたらどうするんですか。万が一命を奪う可能性は考慮しなかったんですか?」
くい、くい。
スーツの裾を、何物かに引っ張られる。
聖くんだった。
「ちぃ、ちぃ。言い忘れていたのだがね、護身用に銃を持つことは、プレザント・ナイトメアの銃刀法的にはセーフなのだよ」
そういうことはもっと先に言ってほしい。
とりあえず、聖くんのことも後で殴ろうと決意して。
「法で許されている、許されていないは問題ではありません。引き金を簡単に引くことが問題なんです。きみは、命の価値をわかっていない。大馬鹿者です。充分に反省するように」
それだけ述べて、もう一度白衣の少年の頭を殴った。
少年がぐ、と呻いて、少し涙の滲んだ目でこちらを睨むように見上げて。
「……『馬鹿』って、多分、初めて言われたんだがな……」
まあ、確かに。
成績だけ見れば、彼は馬鹿ではないのだろう。
だが彼は、人として大事なところがとても馬鹿だ。
彼の、白衣の少年の名前はタクト・マックスウェルくん。
学業成績だけで言うなら――私が見たデータによると、学年でトップクラスの生徒だった。
当たり前のように訪れた、2年1組の数学の時間。
今日は、前回の授業で行われた数学の小テストを返却する日だった。
ある生徒は、点数が良かったことに表情をぱっと輝かせ、ある生徒は、点数が悪かったことにひどく落胆し。
そんな、生徒たちが一喜一憂していく中。
小夜さんは――私からテスト用紙を受け取るだけで、警戒したような、緊張したような素振りを見せて。
いい加減、小夜さんの私へのこの態度にも慣れないといけないのに、全ては私が撒いた種なのに。
それでも割り切れず、彼女の思い出に縋り、また笑いかけてほしい、などという身勝手な願いを未だに抱いてしまう自分が、私はやはり無性に憎らしい。
「リクトーーっ!! りっくとー!! 何点だったー!? オレ、こないだよりなーんと2点もアップ!」
「ぐああっ!! 負けた!! くそっ、オレはこないだより5点下がったぜちくしょう!!」
テラくんとリクトくんが、授業中だと言うことも忘れてお互いのテストの点数の話題で盛り上がり、騒ぎ始める。
それに触発されたかのように、と言うか主な元凶の一人はやはりと言うか聖くんだったが、他のクラスメイトも次々と雑談を始めてしまう。
小夜さんは、少し困ったかのような顔をしていた。
止めたいのだろうが、皆の楽しそうな空気を壊したくない、とでも言うかの表情だ。
そうだった。
小夜さんは、周りの調和を大事にする人なのだ。
そろそろ注意しようと咳払いしたと同時に、クラス委員長のフウリさんが席を立った。
ここは彼女に任せるべきか、と言葉を引っ込めたところで。
ぱん。
乾いた、破裂音のような音が響いた。
その音を皮切りに、しん、と教室中が静まり返る。
――何だ、今の音は。
だって、今の音は。
日常生活を平穏に過ごすにおいて、絶対に聴いてはいけない音じゃなかったか?
私は絶句していたし、フウリさんも絶句して、しまいにはフウリさんはすとんとその場に着席してしまった。
その、視線の先には。
眼鏡をかけた、黒髪の、白衣を羽織った――まるでフランケンシュタインの怪物のように、肌がツギハギだらけの少年。
少年の手に握られているのは、鉄の塊。
ドラマや映画でしか見ることができないような、拳銃、だった。
つまり、先ほどの破裂音は、乾いた銃声ということで。
良く見れば、教室の床に真新しい弾痕が出来ている。
と言うことは、あれで威嚇射撃した、ということなのだろう。
少年は、教室中を見回して心底鬱陶しそうに言う。
「――うるせえんだよ、有象無象」
私は溜息を、吐いた。
それはそれは、長い長い溜息を。
まあ、確かに、先ほどの教室は少々騒がしすぎたかもしれない。
けれど。
けれどだ。
ちらり、と小夜さんを見やる。
小夜さんは、少し怯えたように身を震わせているようだった。
何であの少年が実銃を持っているのか、とか、言いたいことは多々あるが、それはもう多々あるが。
そんな小夜さんの姿を見たら、見てしまっては。
私がやることは、一つしかない。
ばん、と教材を教卓に叩きつけ、丁度近くに無造作に置かれていた空いた机を片手で引っ掴む。
そのまま足早に白衣の少年に近付く。
少年は突然の私の行動に驚いたのか、銃口をこちらに向けてくる。
だが、その程度で怯むほど私は弱くはないつもりだ。
ぱん。
またしても、銃声が響く。
威嚇射撃だと言うことはわかっていたので、気にも留めず少年に近付いた。
ぱん、ぱん。
銃声の間隔が短くなる。
そして、いよいよ威嚇射撃だけじゃ私が止まらないと察したのか、彼は私自身に銃口をはっきりと定め――。
たん。
一際大きな、銃声が響いた。
だが、銃弾は私には届かなかった。
先程引っ掴んだ机を盾にガードしたからだ。
自分の身を守る為、と言うのもあるが、自分の生徒に人を傷つけさせるわけにもいかない。
それから、白衣の少年の席に辿り着き。
殴った。
それはもう、思いっ切り。
少年が、声にならない悲鳴を上げて頭を押さえる。
私は、淡々と、それでいて怒りを滲ませた声で説教をした。
「馬鹿ですか? 馬鹿なんですか? 君は。何故そんな危なっかしい物を持ち歩いているんですか。しょっぴかれたいんですか。そもそも今の銃弾が誰かに当たっていたらどうするんですか。万が一命を奪う可能性は考慮しなかったんですか?」
くい、くい。
スーツの裾を、何物かに引っ張られる。
聖くんだった。
「ちぃ、ちぃ。言い忘れていたのだがね、護身用に銃を持つことは、プレザント・ナイトメアの銃刀法的にはセーフなのだよ」
そういうことはもっと先に言ってほしい。
とりあえず、聖くんのことも後で殴ろうと決意して。
「法で許されている、許されていないは問題ではありません。引き金を簡単に引くことが問題なんです。きみは、命の価値をわかっていない。大馬鹿者です。充分に反省するように」
それだけ述べて、もう一度白衣の少年の頭を殴った。
少年がぐ、と呻いて、少し涙の滲んだ目でこちらを睨むように見上げて。
「……『馬鹿』って、多分、初めて言われたんだがな……」
まあ、確かに。
成績だけ見れば、彼は馬鹿ではないのだろう。
だが彼は、人として大事なところがとても馬鹿だ。
彼の、白衣の少年の名前はタクト・マックスウェルくん。
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