貴方の隣で呼吸がしたい。

ハリエンジュ

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第三話『貴方はいい子よ』

その4 ひとりにもそれぞれ

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★貴方の隣で呼吸がしたい。 第三話『あなたはいい子よ』その4 ひとりにもそれぞれ

 タクト・マックスウェルくんという実銃を持ち歩く危険な受け持ち生徒を思いっ切り殴ってから、何となく彼を観察するようになったが。
 タクトくんは、基本的に単独行動を好む少年だった。
 別に社交性が皆無なわけではないと思う。
 気まぐれにクラスメイトに歩み寄ることもある。
 ただ、彼は――いつもどこか、周囲を冷めた目で傍観していた気がした。
 そんなことを考えていると、ちょんちょん、と背中をつつかれた。
 振り返ると、少し含みのある笑みを浮かべた聖くんが立っていて。

「……何ですか」

 何となく嫌な予感、と言うか大体の予想はできたが、一応は訊ねた。
 聖くんは、けらけら笑いながら私の背中をばしばしと無遠慮に叩いてくる。

「いんや、ちぃが小夜ちゃん以外に熱い視線を送っているとは、珍しいと思ったのだよ」

 殴った。
 からかうようなその瞳が、口元が、無性に苛立たしかったからだ。
 聖くんは一瞬潰れ、崩れ落ちかけたが、すぐに復活してへらりと笑った。
 毎度思うが、この子はかなりしぶといと思う。
 だからこそ懲りないわけで、私としては少々悩ましい問題を抱えているわけなのだが。

「タクトのこと、気になるのかね?」

「それはまあ。授業中にいきなり発砲されてはつい注意を払ってしまいますね」

「なるほど、確かに。でもまあ、この世界ではそこそこ普通のことなのだよ」

 本当に、このプレザント・ナイトメアとやらはどうなっているんだ。
 社会構造が元の世界と似ているかと思えば、魔物が襲ってきたり生徒が実銃を携帯していたり。
 色々と常識が容量をゆうに超えてしまいそうで頭を抱えてしまいそうになった頃。
 聖くんは、ぴん、と人差し指を突き出して言った。

「これは、テラ情報なのだがね」

「テラくんですか」

 何となく、情報源に説得力があるように思えた。
 テラくんは社交性、コミュニケーション能力がとても高く、誰とでも上手くやれている印象があったから。
 そうして、聖くんは語っていく。

「ちぃは知っているかもしれないが、タクトは学業成績だけなら学年トップクラスなのだよ。もしかしたら、三年生の分野も把握しているかもしれない。秀才中の秀才だ」

「ええ、そうらしいですね」

「でも、だからかね。学問以外に興味が無いと言うか、頭が固いと言うか。ちょっと冷め過ぎた子なのだよ。興味のないことにはとことん塩対応でやる気も出さない。実際、体育の成績は散々なんだそうだ。頭でっかちさんなわけだね」

「……なるほど」

 まあ、そういう生徒もいることにはいるだろう。
 学問に情熱を注ぐことは別に悪いことではないし、それが彼が心底決めた道だと言うなら止める理由もない。
 けれども。
 彼が一人、と言うのは、何だか。

「今、お節介なこと考えているだろう、ちぃ」

「……何ですか、そのお節介って」

「ちぃは割とお節介かつお人好しだからね。心配になるわけだよ。おれとしては」

 聖くんがにやにや笑いながら私を見上げてくる。
 もう一度、殴ってしまおうかとも思ったが、私は軽く溜息を吐き出して言った。

「……私は、聖くんの学校での姿を、今まで知らなかったんです」

「……ふむ?」

 突然自分の名前を出されて、聖くんが目を丸くする。灰色の瞳は、今日も真っ直ぐに私なんかを映していた。

「きみは友人と遊ぶ素振りも見せなかったし、学校での出来事も話さなかったし、私の家に入り浸りでしたし、これでも心配していたんですよ。だから、一人の生徒を見ると、つい色々考え過ぎてしまうんです。聖くんもこうだったのではないかと」

「なんだ、おれの為でもあったのか」

「そういうわけではありません」

「照れるな照れるな、嬉しいのだよ」

「殴りますよ」

 にへにへと破顔する聖くんの両頬を思いっ切り抓る。
 抓り上げながら、聖くんの間抜けな表情を見ながら思った。

 彼にも、タクトくんにも。
 いつか、何の躊躇もなく心を許せる存在が現れればいい。
 そう思ってしまう私は、やはり聖くんの言う通り『お節介』なのかもしれない。
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