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第三話『貴方はいい子よ』
その5 しなない、しなない、だいじょうぶ
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★貴方の隣で呼吸がしたい。 第三話『あなたはいい子よ』その5 しなない、しなない、だいじょうぶ
teller:タクト・マックスウェル
騒がしい教室で、今日も一人、俺――タクト・マックスウェルは銃を磨く。
黒い鉄の塊。
俺がそのつもりでこの引き金を引けば、簡単に、誰かの命だって奪える武器。
……つっても、俺は今までの人生でこの引き金を一体幾度引いたのだろうか。
苛立った時、ムカついた時、怒り狂った時――って、そりゃ、どれも同じか。
とにかく、気に入らないことがあると俺はすぐに発砲してしまう。
たん、たん、と響く破裂音は、いつも不思議と俺を安心させた。
俺は、勉強はそれなりにできると思う、頭は良い自負はある。
でも、体力はないし、運動神経はゼロ。
ケンカなんて、かなり弱い。
そんな弱っちい自分が嫌で、俺はこの銃で武装するようになった。
幸い、この世界の法律にはこんな危険な武器を持ち歩こうが、護身用なら法律上許される。
俺は多分、俺にとって相当都合が良い世界に生まれ落ちたんだと思う。
この銃があれば、俺は誰にも負けない、そう思っていた。
でも。
京極千歳と言う、俺の担任教師は、いとも簡単にこの銃撃を突破し、俺を殴り飛ばしてきた。
誰かに思いっ切り殴られること自体久々の感覚で、痛かったし、驚いたし、悔しい、と思ってしまった。
テラの馬鹿も、リクトの馬鹿も、千歳センセーに随分と懐いている。
俺からすりゃ、あんな愛想の欠片もねえ教師、どこがいいのやらって思うけど。
でもまあ、騒がしいだけの馬鹿とか、気持ちを押し付けてくる熱血教師とか、にこにこしてばかりいて何考えているかわからん読めない奴よりは、随分とマシだと思う。
頭だって、悪くはねえと思うし。
にこにこと、言えば。
「にゃひひー、タクトくん、随分と不機嫌だねえ。反抗期ですかにゃあ。なんて、タクトくんはいっつもそっかあ」
出た。
苛々するほど、ふにゃふにゃとした、不安定な程にのんびりとした声。
俺が銃を手入れする手を止めてじろり、と睨み上げると、俺の机に、一人の女子生徒が手を置いてにこにこと、いや、にまにまと微笑んでいた。
長めのオレンジ色の髪、糸目、それから、猫を思わせる不思議な口元。
クラスメイトのシニユ・アルワンテ。
どういうわけか俺にやたらと絡んでくる、面倒で、掴みどころのない女。
鬱陶しいから、俺はこいつを『アルワンテ』と苗字で呼んでいる。
ファーストネームで他者を呼ぶことが多いこの世界の文化に、真っ向から反発しているわけだ。
そのくらい、俺はアルワンテのことが苦手だった。
「何の用だ、うっぜえ」
「にゃふふ、つれないなあ。タクトくんがちぃ先生にがつんと殴られて以来、元気がないようだったから、せっかくシニユさんがお慰めに参上したのにぃ」
「ケンカ売ってんのか?」
「シニユさん特製の愛情なら無料で販売中でーす」
俺がますます眉間に皺を寄せても、アルワンテの独特の笑顔は崩れない。
こういうところも、俺はやっぱり気に食わない。
何を考えているやらわからない、理屈じゃないタイプの人間は大嫌いだ。
そう意味だと、転入生の神前聖も、まあまあ気に食わないかもしれない。
「てめえの愛情なんか要らねえよ。キモいこと言うな」
「またまたぁ、そんなこと言っちゃって。タクトくん、クールぶってるけどすっごーくさみしがりやさんのくせにぃ」
じゃこっ。
重たい音が響いた。
俺が、咄嗟にアルワンテに銃口を向けた音だ。
威嚇射撃なんかじゃない。
本気で撃つつもりで、俺はアルワンテに今、銃を向けていて、引き金に手を添えている。
それでも。
それでも――アルワンテは、にこにこと微笑んでいた。
「……マジで撃つぞ。てめえ」
「にゃはは、まあシニユさんは撃たれても平気だからねー。……なんせほら、不死鳥ですから!」
「……うっぜえ」
アルワンテのあっけらかんとした一言に興を削がれ、俺は銃を下ろす。
そう、そうなのだ。
アルワンテの種族は『不死鳥』。
寿命が尽きるまで、いくら傷付けられようが瞬時に傷が回復し蘇る、ほとんど最強なんじゃないかってくらいの存在。
俺がいくらこの銃でこいつを撃っても、こいつは死なない。
傷跡一つ残らないし、痛みを感じるのかどうかまではわからないが、俺が撃ってしまったとしてもアルワンテはまた笑顔で俺に纏わりつくんだろう。
だから俺は、こいつが苦手だ。
アルワンテといい、千歳センセーといい。
銃に依存しきった俺の安全な世界を壊してくるやつは。
――やっぱりどうも、気に食わない。
teller:タクト・マックスウェル
騒がしい教室で、今日も一人、俺――タクト・マックスウェルは銃を磨く。
黒い鉄の塊。
俺がそのつもりでこの引き金を引けば、簡単に、誰かの命だって奪える武器。
……つっても、俺は今までの人生でこの引き金を一体幾度引いたのだろうか。
苛立った時、ムカついた時、怒り狂った時――って、そりゃ、どれも同じか。
とにかく、気に入らないことがあると俺はすぐに発砲してしまう。
たん、たん、と響く破裂音は、いつも不思議と俺を安心させた。
俺は、勉強はそれなりにできると思う、頭は良い自負はある。
でも、体力はないし、運動神経はゼロ。
ケンカなんて、かなり弱い。
そんな弱っちい自分が嫌で、俺はこの銃で武装するようになった。
幸い、この世界の法律にはこんな危険な武器を持ち歩こうが、護身用なら法律上許される。
俺は多分、俺にとって相当都合が良い世界に生まれ落ちたんだと思う。
この銃があれば、俺は誰にも負けない、そう思っていた。
でも。
京極千歳と言う、俺の担任教師は、いとも簡単にこの銃撃を突破し、俺を殴り飛ばしてきた。
誰かに思いっ切り殴られること自体久々の感覚で、痛かったし、驚いたし、悔しい、と思ってしまった。
テラの馬鹿も、リクトの馬鹿も、千歳センセーに随分と懐いている。
俺からすりゃ、あんな愛想の欠片もねえ教師、どこがいいのやらって思うけど。
でもまあ、騒がしいだけの馬鹿とか、気持ちを押し付けてくる熱血教師とか、にこにこしてばかりいて何考えているかわからん読めない奴よりは、随分とマシだと思う。
頭だって、悪くはねえと思うし。
にこにこと、言えば。
「にゃひひー、タクトくん、随分と不機嫌だねえ。反抗期ですかにゃあ。なんて、タクトくんはいっつもそっかあ」
出た。
苛々するほど、ふにゃふにゃとした、不安定な程にのんびりとした声。
俺が銃を手入れする手を止めてじろり、と睨み上げると、俺の机に、一人の女子生徒が手を置いてにこにこと、いや、にまにまと微笑んでいた。
長めのオレンジ色の髪、糸目、それから、猫を思わせる不思議な口元。
クラスメイトのシニユ・アルワンテ。
どういうわけか俺にやたらと絡んでくる、面倒で、掴みどころのない女。
鬱陶しいから、俺はこいつを『アルワンテ』と苗字で呼んでいる。
ファーストネームで他者を呼ぶことが多いこの世界の文化に、真っ向から反発しているわけだ。
そのくらい、俺はアルワンテのことが苦手だった。
「何の用だ、うっぜえ」
「にゃふふ、つれないなあ。タクトくんがちぃ先生にがつんと殴られて以来、元気がないようだったから、せっかくシニユさんがお慰めに参上したのにぃ」
「ケンカ売ってんのか?」
「シニユさん特製の愛情なら無料で販売中でーす」
俺がますます眉間に皺を寄せても、アルワンテの独特の笑顔は崩れない。
こういうところも、俺はやっぱり気に食わない。
何を考えているやらわからない、理屈じゃないタイプの人間は大嫌いだ。
そう意味だと、転入生の神前聖も、まあまあ気に食わないかもしれない。
「てめえの愛情なんか要らねえよ。キモいこと言うな」
「またまたぁ、そんなこと言っちゃって。タクトくん、クールぶってるけどすっごーくさみしがりやさんのくせにぃ」
じゃこっ。
重たい音が響いた。
俺が、咄嗟にアルワンテに銃口を向けた音だ。
威嚇射撃なんかじゃない。
本気で撃つつもりで、俺はアルワンテに今、銃を向けていて、引き金に手を添えている。
それでも。
それでも――アルワンテは、にこにこと微笑んでいた。
「……マジで撃つぞ。てめえ」
「にゃはは、まあシニユさんは撃たれても平気だからねー。……なんせほら、不死鳥ですから!」
「……うっぜえ」
アルワンテのあっけらかんとした一言に興を削がれ、俺は銃を下ろす。
そう、そうなのだ。
アルワンテの種族は『不死鳥』。
寿命が尽きるまで、いくら傷付けられようが瞬時に傷が回復し蘇る、ほとんど最強なんじゃないかってくらいの存在。
俺がいくらこの銃でこいつを撃っても、こいつは死なない。
傷跡一つ残らないし、痛みを感じるのかどうかまではわからないが、俺が撃ってしまったとしてもアルワンテはまた笑顔で俺に纏わりつくんだろう。
だから俺は、こいつが苦手だ。
アルワンテといい、千歳センセーといい。
銃に依存しきった俺の安全な世界を壊してくるやつは。
――やっぱりどうも、気に食わない。
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