18 / 47
17 あーんして下さい
しおりを挟む
「はい、瑠璃さん、あーんして下さい」
自分でやると言いたいのに、身体は動かせない。
私は悔しさを全面に出しながらも不承不承口を開いた。
適度な塩加減のお粥がゆっくりと流し込まれ、私はそれを舌で味わう事なく丸呑みした。
お粥はあまり好きではないのだ。病気になったら、おじややうどんを用意していた。実家でもそうだったので、普通のお粥など殆ど食べた事が無かった。
会話も無い静かな病室に、カチャカチャと食器とレンゲの当たる音だけが響く。
白いカーテンが靡く窓の外は太陽が煌々と照っている。こんな状態でなければテラスのあるカフェに出掛けたくなる位良い天気だ。
携帯を確認したい所だけど、ゆりなは私を攫う際に荷物は全て川に捨てたと証言しているらしく、捜索中とのことだ。流れが強くて深い場所なので恐らく発見は難しいだろうということだ。
携帯は勿論水没で破損しただろうから発見されたところで……という感じだけど。
不幸中の幸いで、財布だけは手付かずでゆりなが所持していたのが返却された。
お金ではなく、身分証を隠す事が目的だったそうだ。どんだけ私を身元不明遺体にしたかったんだって話で、恐怖よりも呆れてしまった。
晴人さんに給餌されるという羞恥プレイのような時間は、お粥が空になった事で終了し、沈黙が落ちた。
晴人さんは静謐ささえ感じるほど穏やかに私を見つめている。
痛いほどの沈黙が、どこかの学校のチャイムで間抜けな感じに緩められた時、ようやく晴人さんが口を開いた。
「全て、思い出したんですよね。俺がしたこと」
もう既に聞き慣れてきた穏やかな声が、絞り出すように告げた言葉に、私はコクリと頷いた。これでも地味に痛くて眉を潜めてしまう。
喋ろうと息を吸うだけで肺を覆う肋骨が動いて痛むので、あまり喋りたく無いけれど、なんとか振り絞って応じる。
「どうして……」
ようやく声帯を震わせる事が出来たけれど、それ以降は途切れてしまった。
どうして、私を無理矢理抱いたの。
どうして、私を助けに来れたの。
どうして……。
沢山の疑問が浮かんでは、言葉に出来ずに喉で詰まる。
「全ては、貴女に俺の番になって貰う為……でした」
「な! 痛っ」
まるで自分が被害者であるかのような沈痛な表情に腹が立った。
でも、反射で殴りかかろうとした右手は、痛みに阻されて、少し浮かせた背がベッドに逆戻りになってしまった。
血管の動きに合わせてドクドクと続く痛みにウグググと呻く。
痛み止めにも限界があるらしい。
涙が滲んで、目尻から耳へ流れて不快に思っていると、慌てて立ち上がった晴人さんが、タオルで涙を拭って私に少しはだけた布団をかけ直してくれた。
「落ち着いて瑠璃さん。やっぱり話すのはもう少し回復してからにしましょう。興奮して傷口が開いたら大変です。俺は毎日ここに居ますからいつでも話せますから」
「な……に……言ってん、のよ、忙しいんでしょ……」
人気アイドルのハヤッチのマネージャーがそんな暇な筈がない。今ここにいるのだって無理に時間を作っているに決まっているのだ。
今だって明るい表情を作って誤魔化しているつもりだろうが、かなり顔色が悪い。
私の為に晴人さんが身体を壊したら元も子もない。
痛みで途切れ途切れになる言葉に、晴人さんが布団ごしに撫でながら、衝撃発言をした。
「大丈夫です。俺はそこのベッドで寝泊まりしてますから」
と言って、隣のベッドを指し示したのだ。
はぁ!? と声にならない悲鳴が漏れた。確かにベッドサイドのテーブルには書類が積まれていて、とても病人のベッドには見えないとは思っていた。けど……。
「あ、落ち着いて下さい。傷に障ります!」
誰の所為よ! と、晴人さんを睨む。今の私はゆりなもびっくりの凶悪な顔をしている自信がある。
それなのに、晴人さんは何やら嬉しそうに頰を染めて私を見ている。何故だ。
「そんな手負いの小動物みたいな顔で見ないで下さい。俺の方が興奮してしまいます」
何言ってんのよこの変態!?
晴人さんが変な冗談をかましてきた所為で、逆に力が抜けてはぁと溜息が漏れる。
興奮した所為か、疲れがどっと出て、眠気が襲って来た。
瞼が降りて来てとろんとしてしまう。
「眠いんですよね。瑠璃さんの身体はまだ休息を必要としているということです。寝て下さい。俺はずっとここに居ますから」
居なくて良いわよ!
そう言い返してやりたいのに、私の額から目元にかけてをを晴人さんの手が覆ってそのまま寝かし付けるように撫でられたらもう眼を開けられなくなってそのまま眠りに落ちた。
自分でやると言いたいのに、身体は動かせない。
私は悔しさを全面に出しながらも不承不承口を開いた。
適度な塩加減のお粥がゆっくりと流し込まれ、私はそれを舌で味わう事なく丸呑みした。
お粥はあまり好きではないのだ。病気になったら、おじややうどんを用意していた。実家でもそうだったので、普通のお粥など殆ど食べた事が無かった。
会話も無い静かな病室に、カチャカチャと食器とレンゲの当たる音だけが響く。
白いカーテンが靡く窓の外は太陽が煌々と照っている。こんな状態でなければテラスのあるカフェに出掛けたくなる位良い天気だ。
携帯を確認したい所だけど、ゆりなは私を攫う際に荷物は全て川に捨てたと証言しているらしく、捜索中とのことだ。流れが強くて深い場所なので恐らく発見は難しいだろうということだ。
携帯は勿論水没で破損しただろうから発見されたところで……という感じだけど。
不幸中の幸いで、財布だけは手付かずでゆりなが所持していたのが返却された。
お金ではなく、身分証を隠す事が目的だったそうだ。どんだけ私を身元不明遺体にしたかったんだって話で、恐怖よりも呆れてしまった。
晴人さんに給餌されるという羞恥プレイのような時間は、お粥が空になった事で終了し、沈黙が落ちた。
晴人さんは静謐ささえ感じるほど穏やかに私を見つめている。
痛いほどの沈黙が、どこかの学校のチャイムで間抜けな感じに緩められた時、ようやく晴人さんが口を開いた。
「全て、思い出したんですよね。俺がしたこと」
もう既に聞き慣れてきた穏やかな声が、絞り出すように告げた言葉に、私はコクリと頷いた。これでも地味に痛くて眉を潜めてしまう。
喋ろうと息を吸うだけで肺を覆う肋骨が動いて痛むので、あまり喋りたく無いけれど、なんとか振り絞って応じる。
「どうして……」
ようやく声帯を震わせる事が出来たけれど、それ以降は途切れてしまった。
どうして、私を無理矢理抱いたの。
どうして、私を助けに来れたの。
どうして……。
沢山の疑問が浮かんでは、言葉に出来ずに喉で詰まる。
「全ては、貴女に俺の番になって貰う為……でした」
「な! 痛っ」
まるで自分が被害者であるかのような沈痛な表情に腹が立った。
でも、反射で殴りかかろうとした右手は、痛みに阻されて、少し浮かせた背がベッドに逆戻りになってしまった。
血管の動きに合わせてドクドクと続く痛みにウグググと呻く。
痛み止めにも限界があるらしい。
涙が滲んで、目尻から耳へ流れて不快に思っていると、慌てて立ち上がった晴人さんが、タオルで涙を拭って私に少しはだけた布団をかけ直してくれた。
「落ち着いて瑠璃さん。やっぱり話すのはもう少し回復してからにしましょう。興奮して傷口が開いたら大変です。俺は毎日ここに居ますからいつでも話せますから」
「な……に……言ってん、のよ、忙しいんでしょ……」
人気アイドルのハヤッチのマネージャーがそんな暇な筈がない。今ここにいるのだって無理に時間を作っているに決まっているのだ。
今だって明るい表情を作って誤魔化しているつもりだろうが、かなり顔色が悪い。
私の為に晴人さんが身体を壊したら元も子もない。
痛みで途切れ途切れになる言葉に、晴人さんが布団ごしに撫でながら、衝撃発言をした。
「大丈夫です。俺はそこのベッドで寝泊まりしてますから」
と言って、隣のベッドを指し示したのだ。
はぁ!? と声にならない悲鳴が漏れた。確かにベッドサイドのテーブルには書類が積まれていて、とても病人のベッドには見えないとは思っていた。けど……。
「あ、落ち着いて下さい。傷に障ります!」
誰の所為よ! と、晴人さんを睨む。今の私はゆりなもびっくりの凶悪な顔をしている自信がある。
それなのに、晴人さんは何やら嬉しそうに頰を染めて私を見ている。何故だ。
「そんな手負いの小動物みたいな顔で見ないで下さい。俺の方が興奮してしまいます」
何言ってんのよこの変態!?
晴人さんが変な冗談をかましてきた所為で、逆に力が抜けてはぁと溜息が漏れる。
興奮した所為か、疲れがどっと出て、眠気が襲って来た。
瞼が降りて来てとろんとしてしまう。
「眠いんですよね。瑠璃さんの身体はまだ休息を必要としているということです。寝て下さい。俺はずっとここに居ますから」
居なくて良いわよ!
そう言い返してやりたいのに、私の額から目元にかけてをを晴人さんの手が覆ってそのまま寝かし付けるように撫でられたらもう眼を開けられなくなってそのまま眠りに落ちた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,507
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる