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第三部:調査ルポルタージュ『Project SILICA』
第14話:ポイント・オブ・ノーリターン
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2024年10月6日 - PCメモ『調査ログ.txt』より抜粋
件名:桐島と名乗る男との接触記録
日時: 2024年10月6日 午前0時15分
場所: アパート近くのファミリーレストラン
記録方法: ICレコーダーによる音声記録(以下、書き起こし)および、接触後の記憶に基づく記述
桐島と名乗る男の「少し、お話を」という言葉に、俺は抗うことができなかった。俺たちは、深夜のファミリーレストランに入った。深夜だというのにやけに明るい照明と、場違いなほど陽気なBGMが、俺のすぐ隣に座る男の異様さを、一層際立たせていた。
俺たちは、一番奥のボックス席に、向かい合うのではなく、隣り合って座った。逃げられないように、という無言の圧力だった。桐島は、メニューを一切見ずに、ウェイトレスに「ホットコーヒーを二つ」とだけ、静かに告げた。
桐島:「さて、皆藤さん。単刀直入にいきましょう」
彼は、運ばれてきたコーヒーに口もつけず、ガラス玉のような目で俺を真っ直ぐに見つめた。
桐島:「あなたは、少し、知りすぎた」
カイト:「…何のことです」
桐島:「ポッドキャスト『深淵アーカイヴ』。非常に興味深い番組でしたよ。特に最終回、見事な調査でした。エンターテインメントとしては、ほぼ満点の出来でしょう」
彼の声には、何の感情もこもっていなかった。褒めているのか、あるいは、見下しているのか。全く読み取れない。
桐島:「山梨の上天原まで足を運ばれたそうですね。9月24日。元経済産業省職員の真田玲氏と接触された」
俺は、息を呑んだ。なぜ、そこまで知っている。
桐島:「そして、先日。10月2日には、霞が関の国家安全保障・資源戦略研究所で、八代義明主席研究員にもインタビューをされた。なかなか、行動力がおありだ」
カイト:「…あんたたちは、俺を監視していたのか」
桐島:「監視、などという物騒な言葉は使わないでいただきたい。我々はただ、あなたの“興味”の行き先を、少しだけ見守らせていただいていただけですよ」
彼の口調はどこまでも丁寧だった。だが、その言葉の裏には、俺の全ての行動――誰に会い、何を話し、どこへ行ったのか――その全てを完全に把握しているという、揺るぎない事実があった。俺がこれまで積み上げてきた調査の記録は、全て、彼らの手のひらの上にあったのだ。
桐島は、砂糖もミルクも入れずに、熱いコーヒーを一口すすった。
桐島:「皆藤さん。あなたは、物語の消費者でいるべきだった」
カ-イト:「…どういう、意味です」
桐島:「面白いお話として、安全な場所から楽しんでいれば、それで良かったのです。映画『天蓋村』も、八代先生の論文も、あなたのポッドキャストも、全ては“そういうもの”として作られている。人々が、真実のすぐそばで満足し、決してこちら側には来ないようにするための、巧みな『物語』だ。あなたは、その優秀な語り部の一人だった。そこにとどまっていれば、何も問題はなかった」
彼の言葉は、真田の告白の、残酷な裏付けだった。
俺が暴いたと思っていた真実も、彼らにとっては、用意された筋書きの一つに過ぎなかったのだ。
桐島:「ですが、あなたは一線を越えてしまった。物語の消費者、あるいは生産者であることから、物語の登場人物になろうとしている。それは、我々としても見過ごすわけにはいかない」
彼の声のトーンが、ほんのわずかに、低くなった。
桐島:「この調査から、手を引きなさい」
それは、静かな、しかし、有無を言わせぬ断固とした要求だった。
俺の全身の血が、急速に冷えていくのを感じた。
カイト:「…断ると、言ったら?」
桐島:「我々は、あなたに危害を加えるつもりはありません。それは我々の流儀ではない。ただ…」
彼は、一瞬だけ言葉を切り、窓の外の暗闇に目を向けた。
桐島:「あなたの調査は、ここで終わる。それだけです」
それは、脅迫ではなかった。
ただ、冷徹な事実の、宣告だった。
俺は、自分が後戻りのできない分岐点に立たされていることを、はっきりと理解した。
件名:桐島と名乗る男との接触記録
日時: 2024年10月6日 午前0時15分
場所: アパート近くのファミリーレストラン
記録方法: ICレコーダーによる音声記録(以下、書き起こし)および、接触後の記憶に基づく記述
桐島と名乗る男の「少し、お話を」という言葉に、俺は抗うことができなかった。俺たちは、深夜のファミリーレストランに入った。深夜だというのにやけに明るい照明と、場違いなほど陽気なBGMが、俺のすぐ隣に座る男の異様さを、一層際立たせていた。
俺たちは、一番奥のボックス席に、向かい合うのではなく、隣り合って座った。逃げられないように、という無言の圧力だった。桐島は、メニューを一切見ずに、ウェイトレスに「ホットコーヒーを二つ」とだけ、静かに告げた。
桐島:「さて、皆藤さん。単刀直入にいきましょう」
彼は、運ばれてきたコーヒーに口もつけず、ガラス玉のような目で俺を真っ直ぐに見つめた。
桐島:「あなたは、少し、知りすぎた」
カイト:「…何のことです」
桐島:「ポッドキャスト『深淵アーカイヴ』。非常に興味深い番組でしたよ。特に最終回、見事な調査でした。エンターテインメントとしては、ほぼ満点の出来でしょう」
彼の声には、何の感情もこもっていなかった。褒めているのか、あるいは、見下しているのか。全く読み取れない。
桐島:「山梨の上天原まで足を運ばれたそうですね。9月24日。元経済産業省職員の真田玲氏と接触された」
俺は、息を呑んだ。なぜ、そこまで知っている。
桐島:「そして、先日。10月2日には、霞が関の国家安全保障・資源戦略研究所で、八代義明主席研究員にもインタビューをされた。なかなか、行動力がおありだ」
カイト:「…あんたたちは、俺を監視していたのか」
桐島:「監視、などという物騒な言葉は使わないでいただきたい。我々はただ、あなたの“興味”の行き先を、少しだけ見守らせていただいていただけですよ」
彼の口調はどこまでも丁寧だった。だが、その言葉の裏には、俺の全ての行動――誰に会い、何を話し、どこへ行ったのか――その全てを完全に把握しているという、揺るぎない事実があった。俺がこれまで積み上げてきた調査の記録は、全て、彼らの手のひらの上にあったのだ。
桐島は、砂糖もミルクも入れずに、熱いコーヒーを一口すすった。
桐島:「皆藤さん。あなたは、物語の消費者でいるべきだった」
カ-イト:「…どういう、意味です」
桐島:「面白いお話として、安全な場所から楽しんでいれば、それで良かったのです。映画『天蓋村』も、八代先生の論文も、あなたのポッドキャストも、全ては“そういうもの”として作られている。人々が、真実のすぐそばで満足し、決してこちら側には来ないようにするための、巧みな『物語』だ。あなたは、その優秀な語り部の一人だった。そこにとどまっていれば、何も問題はなかった」
彼の言葉は、真田の告白の、残酷な裏付けだった。
俺が暴いたと思っていた真実も、彼らにとっては、用意された筋書きの一つに過ぎなかったのだ。
桐島:「ですが、あなたは一線を越えてしまった。物語の消費者、あるいは生産者であることから、物語の登場人物になろうとしている。それは、我々としても見過ごすわけにはいかない」
彼の声のトーンが、ほんのわずかに、低くなった。
桐島:「この調査から、手を引きなさい」
それは、静かな、しかし、有無を言わせぬ断固とした要求だった。
俺の全身の血が、急速に冷えていくのを感じた。
カイト:「…断ると、言ったら?」
桐島:「我々は、あなたに危害を加えるつもりはありません。それは我々の流儀ではない。ただ…」
彼は、一瞬だけ言葉を切り、窓の外の暗闇に目を向けた。
桐島:「あなたの調査は、ここで終わる。それだけです」
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