【完結】『謀反人の汚名を着た武田信玄 ~残された秘策と隠された忠義~』

月影 朔

文字の大きさ
29 / 143
第二章:蠢く者たち

第二十九話:真田昌幸の暗躍

しおりを挟む
 越後の山中で、黒脛巾組の襲撃を退けた小太郎たちは、おふうの告白に静かに耳を傾けていた。

 彼女の祖父が武田の忍びであったこと、そして裏切り者の汚名を着せられ一族が追われた過去。その真実を明らかにするため、おふうは信玄の秘策を探しているという。
小太郎は、信玄の秘策が、武田家内部に潜む「闇」とも対峙しなければならないことを改めて痛感した。

 小太郎は、おふうの手を取り、静かに言った。

「貴殿の祖父の無念、必ずやこの手で晴らしてみせる。信玄公の秘策は、真の平和をもたらすもの。その過程で、武田家の影に隠された真実も、必ず明らかになるはずだ」

 おふうは、小太郎の言葉に、瞳を潤ませながら深く頷いた。彼女の心に、新たな希望の光が灯った瞬間だった。

 一行は、越後の山中をさらに深く進み、人里離れた隠れ里へと向かった。そこは、望月千代女が、いざという時のために設けていた、安全な隠れ家だった。
傷ついた小太郎とおふうの体を休ませるため、そして、今後の策を練るため、彼らはしばらくその里に身を潜めることにした。

 その頃、甲斐の国では、若き真田昌幸が、独自に信玄の生存とその計画を察知し、密かに動き始めていた。

 昌幸は、父・幸隆の遺志を継ぎ、武田家への忠誠を胸に秘めていた。彼は、信玄がただ病死したのではなく、何らかの壮大な計画のために「死」を偽装したのではないかと疑っていた。
昌幸の類まれなる知略は、信玄の残したわずかな手がかりから、その真意を読み解こうとしていた。

 昌幸は、兄・信綱の目を欺きながら、水面下で情報収集を進めていた。彼は、甲斐と信濃の国境に潜む間者たちを使い、織田方の動き、そして黒脛巾組の動向を細かく探らせた。
特に、黒脛巾組が信玄の秘策を探り、越後で暗躍しているという情報を掴んだ時、昌幸の確信は深まった。

「やはり、信玄公は生きておられる……そして、何か壮大な企てを進めておられる」

 昌幸は、地図を広げ、越後の山々を指差しながら呟いた。彼は、黒脛巾組の狙いが、信玄の残した「秘策」にあると見ていた。そして、その秘策が、武田家再興に繋がるものであると信じていた。

 昌幸は、密かに配下の忍びを呼び出した。

「越後へ向かい、黒脛巾組の動向を探れ。そして、武田の若き密偵、小太郎殿と接触せよ。彼に、黒脛巾組の情報を密かに流せ」

 忍びは、昌幸の命に深く頭を下げた。
昌幸は、信玄の秘策の全貌は掴めていない。しかし、小太郎が信玄の密命を受けた者であると見抜き、彼を支援することで、信玄の秘策の一端に触れようとしていたのだ。

 昌幸は、信玄の「死」によって、武田家が弱体化し、織田の侵攻に晒されている現状を深く憂いていた。彼は、武田家を守るため、そして、信玄の志を継ぐため、自らもまた、影で暗躍することを決意していた。

 その策略は、表向きは武田家を支えつつも、裏では信玄の意を汲み、織田との戦いを有利に進めるためのものだった。

 数日後、小太郎たちの隠れ里に、一人の男が訪れた。男は、旅の行商人を装ってはいたが、その眼差しには、忍びとしての鋭さが宿っていた。彼は、真田昌幸の配下の忍びだった。

 忍びは、小太郎に近づくと、周囲を警戒しながら、小さな包みを差し出した。

「武田の若き密偵殿に、真田昌幸様より、言付けがございます」

 小太郎は、包みを受け取った。中には、越後における黒脛巾組の動向、そして、彼らが狙っている「偽の隠し金山」の情報が記されていた。それは、まさに小太郎が越後で掴まされた偽の情報と合致するものだった。

「これは……」

 小太郎は、驚きに目を見開いた。真田昌幸が、なぜこの情報を自分に?そして、なぜ、自分が偽情報に踊らされたことを知っているのか。

「昌幸様は、越後での貴殿の戦いを見ておられた。そして、織田の間者、特に明智光秀の動きを警戒するよう、伝言でございます」
 忍びは、そう言い残すと、音もなく闇の中へと消えていった。

 小太郎は、真田昌幸からの情報に、深い思索にふけった。昌幸が、信玄の生存を知り、そして、自分を陰から支援しているというのか。信玄の秘策は、敵だけでなく、武田家内部の協力者たちも巻き込み、複雑に絡み合っていたのだ。

 そして、黒脛巾組が、いまだに偽の隠し金山を追い求めていること。それは、明智光秀が巧妙に仕組んだ罠が、未だに機能していることを示唆していた。

 小太郎は、真田昌幸という新たな協力者の出現に、一筋の光明を見出した。しかし、同時に、信玄の秘策が、いかに深く、そして広範囲に及ぶものであるかを改めて認識した。

 彼の旅は、さらに奥深く、複雑な情報戦へと突入していく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる …はずだった。 まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか? 敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。 文治系藩主は頼りなし? 暴れん坊藩主がまさかの活躍? 参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。 更新は週5~6予定です。 ※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。

九州のイチモツ 立花宗茂

三井 寿
歴史・時代
 豊臣秀吉が愛し、徳川家康が怖れた猛将“立花宗茂”。  義父“立花道雪”、父“高橋紹運”の凄まじい合戦と最期を目の当たりにし、男としての仁義を貫いた”立花宗茂“と“誾千代姫”との哀しい別れの物語です。  下剋上の戦国時代、九州では“大友・龍造寺・島津”三つ巴の戦いが続いている。  大友家を支えるのが、足が不自由にもかかわらず、輿に乗って戦い、37戦常勝無敗を誇った“九州一の勇将”立花道雪と高橋紹運である。立花道雪は1人娘の誾千代姫に家督を譲るが、勢力争いで凋落する大友宗麟を支える為に高橋紹運の跡継ぎ統虎(立花宗茂)を婿に迎えた。  女城主として育てられた誾千代姫と統虎は激しく反目しあうが、父立花道雪の死で2人は強く結ばれた。  だが、立花道雪の死を好機と捉えた島津家は、九州制覇を目指して出陣する。大友宗麟は豊臣秀吉に出陣を願ったが、島津軍は5万の大軍で筑前へ向かった。  その島津軍5万に挑んだのが、高橋紹運率いる岩屋城736名である。岩屋城に籠る高橋軍は14日間も島津軍を翻弄し、最期は全員が壮絶な討ち死にを遂げた。命を賭けた時間稼ぎにより、秀吉軍は筑前に到着し、立花宗茂と立花城を救った。  島津軍は撤退したが、立花宗茂は5万の島津軍を追撃し、筑前国領主としての意地を果たした。豊臣秀吉は立花宗茂の武勇を讃え、“九州之一物”と呼び、多くの大名の前で激賞した。その後、豊臣秀吉は九州征伐・天下統一へと突き進んでいく。  その後の朝鮮征伐、関ヶ原の合戦で“立花宗茂”は己の仁義と意地の為に戦うこととなる。    

日本国破産?そんなことはない、財政拡大・ICTを駆使して再生プロジェクトだ!

黄昏人
SF
日本国政府の借金は1010兆円あり、GDP550兆円の約2倍でやばいと言いますね。でも所有している金融性の資産(固定資産控除)を除くとその借金は560兆円です。また、日本国の子会社である日銀が460兆円の国債、すなわち日本政府の借金を背負っています。まあ、言ってみれば奥さんに借りているようなもので、その国債の利子は結局日本政府に返ってきます。え、それなら別にやばくないじゃん、と思うでしょう。 でもやっぱりやばいのよね。政府の予算(2018年度)では98兆円の予算のうち収入は64兆円たらずで、34兆円がまた借金なのです。だから、今はあまりやばくないけど、このままいけばドボンになると思うな。 この物語は、このドツボに嵌まったような日本の財政をどうするか、中身のない頭で考えてみたものです。だから、異世界も超能力も出てきませんし、超天才も出現しません。でも、大変にボジティブなものにするつもりですので、楽しんで頂ければ幸いです。

山本五十六の逆襲

ypaaaaaaa
歴史・時代
ミッドウェー海戦において飛龍を除く3隻の空母を一挙に失った日本海軍であったが、当の連合艦隊司令長官である山本五十六の闘志は消えることは無かった。山本は新たに、連合艦隊の参謀長に大西瀧次郎、そして第一航空艦隊司令長官に山口多聞を任命しアメリカ軍に対して”逆襲”を実行していく…

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...