【完結】『謀反人の汚名を着た武田信玄 ~残された秘策と隠された忠義~』

月影 朔

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第二章:蠢く者たち

第三十話:二重の間諜

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 真田昌幸からの密かに届けられた情報に、小太郎は驚きを隠せなかった。

 黒脛巾組が今なお「偽の隠し金山」を追い求めていること、そして、その情報が明智光秀の間者によって流されたものであること。

 そして何より、真田昌幸が信玄の生存を察知し、陰ながら小太郎を支援しているという事実が、彼の胸に大きな波紋を広げた。

「真田昌幸殿が、なぜ、そこまで……」

 小太郎は、千代女とおふうに、昌幸からの情報を伝えた。
千代女は、その報せに静かに頷いていたが、おふうは複雑な表情を浮かべていた。

「真田昌幸は、信玄公の才を深く敬愛しております。そして、父・幸隆殿の遺志を継ぎ、武田家再興を願う者。彼が信玄公の意を汲むのは、自然なことでございましょう」

 千代女は、小太郎の疑問に答えた。しかし、小太郎は、この情報戦の複雑さに、改めて身の引き締まる思いだった。敵の罠、味方の思惑、そして、真田昌幸のような予想外の協力者。信玄の秘策は、彼が想像していた以上に、奥深く、そして複雑なものだった。

 その夜、隠れ里の庵に、一人の男が訪れた。彼は、数日前に小太郎を襲撃した黒脛巾組の一人だった。男は、顔に深い傷を負い、警戒するように周囲を見回している。小太郎と千代女は、すぐに刀を構え、男を警戒した。

「なぜ、貴様がここに現れた!」

 小太郎が問い詰めると、男はゆっくりと両手を上げ、敵意がないことを示した。

「落ち着かれよ、武田の若き密偵殿。拙者は、貴殿らに敵意あって参ったのではない。むしろ……」

 男は、そう言って、千代女に視線を向けた。千代女は、静かに頷くと、刀を鞘に収めた。小太郎は、千代女の行動に驚きを隠せない。

「貴様は……まさか……」

 小太郎は、男が千代女と面識があることに気づいた。そして、千代女の次の言葉に、小太郎はさらなる衝撃を受けることになる。

「小太郎殿、彼は二重スパイです。私の手引きで、黒脛巾組に潜入しておりました」

 千代女は、静かに告げた。小太郎は、驚愕に目を見開いた。彼を襲い、瀕死の重傷を負わせた黒脛巾組の忍びが、まさか千代女の手の者であったとは。

「なぜ……なぜ、このような真似を……」
 小太郎は、混乱の中で問い詰めた。
 
千代女は、静かに彼の目を見つめた。

「小太郎殿。信玄公の秘策は、生半可な覚悟で成し遂げられるものではございません。貴殿は、まだ若く、未熟な部分が多い。故に、あえて試練を与え、貴殿の成長を促す必要があったのです」

 千代女の言葉は、小太郎の胸に深く突き刺さった。越後での黒脛巾組の襲撃も、そして、明智光秀の間者の罠にはまったことも、全ては千代女によって仕組まれた「試練」だったというのか。

「この秘策は、人の心の奥底にまで及ぶもの。真の強さとは、武力だけではございませぬ。己の未熟さを知り、それを乗り越える精神の強さこそが、この乱世を生き抜く術となるのです」

 千代女の言葉は、信玄が山本勘助から教わった「人の心」の重要性を、改めて小太郎に示していた。

 二重スパイであった黒脛巾組の男は、千代女の指示を受け、黒脛巾組が信玄の秘策を「隠し金山」と誤認していることを、小太郎に伝えた。

 そして、明智光秀が、信玄生存の噂を流し、その裏で、信玄の真の目的を探っていることも。

「黒脛巾組は、信玄公が死んだと見せかけた隙に、その秘策を我が物にしようと企んでおります。彼らは、信玄公の真の目的を知らず、ただ財宝を求めているに過ぎません」

 男は、そう言って、頭を下げた。
彼は、千代女からの密命を受け、黒脛巾組内部から情報をもたらすために、あえて危険な立場に身を置いていたのだ。

 小太郎は、頭を抱えた。
これまでの自身の行動が、全て千代女の掌の上で転がされていたという事実に、彼は戸惑いを隠せない。しかし、同時に、彼の心には、新たな力が湧き上がってくるのを感じた。

「わしは、未熟だった……しかし、この試練は、わしを強くした」

 小太郎は、千代女に向き直った。彼の瞳には、迷いではなく、確固たる決意が宿っていた。

「千代女殿。わしは、この試練を乗り越え、必ずや信玄公の秘策を成就させてみせます。これからは、どのような困難が待ち受けていようとも、決して揺らぐことはありません」

 千代女は、小太郎の言葉に、満足げな笑みを浮かべた。彼の言葉は、試練を経て、若き密偵が真の覚悟を固めた証だった。

 翌朝、二重スパイの男は、再び黒脛巾組へと戻っていった。彼の任務は、これからも続く。小太郎は、千代女とおふうと共に、隠れ里を後にし、新たな旅路についた。

 信玄の秘策は、敵だけでなく、味方をも巻き込む、壮大な情報戦だ。その中で、小太郎は、己の未熟さを知り、それを乗り越える精神的な強さを手に入れた。彼の心は、もはや揺るがない。そして、おふうという新たな協力者を得て、小太郎の旅は、さらに奥深く、真の「闇」へと迫っていく。

 信玄の秘策の真の姿が、今、明らかになろうとしていた。
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