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第一部:長屋の日常と奇妙な事件の始まり
第二話:糸切られた胡粉(ごふん)人形
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長屋から目と鼻の先に、腕の良い人形師がいた。名を宗兵衛という。古くから続く人形問屋から、大層な胡粉(人形の白い顔料)人形の注文を受けており、寝食を忘れて制作に打ち込んでいた。完成間近のそれは、息を呑むほど繊細で美
しく、長屋でも「見事なもんだ」と評判だった。
その宗兵衛が、今朝は顔色を変えて長屋に飛び込んできた。
「大変だ…! 人形が…人形がやられちまった!」
宗兵衛は震える声で訴えた。昨夜、確かに鍵をかけて工房を閉め、誰一人として出入りしていないはずなのに、完成間近だった人形の、命ともいえる首の付け根の糸が、僅かに、だが決定的に切り込まれていたのだ。胡粉の肌には、指先で撫でたような、微かな汚れまでついている。荒らされた形跡は他になく、金品も無事だ。ただ、人形だけが、まるで悪意の手に触れられたかのように傷つけられていた。
「賊か? いや、金目の物には手をつけてねえ。恨みか? でも誰が…」宗兵衛は混乱し、悔しさで泣きそうになっている。せっかくの注文を反故にされかねない事態だ。
「これは…また奇妙な事件ですい」お絹は宗兵衛の工房を見て回った。窓は小さく鉄格子があり、入口は閂(かんぬき)を下ろしてある。確かに、人が簡単に出入りできるような場所ではない。
お絹は、頭の片隅で甚兵衛の顔を思い浮かべた。こういう「あり得ない」状況は、あの変人の関心を引くだろう。
案の定、甚兵衛はすぐに現れた。今日は、小さな錘(おもり)と複数の滑車、細い糸を組み合わせた、何やら空中を移動させる実験をしていたらしい。
「宗兵衛さん、お見舞い申し上げます。これは…胡粉の艶といい、肩の曲線といい、見事な人形ですね。それが、こんな…」お絹は宗兵衛の悲嘆に寄り添った。
甚兵衛はといえば、人形には一瞥もくれず、工房の鍵や閂、窓の格子、壁の僅かな隙間を、目を皿のようにして調べている。
「無理にこじ開けた痕跡はない。外部からの侵入は、通常考えられる方法では不可能だ。しかし、人形は傷つけられている。これは…トリックがある」
甚兵衛は人形の傷口を、携帯用の小さな虫眼鏡で覗き込んだ。糸が切られた角度、胡粉についた微かな汚れの質。それは、刃物ではなく、まるで細い針金か硬い糸のようなもので、何度も擦るようにして付けられた傷に見えた。汚れは、特定の顔料か、あるいは作業中に使う何かだ。
「お絹、このあたりで、何か揉め事はなかったか? 宗兵衛さんの商売敵とか、弟子とのいざこざとか…」甚兵衛は、人を見るのが苦手な代わりに、事件の背景にある人間の「からくり」をお絹の情報に頼る。
お絹は頷いた。「そういえば、最近、宗兵衛さんの昔の弟子で、腕はいいけど気性が荒いって評判の芳次郎って人が、近くに戻ってきたって聞きました。宗兵衛さんの仕事ぶりに嫉妬してる、なんて噂も…」
甚兵衛は権助の工房の壁や天井を見上げた。そして、鍵穴に目を留めた。
「鍵穴…ここならば、人が通るには狭すぎるが、道具を通すには十分だ」
彼は持っていた道具の一つ、蛇腹のように曲がる細い金属筒を取り出した。先端に小さな鏡と明かりがついた、自作の「隙間覗き器」だ。甚兵衛はそれを鍵穴に差し込み、覗き込んだ。鍵の構造、部屋の内部の一部が見える。
「やはり…」甚兵衛は呟いた。
彼は、工房の壁際、地面に近い位置にある、普段誰も気にしない小さな通気口のような穴にも気づいた。埃と煤で塞がれかけているが、僅かに隙間がある。甚兵衛はその穴も「隙間覗き器」で調べた。
「分かったぞ」甚兵衛は立ち上がった。「犯人は工房に入っていない。工房の外から、この穴か、あるいは鍵穴を通して、人形を傷つけたのだ」
宗兵衛とお絹は信じられない顔をした。「外から? そんな、どうやって…」
甚兵衛は自宅に戻ると、件の「遠隔操作式把握器」よりもさらに精緻で、細く長いアームを持つ別のからくりを持ち出してきた。それは、まるで昆虫の触角のように細く、先端に小さなピンセットや、細い針金のようなものが取り付けられる仕組みだ。
「これだ。犯人が使ったのは、私の『精緻作業用遠隔からくり』のようなものだろう。細く、長く、そしてある程度自在に操れるものだ」
甚兵衛は工房の壁の穴の前に立ち、そのからくりを穴に差し込んだ。まるで生き物のように曲がるアームの先にピンセットを取り付け、部屋の中の物を掴む動作をしてみせる。次に、先端を針金に変え、人形が置かれていたであろう場所に向かって操作し、糸を切るような動きを再現した。
「凄え…! 本当に外からだ!」宗兵衛は目を見開いた。
「これほど精巧なからくりを扱える人間は限られる…加えて、人形の構造や胡粉の扱いを知っている人間だ」甚兵衛は言った。「お絹が言っていた、昔の弟子…芳次郎という男は、宗兵衛さんの人形の癖や工房の構造を知っているだろう。そして、腕が良いというならば、このような精緻な道具を作るか、扱う技術を持っている可能性が高い」
甚兵衛とお絹は、お絹の情報網を使い、芳次郎の居場所を探り当てた。甚兵衛は、芳次郎に直接対峙した。「お前が使ったのは、このようなからくりだろう?」と、自身の「精緻作業用遠隔からくり」を見せつけた。
芳次郎は、そのからくりを見て顔色を変えた。そして、全てを白状した。やはり、宗兵衛の成功への嫉妬と、自分の腕への過信から、宗兵衛が失敗すれば自分が棚からぼた餅を得られると考えたのだ。宗兵衛の工房の小さな穴を知っており、自分の技術を活かして細工した針金と棒で、外から人形を傷つけたのだった。胡粉の汚れは、その際に彼自身の作業着についた顔料が、道具を伝って人形に付着した痕跡だった。
宗兵衛は芳次郎の裏切りに深く傷ついたが、同時に彼の嫉妬の裏にある、人形師としての業も理解できた。芳次郎は自分の卑劣な行為を悔い、宗兵衛に謝罪した。宗兵衛は、芳次郎を役人に突き出すことはせず、彼に人形の修復を手伝わせることを罰とした。それは、宗兵衛なりの、弟子への、そして同じ人形師への「人情」だった。芳次郎もまた、その厳しいながらも温かい処置に涙した。
事件は解決した。高度な技術による「あり得ない」犯行は、甚兵衛の「からくり」を用いた推理と実証によって暴かれ、その背後には人間の嫉妬という、これもまた複雑な「からくり」が隠されていた。
宗兵衛は、お絹や長屋の人々の助けも借りて、人形の修復に取り掛かった。甚兵衛は工房の穴を塞ぐための、簡単なからくり錠を考案して宗兵衛に渡した。
「甚兵衛さんのからくりは、本当に役に立つんだねえ」お絹は感心して言った。
「からくりは、人の手や思考の延長だ。悪いようにも使えるが、善いようにも使える」甚兵衛は自分の「精緻作業用遠隔からくり」を丁寧に手入れしながら答えた。
その言葉には、過去の何かを思わせる、僅かな影が差しているようにお絹には見えた。甚兵衛の過去、そしてこれから彼らが関わることになる、江戸を揺るがす大きな「からくり」の片鱗は、まだ見えていない。だが、奇妙な事件は、きっとこれからも続くのだろう。このからくり長屋で、甚兵衛とお絹がいる限り。
しく、長屋でも「見事なもんだ」と評判だった。
その宗兵衛が、今朝は顔色を変えて長屋に飛び込んできた。
「大変だ…! 人形が…人形がやられちまった!」
宗兵衛は震える声で訴えた。昨夜、確かに鍵をかけて工房を閉め、誰一人として出入りしていないはずなのに、完成間近だった人形の、命ともいえる首の付け根の糸が、僅かに、だが決定的に切り込まれていたのだ。胡粉の肌には、指先で撫でたような、微かな汚れまでついている。荒らされた形跡は他になく、金品も無事だ。ただ、人形だけが、まるで悪意の手に触れられたかのように傷つけられていた。
「賊か? いや、金目の物には手をつけてねえ。恨みか? でも誰が…」宗兵衛は混乱し、悔しさで泣きそうになっている。せっかくの注文を反故にされかねない事態だ。
「これは…また奇妙な事件ですい」お絹は宗兵衛の工房を見て回った。窓は小さく鉄格子があり、入口は閂(かんぬき)を下ろしてある。確かに、人が簡単に出入りできるような場所ではない。
お絹は、頭の片隅で甚兵衛の顔を思い浮かべた。こういう「あり得ない」状況は、あの変人の関心を引くだろう。
案の定、甚兵衛はすぐに現れた。今日は、小さな錘(おもり)と複数の滑車、細い糸を組み合わせた、何やら空中を移動させる実験をしていたらしい。
「宗兵衛さん、お見舞い申し上げます。これは…胡粉の艶といい、肩の曲線といい、見事な人形ですね。それが、こんな…」お絹は宗兵衛の悲嘆に寄り添った。
甚兵衛はといえば、人形には一瞥もくれず、工房の鍵や閂、窓の格子、壁の僅かな隙間を、目を皿のようにして調べている。
「無理にこじ開けた痕跡はない。外部からの侵入は、通常考えられる方法では不可能だ。しかし、人形は傷つけられている。これは…トリックがある」
甚兵衛は人形の傷口を、携帯用の小さな虫眼鏡で覗き込んだ。糸が切られた角度、胡粉についた微かな汚れの質。それは、刃物ではなく、まるで細い針金か硬い糸のようなもので、何度も擦るようにして付けられた傷に見えた。汚れは、特定の顔料か、あるいは作業中に使う何かだ。
「お絹、このあたりで、何か揉め事はなかったか? 宗兵衛さんの商売敵とか、弟子とのいざこざとか…」甚兵衛は、人を見るのが苦手な代わりに、事件の背景にある人間の「からくり」をお絹の情報に頼る。
お絹は頷いた。「そういえば、最近、宗兵衛さんの昔の弟子で、腕はいいけど気性が荒いって評判の芳次郎って人が、近くに戻ってきたって聞きました。宗兵衛さんの仕事ぶりに嫉妬してる、なんて噂も…」
甚兵衛は権助の工房の壁や天井を見上げた。そして、鍵穴に目を留めた。
「鍵穴…ここならば、人が通るには狭すぎるが、道具を通すには十分だ」
彼は持っていた道具の一つ、蛇腹のように曲がる細い金属筒を取り出した。先端に小さな鏡と明かりがついた、自作の「隙間覗き器」だ。甚兵衛はそれを鍵穴に差し込み、覗き込んだ。鍵の構造、部屋の内部の一部が見える。
「やはり…」甚兵衛は呟いた。
彼は、工房の壁際、地面に近い位置にある、普段誰も気にしない小さな通気口のような穴にも気づいた。埃と煤で塞がれかけているが、僅かに隙間がある。甚兵衛はその穴も「隙間覗き器」で調べた。
「分かったぞ」甚兵衛は立ち上がった。「犯人は工房に入っていない。工房の外から、この穴か、あるいは鍵穴を通して、人形を傷つけたのだ」
宗兵衛とお絹は信じられない顔をした。「外から? そんな、どうやって…」
甚兵衛は自宅に戻ると、件の「遠隔操作式把握器」よりもさらに精緻で、細く長いアームを持つ別のからくりを持ち出してきた。それは、まるで昆虫の触角のように細く、先端に小さなピンセットや、細い針金のようなものが取り付けられる仕組みだ。
「これだ。犯人が使ったのは、私の『精緻作業用遠隔からくり』のようなものだろう。細く、長く、そしてある程度自在に操れるものだ」
甚兵衛は工房の壁の穴の前に立ち、そのからくりを穴に差し込んだ。まるで生き物のように曲がるアームの先にピンセットを取り付け、部屋の中の物を掴む動作をしてみせる。次に、先端を針金に変え、人形が置かれていたであろう場所に向かって操作し、糸を切るような動きを再現した。
「凄え…! 本当に外からだ!」宗兵衛は目を見開いた。
「これほど精巧なからくりを扱える人間は限られる…加えて、人形の構造や胡粉の扱いを知っている人間だ」甚兵衛は言った。「お絹が言っていた、昔の弟子…芳次郎という男は、宗兵衛さんの人形の癖や工房の構造を知っているだろう。そして、腕が良いというならば、このような精緻な道具を作るか、扱う技術を持っている可能性が高い」
甚兵衛とお絹は、お絹の情報網を使い、芳次郎の居場所を探り当てた。甚兵衛は、芳次郎に直接対峙した。「お前が使ったのは、このようなからくりだろう?」と、自身の「精緻作業用遠隔からくり」を見せつけた。
芳次郎は、そのからくりを見て顔色を変えた。そして、全てを白状した。やはり、宗兵衛の成功への嫉妬と、自分の腕への過信から、宗兵衛が失敗すれば自分が棚からぼた餅を得られると考えたのだ。宗兵衛の工房の小さな穴を知っており、自分の技術を活かして細工した針金と棒で、外から人形を傷つけたのだった。胡粉の汚れは、その際に彼自身の作業着についた顔料が、道具を伝って人形に付着した痕跡だった。
宗兵衛は芳次郎の裏切りに深く傷ついたが、同時に彼の嫉妬の裏にある、人形師としての業も理解できた。芳次郎は自分の卑劣な行為を悔い、宗兵衛に謝罪した。宗兵衛は、芳次郎を役人に突き出すことはせず、彼に人形の修復を手伝わせることを罰とした。それは、宗兵衛なりの、弟子への、そして同じ人形師への「人情」だった。芳次郎もまた、その厳しいながらも温かい処置に涙した。
事件は解決した。高度な技術による「あり得ない」犯行は、甚兵衛の「からくり」を用いた推理と実証によって暴かれ、その背後には人間の嫉妬という、これもまた複雑な「からくり」が隠されていた。
宗兵衛は、お絹や長屋の人々の助けも借りて、人形の修復に取り掛かった。甚兵衛は工房の穴を塞ぐための、簡単なからくり錠を考案して宗兵衛に渡した。
「甚兵衛さんのからくりは、本当に役に立つんだねえ」お絹は感心して言った。
「からくりは、人の手や思考の延長だ。悪いようにも使えるが、善いようにも使える」甚兵衛は自分の「精緻作業用遠隔からくり」を丁寧に手入れしながら答えた。
その言葉には、過去の何かを思わせる、僅かな影が差しているようにお絹には見えた。甚兵衛の過去、そしてこれから彼らが関わることになる、江戸を揺るがす大きな「からくり」の片鱗は、まだ見えていない。だが、奇妙な事件は、きっとこれからも続くのだろう。このからくり長屋で、甚兵衛とお絹がいる限り。
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