【完結】『からくり長屋の事件帖 ~変わり発明家甚兵衛と江戸人情お助け娘お絹~』

月影 朔

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第四部:大団円 ~からくりと人情が結ぶ未来~

第五十三話:屋根裏の逃走

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 陽動からくりが炸裂した音と光、そして追跡者たちの怒号を背後に、甚兵衛は天井の穴から屋根裏空間へと滑り込んだ。埃と熱気が満ちた、暗く狭い空間だ。梁が複雑に組み合わされ、足元は踏み板と、その下の脆弱な天井板(建物の階下の天井)でできている。先に上がったお絹と、担架からくりに乗せられた辰五郎の姿を探す。

「お絹! 辰五郎さん!」

 甚兵衛が声を潜めて呼んだ。微かな提灯の光が、屋根裏の闇を照らしている。お絹が、その光を頼りに、担架からくりを梁の上で支えながら、甚兵衛に合図を送っていた。

「こっちですい! 危ないから、梁の上を!」

 屋根裏は、人が普通に移動できる場所ではない。梁の上を伝って進まなければ、下の天井を踏み抜いてしまう危険がある。担架からくりに乗せられた辰五郎を連れての移動は、困難を極める。

 甚兵衛は、お絹の指示に従い、梁の上を慎重に進んだ。埃が舞い、呼吸が苦しい。彼らは、担架からくりを持ち上げ、梁から梁へと、僅かな踏み板を使いながら移動させる。辰五郎は、弱々しく横たわっているが、必死に身体を動かさないようにしている。

 背後から、追跡の気配が迫る。警備兵たちが、天井の穴から屋根裏へ上がってきているのが分かった。彼らの提灯の光が、闇の中に揺れる。
「ばらばらになれ! 屋根の上へ向かってるはずだ!」怒号が響く。

 屋根裏での追跡劇が始まった。警備兵たちは、屋根裏の構造に慣れていないのか、足音が響く。しかし、彼らも光を使って捜索範囲を広げてくる。甚兵衛とお絹は、光を消し、音を立てずに、梁や、積まれた古道具の陰に身を隠す。

 屋根裏は迷路のようだ。どこへ進めば屋根に出られるのか分からない。甚兵衛は、屋根裏の構造を観察する。瓦の下にある木材の配置、換気のための窓…屋根上へのアクセスを探す。

「あっちに…換気孔が見えますい…屋根に近いかも…」

 お絹が、鋭い視力で屋根裏の奥の一角を見つけた。彼らは、その方向へ移動を開始する。追跡者たちが、すぐ近くの梁を伝って移動しているのが分かる。息を殺し、彼らが通り過ぎるのを待つ。

 移動は危険に満ちている。梁から足を踏み外せば、下の階に落ちてしまう。埃や、古い建材が崩れる音も立てられない。辰五郎を乗せた担架からくりは、重い。二人の協調性がなければ、一歩も進めない。

 ようやく、お絹が見つけた換気孔の近くまでたどり着いた。そこは屋根の真下に近い場所だ。瓦の隙間から、外の冷たい空気が微かに流れ込んできている。

「ここから…屋根へ出られるはずだ」

 甚兵衛は、換気孔の格子を外し、屋根へのアクセスを探る。屋根板の隙間や、屋根裏の窓など、屋根上に直接出られる場所を探す。

 その時、すぐ近くで追跡者の声がした。「見つけたぞ!」彼らの提灯の光が、こちらへ向かってくる。

 時間がない。甚兵衛は、屋根板の一部を強引にこじ開けるか、あるいは屋根裏窓(もしあれば)を破るしかない。残されたからくり道具…屋根板を剥がすための道具か、窓の鍵を破るからくり…を必死に探す。

「こっちですい! 窓が…!」お絹が、屋根裏の隅に隠された小さな窓を見つけた。

 二人は窓へ駆け寄った。窓は内側から鍵がかかっている。甚兵衛は、最後の力で、窓の鍵破りからくりを操作した。追跡者の足音が、すぐ後ろに迫る。

 カチリ、という音と共に、窓の鍵が開いた。

 甚兵衛は窓を開け放った。夜の冷たい空気が流れ込んでくる。目の前には、瓦屋根、そしてその向こうに広がる江戸の町並み、そして夜空だ。

「上がるぞ!」

 二人は、担架からくりを担ぎ、窓から外へ。屋根上へ身体を滑り出させた。瓦の上は滑りやすい。身体を安定させるのに苦労する。

 ようやく三人とも、屋根上にたどり着いた。追跡者たちの怒号が、窓から響いてくる。「屋根に上がったぞ! 追え!」

 屋根裏からの脱出は成功した。しかし、彼らは今、敵の本拠地の屋根上にいる。地上からは高い。どこへ逃げればいいのか。

 夜空の下、屋根の上という新たな舞台で、物語は次の局面へ。追跡者はすぐそこまで来ている。大団円へ向けた最後の戦いが、今、屋根の上で始まる。
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