【完結】『からくり長屋の事件帖 ~変わり発明家甚兵衛と江戸人情お助け娘お絹~』

月影 朔

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第四部:大団円 ~からくりと人情が結ぶ未来~

第五十四話:瓦屋根(かわらやね)の追撃

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 屋根裏窓から瓦屋根に這い上がった甚兵衛とお絹は、冷たい夜風に晒された。眼下には、灯りの点々と広がる江戸の町並みが見える。上空には星がきらめいている。しかし、美しい光景を眺めている暇はない。背後からは、屋根裏窓から現れる追跡者たちの怒号と、屋根板を蹴る音が迫ってくる。

「屋根伝いに、隣の建物へ!」

 甚兵衛が叫んだ。この大店の屋根は広すぎる。隣の建物へ移り、別の脱出ルートを探す方が賢明だ。お絹は頷き、辰五郎を乗せた担架からくりと共に、屋根上を移動を開始する。

 瓦屋根は、予想以上に移動が難しい場所だ。瓦は滑りやすく、傾斜がある。足を滑らせれば、地上まで真っ逆さまだ。辰五郎を乗せた担架からくりは重い。二人の協力がなければ、一歩も進めない。甚兵衛とお絹は、担架からくりを担ぎ、バランスを取りながら、屋根の棟(むね)を伝って移動する。

「こっちだ! 追え!」

 追跡者たちも屋根に上がってきた。彼らは提灯の光で屋根上を照らしながら、四方から迫ってくる。彼らもまた、屋根上での戦闘や追跡に慣れているのだろう。

「影」の警備兵たちは、屋根の上でも俊敏に動く。彼らは、甚兵衛たちの動きを読み、屋根の低い部分や、障害物(煙突など)を利用して、追い詰めてくる。

 甚兵衛は、残された数少ないからくり道具を使い、彼らの追撃を妨害する。屋根瓦を蹴り落として追跡者を足止めする。あるいは、屋根裏で使った陽動からくり(光や音)を、遠隔で再作動させて注意を逸らす。しかし、道具は限られている。

 追跡劇は、瓦屋根の上で繰り広げられる。滑りやすい屋根の上での、命がけのかくれんぼだ。甚兵衛とお絹は、辰五郎を庇いながら、煙突の陰に隠れたり、屋根の裏側へ回り込んだりする。

 隣の建物との距離が近づいてきた。屋根の高さが少し違うが、飛び移れるほどの距離だ。

「お絹! 先に渡るんだ!」

 甚兵衛が叫び、担架からくりをお絹に託そうとする。しかし、その時、彼らの行く手を阻むように、一人の人影が屋根の上に現れた。

 冷たい気配。そして、その人影は…

「…氷雨…!」

 甚兵衛とお絹は、息を呑んだ。氷雨だ。彼は、この大店の屋根上…あるいは隣の建物の屋根伝いに現れたのだ。その顔には、地下工房を襲われたこと、そして辰五郎を奪われそうになったことへの、怒りが明確に浮かんでいる。

「逃がさぬぞ、平賀甚兵衛」

 氷雨の声が響く。その手には、金属製の、見慣れないからくりを持っている。氷雨自身が、最後の追跡者として現れたのだ。

 状況は絶望的だ。氷雨に加え、他の追跡者たちも屋根の各所から迫ってくる。逃げ場がなくなった。

 甚兵衛は、担架からくりをお絹に任せ、氷雨と対峙した。これは、地下工房で中断された、宿敵との最終決戦だ。舞台は、江戸の夜空の下、危険な瓦屋根上となった。

「お前の野望は潰えた! これ以上、好きにはさせない!」

 甚兵衛は叫び、氷雨めがけて飛びかかった。

 氷雨は、冷静にからくりを操作する。そのからくりから、鋭い金属音が響く。攻撃用のからくりか、あるいは甚兵衛の動きを封じるからくりか。

 瓦屋根の上で、二人のからくり使いの戦いが始まる。滑りやすい足場、転落の危険…全てが、この戦いをより危険なものにする。お絹は、辰五郎を庇いながら、戦いを見守る。彼女には、甚兵衛を助ける術はない。ただ、祈ることしかできない。
「影」の警備兵たちも迫ってくる。彼らは、甚兵衛とお絹を囲むように動き出す。

 物語は、瓦屋根の上で最大の山場を迎える。氷雨との直接対決、そして絶体絶命の状況。大団円へ向けた最後の戦いが、今、この場所で繰り広げられる。辰五郎の安否、甚兵衛と氷雨の因縁、そして二人の脱出の行方。全てが、この屋根の上での戦いにかかっている。
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