【完結】『からくり長屋の事件帖 ~変わり発明家甚兵衛と江戸人情お助け娘お絹~』

月影 朔

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第四部:大団円 ~からくりと人情が結ぶ未来~

第五十五話:瓦の上の最終決近

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 瓦屋根の上。追跡者の怒号が響く中、甚兵衛とお絹、そして辰五郎を乗せた担架からくりの前に、氷雨が立ちはだかった。冷たい夜風が、彼の装束を揺らす。その目は、獲物を追い詰めた狩人のように鋭い。

「逃がさぬぞ、平賀甚兵衛。そして…貴様らの浅はかな『人情』も、ここで潰える」

 氷雨の声は、瓦屋根に響き渡る。その手には、地下工房で甚兵衛のからくりを阻んだ、あの金属製のからくりが握られている。彼にとって、甚兵衛は長年の宿敵。そして、からくりによる支配こそが正義なのだ。

「貴様の野望こそ潰える! からくりは、道具だ! 心は支配できぬ!」

 甚兵衛が叫んだ。お絹は、担架からくりに乗せられた辰五郎を庇い、後退する。他の「影」の警備兵たちも、屋根の各所から迫ってくる。逃げ場は…ない。

 甚兵衛は、氷雨めがけて飛びかかった。舞台は、滑りやすい瓦屋根の上。僅かな足場の狂いが、命取りになる危険な戦場だ。

 氷雨は、懐から複数の小型からくりを取り出し、甚兵衛に向けて放つ。鋭利な刃のようなもの、動きを阻害する粘着性の液体を噴射するもの…全てが、甚兵衛の動きを封じ、仕留めるために特化されている。

 甚兵衛は、残された最後の反からくりや、体術、そして屋根上の地形を利用して、氷雨の攻撃をかわす。煙突を盾にする。屋根の勾配を利用して滑り込む。瓦を蹴り上げて氷雨の視界を妨害する。彼のからくりは少ないが、その応用力と、武士時代の戦闘経験が、彼を支えている。

「無駄だ! からくりの精緻さ、絶対の力…それはお前のような、人情などに囚われた者には理解できぬ!」

 氷雨が叫ぶ。彼のからくりは、正確無比だ。狙いは、常に甚兵衛の急所。あるいは、彼のからくりを破壊する。

 その頃、お絹は、辰五郎を守るために、屋根の隅へと移動していた。他の「影」の警備兵たちが、彼女たちを捕らえようと迫ってくる。お絹は、担架からくりを盾にしながら、必死に身を守る。彼女には、甚兵衛のように高度なからくりはない。しかし、勇気と、辰五郎を守るという強い意志がある。瓦を蹴り落として、追跡者を足止めする。叫び声を上げて、甚兵衛に危険を知らせる。

 戦いは続く。甚兵衛と氷雨、二人のからくり使いの技が、夜空の下でぶつかり合う。金属音、からくりの作動音、そして二人の息遣いだけが響く。

 氷雨は、甚兵衛のからくりを一つずつ破壊していく。甚兵衛は、避けることに集中する。彼の目的は、氷雨を倒すことだけではない。辰五郎とお絹を、ここから逃がすための隙を作ることだ。

 氷雨のからくりが、甚兵衛の腕に直撃した。痛みが走り、手が痺れる。からくり道具を落としそうになる。

「甚兵衛!」お絹が叫んだ。

 氷雨は、勝機と見て、さらに追撃しようとする。

 その時、甚兵衛は、最後のからくり…あの地下工房で氷雨のからくりを分析して、その弱点を突くために造りかけた反からくりの部品…を思い出した。それは、完成していないが、氷雨の特定のからくりの機能に干渉する効果があるはずだ。

 甚兵衛は、その部品を使い、自身のからくりと組み合わせ、氷雨のからくりにめがけて放った。完成されたからくりではない。しかし、甚兵衛の知識と、この一瞬に全てを賭ける集中力が、それを可能にした。

 キィン!という高音と共に、甚兵衛のからくり部品が、氷雨の持つからくりに接触した。氷雨のからくりが、一瞬、光を失い、動きが止まる。機能停止したのだ!

「なに…!?」氷雨の顔に、驚愕の色が浮かぶ。自らのからくりが、まさかこんな形で止められるとは。

 この隙だ!

 甚兵衛は、氷雨の硬直を突き、彼に組み付いた。二人はもつれ合い、瓦屋根を転がる。氷雨はからくりを失い、体術で抵抗する。しかし、甚兵衛の武士時代の体術には及ばない。

 格闘の末、甚兵衛は氷雨を瓦屋根の低い部分へ押し倒した。氷雨は動けない。完全に無力化されたわけではないが、ここから追撃するのは不可能だろう。

「お絹! 今だ! 下へ!」

 甚兵衛が叫んだ。氷雨を倒したことで、他の警備兵たちの動きが一瞬止まる。これは、またとない機会だ。

 お絹は、すぐに担架からくりを担ぎ、屋根の端…隣の建物へ渡るか、あるいは地上へ降りられる場所を目指して駆け出した。

 甚兵衛は、倒れた氷雨の傍らを離れ、お絹の後を追った。他の警備兵たちが、再び動き出すのが分かる。しかし、氷雨を倒したことで、彼らは指揮系統を失い、動きに僅かな迷いが生じている。

 瓦屋根の最終決戦は、甚兵衛の勝利に終わった。宿敵氷雨を倒し、辰五郎と逃げるための活路を見出した。物語は、大団円へ向け、屋根上からの最後の脱出へと進む。
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