【完結】『からくり長屋の事件帖 ~変わり発明家甚兵衛と江戸人情お助け娘お絹~』

月影 朔

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第四部:大団円 ~からくりと人情が結ぶ未来~

第五十六話:屋根からの脱出

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 瓦屋根の上。氷雨が倒れた一瞬の隙。甚兵衛は、すぐにお絹と辰五郎の傍らへ駆け寄った。他の「影」の警備兵たちは、指揮官である氷雨が倒されたことに動揺し、一瞬動きが止まっている。これは、逃げるための、そして最後のチャンスだ。

「お絹! 辰五郎さんを! 下へ!」

 甚兵衛が叫んだ。屋根上から地上へ降りるのだ。事前に目星をつけていた、建物の裏手、比較的高さの低い隣の建物との間、あるいは川に面した壁面…そこへ移動し、降下する。

 お絹は頷き、担架からくりを担ぎ、屋根の端へ移動を開始する。甚兵衛は、残されたからくり道具…屋根上での移動や、降下のために使えるもの…を素早く確認する。鉤からくりはまだ使える。ロープも残っている。

「影」の警備兵たちが、動揺から立ち直り、再び追撃を開始した。彼らは、屋根の各所から、甚兵衛とお絹めがけて迫ってくる。

 甚兵衛は、警備兵たちの動きを牽制しながら、お絹の後を追う。屋根の端までたどり着くと、甚兵衛は鉤からくりを使い、隣の建物の手すりか、あるいは壁の頑丈な部分に鉤をかけた。ロープを固定する。

「これで降ろす! お絹、頼む!」

 甚兵衛は、お絹に担架からくりを慎重に屋根の端まで運ぶよう指示し、自身はロープを使って先に少し降り、降下を補助する体勢をとる。お絹は、担架からくりを屋根の端に寄せ、辰五郎を滑り落ちさせないように支える。辰五郎は、弱々しく二人に感謝の言葉を伝えようとするが、力が無い。

「大丈夫ですよ、辰五郎さん!」

 お絹は、彼に笑顔を見せ、ロープの操作を甚兵衛に任せ、担架からくりと共に、屋根の端からゆっくりと身体を降ろし始めた。担架からくりに乗った辰五郎の重みが、ロープにずしりと伝わる。甚兵衛は、屋根上からロープの動きを調整し、お絹の降下を補助する。

「影」の警備兵たちが、屋根の端まで迫ってきた。彼らは、ロープを切ろうとしたり、石(瓦?)を投げつけたりして、降下を妨害しようとする。

 甚兵衛は、身体を揺らしたり、残された最後のからくり部品(僅かな煙を発するものなど)を使って、彼らの攻撃をかわす。お絹もまた、降下しながら、身をかわす。危険な降下だ。一瞬のミスが、全てを台無しにする。

 少しずつ、地上、あるいは隣の建物の低い屋根へと近づいていく。建物の壁面には、雨樋や、装飾品など、掴まる場所があるかもしれない。

 ようやく、お絹と辰五郎を乗せた担架からくりが、安全な高さまで降りた。甚兵衛は、屋根から飛び降り、お絹と担架からくりの傍らへ着地した。足首に痛みが走るが、構っていられない。
「影」の警備兵たちが、屋根の上からこちらを見下ろしている。彼らは、降下を諦めたわけではないだろう。別のルートで降りてくるか、あるいは地上にいる仲間に指示を送るだろう。

「急ごう!」

 甚兵衛とお絹は、担架からくりを担ぎ、その場から離れた。ここは、大店のすぐ脇の、人通りの少ない場所だ。夜の闇が、彼らを包み込む。

 屋根上からの脱出は、間一髪で成功した。氷雨を倒し、追跡を振り切り、地上、あるいは安全な高さまで降りてきた。しかし、まだ敵の本拠地のすぐそばにいる。

 辰五郎は、担架からくりの中で、弱々しく息をしている。彼を安全な場所へ連れて行かなければならない。そして…氷雨は? 奴は、瓦屋根の上に倒れているだけなのか。それとも…

 物語は、屋根からの脱出を経て、新たな逃走へと進む。大団円へ向け、彼らは夜の江戸の町を、追われる身として駆け抜ける。
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