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第五章:暁光~明日の灯火(ともしび)~
第九十三話:残された者たちと、古き信仰の荒廃
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蝕組との戦いが終わり、江戸の町には穏やかな日常が戻りつつあった。
玄庵診療所には、傷ついた人々や妖怪たちが癒やしを求めて訪れ、玄庵とおみつは彼らの心と体の傷を丁寧に癒やしていた。
しかし、戦いは終わったものの、その爪痕は深く、解決すべき新たな課題が山積していた。
蝕組の頭領である影は消滅した。
しかし、彼に利用されていた者たち、そして穢れの影響を深く受けた者たちは、数多く残されていた。
彼らは、蝕組の支配から解放されたものの、行き場を失い、深い心の闇を抱えていた。中には、穢れに心を蝕まれ、正常な判断ができない者もいた。
玄庵は、診療所の閉院後、古尾と共に、そうした残された者たちの元を訪れることが増えていた。
「おい、あんた。こんなところで何してんだい」
古尾が、町の片隅でうずくまっている男に声をかけた。
男は、かつて蝕組の配下として、穢れを撒き散らしていた者の一人だった。彼の顔はやつれ、その瞳には虚ろな色が宿っていた。
「……俺は、もう……何もねぇんだ……。頭領も、穢れも、全てが消えちまった……。俺は、一体、何を信じて生きていけばいいんだ……」
男は、そう呟くと、再び顔を膝に埋めた。彼のような者は、町中に溢れていた。彼らは、影の歪んだ思想に囚われ、穢れに全てを捧げて生きてきた。その信仰が、一夜にして崩れ去ったことで、心の拠り所を失い、絶望の淵に突き落とされていた。
「彼らを、どう導けばいいか……」
玄庵は、男の背中を見つめながら、静かに呟いた。力ずくで穢れを打ち破ることはできたが、彼らの心を救うことは、また別の困難な道のりだった。
「先生……」
おみつは、そんな玄庵の背中に、そっと寄り添った。彼女もまた、そうした人々の苦しみを肌で感じていた。
「彼らは、穢れに囚われていたとはいえ、元は、この町の人間や妖怪だったのだ。彼らを見捨てることは、できない……」
玄庵は、そう言って、深く息を吐いた。彼は、医者として、彼らの心と体を癒やすだけでなく、彼らが再び生きる意味を見つけられるよう、手助けしたいと考えていた。
そんな彼らの活動の傍らで、江戸の町には、もう一つの変化が起こっていた。それは、古き信仰の荒廃だった。
玄庵診療所のすぐ近くに、小さな祠があった。かつては、村人たちが日々の感謝を捧げ、祈りを捧げていたであろう、素朴な祠だ。しかし、今は、草木が生い茂り、鳥の糞にまみれ、賽銭箱は朽ち果てていた。
誰も手入れをしていないその祠からは、寂れた気配が漂っている。
ある日の昼下がり、おみつは、診療所の掃除を終えた後、ふと、その祠に目を向けた。
「先生、あの祠……ずいぶん荒れていますね」
おみつが声をかけると、玄庵は、祠の方を見て、小さく頷いた。
「ああ……。昔は、もっと多くの人々が、この祠に手を合わせていたと聞いている。特に、病を患った者や、旅に出る者が、無事を祈りに来ていたそうだ」
玄庵は、遠い昔を懐かしむように言った。
「どうして、こんなに荒れてしまったのでしょう?」
おみつが尋ねると、玄庵は、少し考え込むように首を傾げた。
「疫病が流行り、人々が神仏への信仰心を失っていったから、だろうな……。特に、この江戸では、穢れの奇病が蔓延し、多くの者が神に見捨てられたと感じたのかもしれない」
玄庵の言葉に、おみつは納得した。人々は、苦しみの中で、神に祈っても救われなかったと感じ、次第に信仰から遠ざかっていったのだろう。荒れ果てた祠は、人々の失われた信仰心の象徴のようだった。
「それに……」
玄庵は、さらに言葉を続けた。
「この祠に祀られていたのは、水神だ。この地の水を司り、人々の暮らしを支えていた神だと聞いている。しかし、近年、このあたりでは、あまり雨が降らず、井戸も枯れかけているところが多いと聞く。おそらく、穢れの影響もあるのだろうが……」
玄庵は、そう言って、遠くの空を見上げた。その空には、以前のような穢れの瘴気はなかったが、どこか乾燥した、不自然な気配が漂っているように感じられた。
おみつは、その言葉を聞き、先日、診療所を訪れた、喉の渇きを訴える男性患者の顔を思い出した。そして、彼女が感じ取った、あの「悲しい水の匂い」。
その匂いは、荒れ果てた祠から漂う、寂れた気配と重なるように感じられた。
(もしかして……あの奇妙な気配は、この祠と関係があるのだろうか……?)
おみつは、心の中で疑問を抱いた。しかし、玄庵は、まだそのことに気づいていないようだった。
玄庵は、かつて蝕組の頭領だった影に利用されていた者たち、そして穢れの影響を受けた者たちをどう導くかという、新たな課題に直面していた。そして、その傍らで、古き信仰の荒廃と、それに伴う土地の異変が、静かに、しかし確実に進行しつつあった。
これらの新たな問題は、やがて来る、より根源的な脅威の兆候となる。
そして、その兆候に、いち早く気づくのは、玄庵ではなく、おみつの繊細な感覚だった。
玄庵診療所には、傷ついた人々や妖怪たちが癒やしを求めて訪れ、玄庵とおみつは彼らの心と体の傷を丁寧に癒やしていた。
しかし、戦いは終わったものの、その爪痕は深く、解決すべき新たな課題が山積していた。
蝕組の頭領である影は消滅した。
しかし、彼に利用されていた者たち、そして穢れの影響を深く受けた者たちは、数多く残されていた。
彼らは、蝕組の支配から解放されたものの、行き場を失い、深い心の闇を抱えていた。中には、穢れに心を蝕まれ、正常な判断ができない者もいた。
玄庵は、診療所の閉院後、古尾と共に、そうした残された者たちの元を訪れることが増えていた。
「おい、あんた。こんなところで何してんだい」
古尾が、町の片隅でうずくまっている男に声をかけた。
男は、かつて蝕組の配下として、穢れを撒き散らしていた者の一人だった。彼の顔はやつれ、その瞳には虚ろな色が宿っていた。
「……俺は、もう……何もねぇんだ……。頭領も、穢れも、全てが消えちまった……。俺は、一体、何を信じて生きていけばいいんだ……」
男は、そう呟くと、再び顔を膝に埋めた。彼のような者は、町中に溢れていた。彼らは、影の歪んだ思想に囚われ、穢れに全てを捧げて生きてきた。その信仰が、一夜にして崩れ去ったことで、心の拠り所を失い、絶望の淵に突き落とされていた。
「彼らを、どう導けばいいか……」
玄庵は、男の背中を見つめながら、静かに呟いた。力ずくで穢れを打ち破ることはできたが、彼らの心を救うことは、また別の困難な道のりだった。
「先生……」
おみつは、そんな玄庵の背中に、そっと寄り添った。彼女もまた、そうした人々の苦しみを肌で感じていた。
「彼らは、穢れに囚われていたとはいえ、元は、この町の人間や妖怪だったのだ。彼らを見捨てることは、できない……」
玄庵は、そう言って、深く息を吐いた。彼は、医者として、彼らの心と体を癒やすだけでなく、彼らが再び生きる意味を見つけられるよう、手助けしたいと考えていた。
そんな彼らの活動の傍らで、江戸の町には、もう一つの変化が起こっていた。それは、古き信仰の荒廃だった。
玄庵診療所のすぐ近くに、小さな祠があった。かつては、村人たちが日々の感謝を捧げ、祈りを捧げていたであろう、素朴な祠だ。しかし、今は、草木が生い茂り、鳥の糞にまみれ、賽銭箱は朽ち果てていた。
誰も手入れをしていないその祠からは、寂れた気配が漂っている。
ある日の昼下がり、おみつは、診療所の掃除を終えた後、ふと、その祠に目を向けた。
「先生、あの祠……ずいぶん荒れていますね」
おみつが声をかけると、玄庵は、祠の方を見て、小さく頷いた。
「ああ……。昔は、もっと多くの人々が、この祠に手を合わせていたと聞いている。特に、病を患った者や、旅に出る者が、無事を祈りに来ていたそうだ」
玄庵は、遠い昔を懐かしむように言った。
「どうして、こんなに荒れてしまったのでしょう?」
おみつが尋ねると、玄庵は、少し考え込むように首を傾げた。
「疫病が流行り、人々が神仏への信仰心を失っていったから、だろうな……。特に、この江戸では、穢れの奇病が蔓延し、多くの者が神に見捨てられたと感じたのかもしれない」
玄庵の言葉に、おみつは納得した。人々は、苦しみの中で、神に祈っても救われなかったと感じ、次第に信仰から遠ざかっていったのだろう。荒れ果てた祠は、人々の失われた信仰心の象徴のようだった。
「それに……」
玄庵は、さらに言葉を続けた。
「この祠に祀られていたのは、水神だ。この地の水を司り、人々の暮らしを支えていた神だと聞いている。しかし、近年、このあたりでは、あまり雨が降らず、井戸も枯れかけているところが多いと聞く。おそらく、穢れの影響もあるのだろうが……」
玄庵は、そう言って、遠くの空を見上げた。その空には、以前のような穢れの瘴気はなかったが、どこか乾燥した、不自然な気配が漂っているように感じられた。
おみつは、その言葉を聞き、先日、診療所を訪れた、喉の渇きを訴える男性患者の顔を思い出した。そして、彼女が感じ取った、あの「悲しい水の匂い」。
その匂いは、荒れ果てた祠から漂う、寂れた気配と重なるように感じられた。
(もしかして……あの奇妙な気配は、この祠と関係があるのだろうか……?)
おみつは、心の中で疑問を抱いた。しかし、玄庵は、まだそのことに気づいていないようだった。
玄庵は、かつて蝕組の頭領だった影に利用されていた者たち、そして穢れの影響を受けた者たちをどう導くかという、新たな課題に直面していた。そして、その傍らで、古き信仰の荒廃と、それに伴う土地の異変が、静かに、しかし確実に進行しつつあった。
これらの新たな問題は、やがて来る、より根源的な脅威の兆候となる。
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