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第八章:敵の帰還、最終決戦
第百二十七話:集う仲間たち
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玄庵と再会を果たし、固い決意を胸にしたおみつたちは、夜明けを待たずに江戸へと急いだ。
山を下りるにつれ、穢れの気配は一層濃くなり、人々の苦しみが、胸を締め付けるように伝わってくる。
「竜胆様、無事でいてくだされば良いのですが……」
おみつは、不安げに呟いた。竜胆が、一人で江戸の混乱に立ち向かっていることを想像すると、いてもたってもいられなかった。
「あの生真面目な退魔師のことだ。少々のことではへこたれまいよ」
古尾が、いつもの軽口を叩いたが、その表情には、やはり心配の色が滲んでいた。玉藻もまた、普段は物静かな尾を、そわそわと揺らしている。
江戸の入り口に差し掛かると、町を覆う異様な空気が肌に感じられた。空は鉛色に淀み、往来の人々は、誰もが顔色を悪くし、不安げな目をしている。あちこちから、呻き声や、助けを求める声が聞こえてくる。
「ひどい……こんなに……」
おみつは、思わず息を呑んだ。玄庵が不在の間、執行者たちの企みが、これほどまでに江戸を蝕んでいたとは。
その時、人混みの向こうから、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おみつーっ!」
楓だ。楓は、人々の間を掻き分け、おみつたちのもとへ駆け寄ってきた。その顔には、安堵と、そして疲労の色が浮かんでいる。
「楓! 無事だったのね!」
おみつは、楓の手を固く握りしめた。
「あんたたちがいない間、江戸はもう、てんやわんやよ。診療所も、竜胆様が一人で頑張ってくれてるけど、もう限界だって……」
楓の言葉に、玄庵の表情が引き締まった。
「急ごう。診療所へ」
玄庵の言葉に促され、一行は足早に診療所へと向かった。
診療所の前には、夥しい数の人々や妖怪たちが集まっていた。彼らは皆、疲弊しきった様子で、しかし、その瞳には、一縷の希望を求めている光が宿っている。
診療所の戸口では、竜胆が、狂暴化した妖怪たちを退けながら、必死に患者たちを守っていた。彼の息は荒く、額からは汗が流れ落ちている。
「竜胆!」
玄庵の声が、混乱の中に響き渡った。竜胆は、その声に振り返り、目を見開いた。
「玄庵……! 戻ってきてくれたのか!」
竜胆の顔に、安堵の表情が浮かんだ。しかし、彼の疲れは、隠しきれない。
玄庵は、竜胆の傍らへと駆け寄り、その肩に手を置いた。
「済まなかった。遅くなった」
「いや……間に合ってくれただけで、十分だ」
その時、診療所の奥から、弱々しい妖怪たちの声が聞こえた。彼らは、因果の病に苦しみ、執行者たちの穢れによって、理性を失いつつある者たちであった。
おみつは、その声を聞き、居ても立ってもいられなくなった。
「私が、皆を癒します!」
彼女は、診療所の中へと飛び込んだ。その手からは、清らかな浄化の光が放たれ、苦しむ妖怪たちを優しく包み込む。
その光景を目の当たりにした人々や妖怪たちは、ざわめきながらも、希望の光を見たかのように、おみつの周りに集まってきた。
「そうだ……この診療所は、希望なのだ」
竜胆は、玄庵の隣で、静かに呟いた。
その時、古尾が、人々のざわめきの中に、見慣れた顔を見つけた。
「おや、あそこにいるのは……」
それは、かつて玄庵に救われた人々や、彼の診療所で癒された妖怪たちの姿であった。病で臥せっていた老婆、足を怪我した木霊、人間に怯えていた物の怪。彼らは皆、玄庵の帰還を知り、そして、この困難な時に、恩返しをしようと集まってきたのだ。
「先生、私たちも、何かできることはないでしょうか」
かつて奇病に苦しんだ若い男が、玄庵に頭を下げた。
「俺もだ。先生に助けられた命だ。この恩は、決して忘れはしない」
妖怪たちもまた、玄庵を見つめ、それぞれの言葉で、協力を申し出た。
玄庵は、彼ら一人ひとりの顔を、慈しむように見つめた。そこには、人種や種族の隔たりなく、ただ玄庵を信じ、共に戦おうとする、強い絆があった。
玄庵の胸に、熱いものがこみ上げてきた。彼は、一人ではない。そして、この力は、彼一人だけのものではない。この江戸で出会い、絆を育んできた全ての仲間たちと共に、この困難に立ち向かうのだ。
「皆……ありがとう」
玄庵の声は、静かであったが、その言葉には、限りない感謝と、揺るぎない決意が込められていた。
江戸の町は、依然として闇に包まれている。しかし、玄庵診療所には、新たな希望の光が灯り始めていた。神罰の執行者との全面対決の時が、刻一刻と迫っていた。
玄庵は、集いし仲間たちと共に、その戦いへと、今、まさに赴かんとしていた。
山を下りるにつれ、穢れの気配は一層濃くなり、人々の苦しみが、胸を締め付けるように伝わってくる。
「竜胆様、無事でいてくだされば良いのですが……」
おみつは、不安げに呟いた。竜胆が、一人で江戸の混乱に立ち向かっていることを想像すると、いてもたってもいられなかった。
「あの生真面目な退魔師のことだ。少々のことではへこたれまいよ」
古尾が、いつもの軽口を叩いたが、その表情には、やはり心配の色が滲んでいた。玉藻もまた、普段は物静かな尾を、そわそわと揺らしている。
江戸の入り口に差し掛かると、町を覆う異様な空気が肌に感じられた。空は鉛色に淀み、往来の人々は、誰もが顔色を悪くし、不安げな目をしている。あちこちから、呻き声や、助けを求める声が聞こえてくる。
「ひどい……こんなに……」
おみつは、思わず息を呑んだ。玄庵が不在の間、執行者たちの企みが、これほどまでに江戸を蝕んでいたとは。
その時、人混みの向こうから、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おみつーっ!」
楓だ。楓は、人々の間を掻き分け、おみつたちのもとへ駆け寄ってきた。その顔には、安堵と、そして疲労の色が浮かんでいる。
「楓! 無事だったのね!」
おみつは、楓の手を固く握りしめた。
「あんたたちがいない間、江戸はもう、てんやわんやよ。診療所も、竜胆様が一人で頑張ってくれてるけど、もう限界だって……」
楓の言葉に、玄庵の表情が引き締まった。
「急ごう。診療所へ」
玄庵の言葉に促され、一行は足早に診療所へと向かった。
診療所の前には、夥しい数の人々や妖怪たちが集まっていた。彼らは皆、疲弊しきった様子で、しかし、その瞳には、一縷の希望を求めている光が宿っている。
診療所の戸口では、竜胆が、狂暴化した妖怪たちを退けながら、必死に患者たちを守っていた。彼の息は荒く、額からは汗が流れ落ちている。
「竜胆!」
玄庵の声が、混乱の中に響き渡った。竜胆は、その声に振り返り、目を見開いた。
「玄庵……! 戻ってきてくれたのか!」
竜胆の顔に、安堵の表情が浮かんだ。しかし、彼の疲れは、隠しきれない。
玄庵は、竜胆の傍らへと駆け寄り、その肩に手を置いた。
「済まなかった。遅くなった」
「いや……間に合ってくれただけで、十分だ」
その時、診療所の奥から、弱々しい妖怪たちの声が聞こえた。彼らは、因果の病に苦しみ、執行者たちの穢れによって、理性を失いつつある者たちであった。
おみつは、その声を聞き、居ても立ってもいられなくなった。
「私が、皆を癒します!」
彼女は、診療所の中へと飛び込んだ。その手からは、清らかな浄化の光が放たれ、苦しむ妖怪たちを優しく包み込む。
その光景を目の当たりにした人々や妖怪たちは、ざわめきながらも、希望の光を見たかのように、おみつの周りに集まってきた。
「そうだ……この診療所は、希望なのだ」
竜胆は、玄庵の隣で、静かに呟いた。
その時、古尾が、人々のざわめきの中に、見慣れた顔を見つけた。
「おや、あそこにいるのは……」
それは、かつて玄庵に救われた人々や、彼の診療所で癒された妖怪たちの姿であった。病で臥せっていた老婆、足を怪我した木霊、人間に怯えていた物の怪。彼らは皆、玄庵の帰還を知り、そして、この困難な時に、恩返しをしようと集まってきたのだ。
「先生、私たちも、何かできることはないでしょうか」
かつて奇病に苦しんだ若い男が、玄庵に頭を下げた。
「俺もだ。先生に助けられた命だ。この恩は、決して忘れはしない」
妖怪たちもまた、玄庵を見つめ、それぞれの言葉で、協力を申し出た。
玄庵は、彼ら一人ひとりの顔を、慈しむように見つめた。そこには、人種や種族の隔たりなく、ただ玄庵を信じ、共に戦おうとする、強い絆があった。
玄庵の胸に、熱いものがこみ上げてきた。彼は、一人ではない。そして、この力は、彼一人だけのものではない。この江戸で出会い、絆を育んできた全ての仲間たちと共に、この困難に立ち向かうのだ。
「皆……ありがとう」
玄庵の声は、静かであったが、その言葉には、限りない感謝と、揺るぎない決意が込められていた。
江戸の町は、依然として闇に包まれている。しかし、玄庵診療所には、新たな希望の光が灯り始めていた。神罰の執行者との全面対決の時が、刻一刻と迫っていた。
玄庵は、集いし仲間たちと共に、その戦いへと、今、まさに赴かんとしていた。
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