【完結】『大江戸妖怪診療所~奇病を治すは鬼の医者~』

月影 朔

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第八章:敵の帰還、最終決戦

第百四十三話:真の依代 vs 歪んだ依代

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 玄庵の全身から放たれる清浄な光は、祭祀場に満ちる闇を、まるで朝霧のように晴らしていく。

 その輝きは、戒の歪んだ依代の力と激しく衝突し、天地がひっくり返るかのような轟音を轟かせた。

「馬鹿な……貴様ごときに、これほどの力が宿っていたとは……!」

 戒は、驚愕に目を見開いた。彼の巨大な影は、玄庵の光に触れるたびに、まるで焼かれるかのように縮み、悲鳴のような音を上げていた。

 おみつは、その光景を、息を呑んで見つめていた。玄庵の覚醒した力は、想像をはるかに超えるものであった。それは、ただ強いだけでなく、見る者の心を浄化し、安らぎを与えるような、温かい光であった。

「これが……玄庵様の本当の力……」

 古尾もまた、その光に目を奪われていた。霊気の雨に蝕まれていた彼の体も、玄庵の光に触れて、みるみるうちに回復していくのがわかる。まるで、体の中に清らかな水が流れ込んだかのようであった。

 竜胆は、破魔の札を握りしめたまま、玄庵を見上げていた。彼の顔には、驚きと同時に、深い感銘の色が浮かんでいる。これまでの退魔師としての経験では、決して見ることのなかった、真の浄化の力。それが、今、目の前で繰り広げられていた。

「にゃあ……! よくやったさ、玄庵!」

 玉藻が、玄庵の足元で、力強く鳴いた。彼の瞳には、玄庵への信頼と、そしてこの戦いの勝利を確信する光が宿っている。

 玄庵は、一歩、また一歩と、戒へと歩みを進めた。彼の歩みに合わせるように、清浄な光の波が広がり、祭祀場の闇を押し返していく。

「貴様は……この世の理を歪め、多くの魂を苦しめてきた。その罪は、決して許されるものではない」

 玄庵の声は、静かでありながら、祭祀場全体に響き渡った。それは、怒りではなく、深い悲しみと、そして戒を諭すかのような響きを帯びていた。

「黙れ! この世界こそが、歪んでいるのだ! 我は、この腐りきった世界を浄化し、新たな世を創り出すのだ!」

 戒は、そう叫び、再び闇色の霊気を玄庵に叩きつけた。それは、彼自身の絶望と、この世界への憎しみが凝り固まった、禍々しい力であった。

 しかし、玄庵の放つ光は、その闇色の霊気を容易く切り裂き、浄化していく。光と闇が激しく衝突するたびに、祭祀場は震え、その構造が軋む音を立てた。

「貴様のやり方では、何も生まれはしない。ただ、さらなる悲しみと、憎しみを生むだけだ」

 玄庵は、そう言いながら、戒に手を伸ばした。彼の掌から、清らかな光が奔流となって溢れ出し、戒の巨大な影を包み込もうとする。

「くっ……離せ! この光は……我を蝕む……!」

 戒は、苦悶の声を上げた。玄庵の光は、戒の体を包む闇色の霊気を焼き払い、その本体にまで達しようとしていた。歪んだ神の依代の力が、玄庵の真の依代の光によって、徐々に浄化され、その本来の姿を取り戻そうとしているのだ。

「玄庵様……!」

 おみつは、玄庵のその姿に、思わず手を合わせた。玄庵の放つ光は、戒を打ち倒すための力ではなく、戒自身を、その歪んだ呪縛から解き放つための光であると、おみつは感じ取っていた。

 古尾と竜胆もまた、その光景に言葉を失っていた。それは、退魔師が妖怪を調伏するのとは異なる、慈悲に満ちた浄化の光であった。

 玄庵の光が、戒の影を包み込み、祭祀場全体が、白銀の光に満たされていく。光と闇の激しいせめぎ合いが続く中、玄庵は、戒の心に直接語りかけるかのように、静かに、しかし、力強く問いかけた。

「戒……貴様は、何を望むのだ? 本当に、この世の全てを壊すことを望むのか?」

 その問いかけが、激しく揺らめく戒の心に、わずかながらも、波紋を広げ始めていた。
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