みんな善いことだと思ってた

月影 朔

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【第一章:予兆の記録(2024年~2027年)】

第7話:資料No.006(SNS投稿ログ)2025年

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【資料No.006】
資料種別:SNS(X 旧Twitter)投稿ログ
記録年:2025年

(以下は、資料No.005で言及された、2025年秋の熊被害拡大に伴うSNS上の論争を、編纂者が再構成したものである。異なる立場の人々の「善意」が、いかにして建設的な対話を不可能にし、社会の分断を深めていったか。その典型的な記録としてここに収める)

1. 発端となった投稿

ユーザー名: @love_animals_tokyo
投稿日時: 2025年10月29日 08:15
投稿内容:
昨日のニュース特集を見て、本当に胸が痛みました。山に餌がなくて、お腹を空かせたクマさんが人里に下りてきているだけなのに…。私たち人間が彼らの住処を奪った結果です。それなのに、安易に「駆除」という言葉を使うのは、あまりにも傲慢ではないでしょうか。彼らだって、同じ地球に生きる仲間です。
#熊を殺すな #共存の道を探そう
[添付画像:愛らしい子熊が木に登っている写真]

2. 対立の激化

ユーザー名: @gunma_farmer88 (上記投稿を引用)
投稿日時: 2025年10月29日 09:30
投稿内容:
東京から、綺麗事を言うな!「仲間」が、家の裏の畑を毎晩のように荒らしに来る恐怖がわかるか? 小学生の孫娘が、一人で学校から帰ってこれないんだぞ! こっちは生活と命がかかってんだ!
#熊被害 #駆除やむなし

ユーザー名: @eco_conscious_yuki (@gunma_farmer88への返信)
投稿日時: 2025年10月29日 10:05
投稿内容:
横から失礼します。でも、元はと言えば人間が森林を伐採したのが原因ですよね? 被害者意識を持つのは少し違うのではないでしょうか。電気柵の設置など、殺さないための努力をまず尽くすべきだと思います。命は、地球より重いのですから。
#熊を殺すな

ユーザー名: @niigata_hunter72 (@eco_conscious_yukiを引用)
投稿日時: 2025年10月29日 11:20
投稿内容:
あんたみたいなのが一番タチが悪い。電気柵にいくらかかるか知ってんのか? 国や県からの補助金なんて雀の涙だ。こっちは好きで殺してるわけじゃねえ。あんたらの食ってる米や野菜を、命がけで守ってるんだ。一度、こっちに来て夜を越してみろ。山の暗闇から、ガサガサ聞こえる音に怯えながらな。
#熊を殺すなとか言う前に現場に来い

ユーザー名: @cat_cafe_lover (@niigata_hunter72への返信)
投稿日時: 2025年10月29日 12:45
投稿内容:
猟友会の人って、結局は趣味で動物を殺したいだけでしょ? 正義の味方みたいに言わないでほしい。言葉が通じない相手だからって、命を奪っていい理由にはならない。許せない。
#動物虐待

ユーザー名: @niigata_hunter72 (@cat_cafe_loverへの返信)
投稿日時: 2025年10月29日 13:10
投稿内容:
話にならん。ブロックする。

3. 議論の拡散と混乱

ユーザー名: @bengo4_com_news (ニュースメディアアカウント)
投稿日時: 2025年10月30日 12:00
投稿内容:
【特集】「#熊を殺すな」は傲慢か? 専門家と考える、野生動物との「距離感」。都市部と地方で深まる溝、法的な問題点は… [記事リンク]

ユーザー名: @logic_is_god (@bengo4_com_newsを引用)
投稿日時: 2025年10月30日 14:22
投稿内容:
感情論は一旦置いといて、データで語ろうよ。鳥獣保護管理法では、人の生命に危害を及ぼす可能性がある場合、許可を得た上での駆除は認められている。一方で、生態系維持の観点から個体数の管理も必要。これは単純な善悪二元論で語れる問題じゃない。みんな少し冷静になるべき。

ユーザー名: @conspiracy_joker (@logic_is_godへの返信)
投稿日時: 2025年10月30日 15:01
投稿内容:
↑こういう冷静ぶってる奴が一番怪しい。そもそも、今年の熊被害が異常すぎると思わないか? 政府が、食糧危機を煽るために、山に何か特殊な電磁波でも流して、熊を凶暴化させてるって説もある。みんな、メディアに騙されるな。目を覚ませ。

4. 異質な「現場」からの声

ユーザー名: @hokukan_fire_dept (北関東の消防団員と思われる個人アカウント)
投稿日時: 2025年11月2日 22:40
投稿内容:
「殺すな」も「駆除しろ」も、もう、そういう次元の話じゃない気がする。
今夜、△△台団地の近くで、また出た。俺は消防団として、警察と一緒に現場に駆けつけた。スーパーに居座ったっていう、あのニュースの熊じゃない。もっと、デカいやつだ。

山に餌がないからじゃない。あいつは、腹が減ってる獣の動きじゃなかった。
何て言えばいいんだ…。目的がある動きだった。民家のゴミ捨て場を、何かを探すように、執拗に掘り返してた。生ゴミじゃない。燃えないゴミの袋を、何か…匂いを嗅ぐように、一つ一つ…。

そして、一番おかしいのは、その目だ。
俺は、親父も猟師だったから、ガキの頃から何度も熊を見てきた。威嚇する時の目、怯えている時の目、空腹の時の目。獣の目は、だいたい分かる。
でも、今夜のあいつの目は、違った。

何の感情もなかった。
ただ、真っ黒な穴が二つ空いてるみたいに、虚ろだった。
人間を恐れるでもなく、憎むでもなく、ただ、そこにいる俺たちを「障害物」としか見ていないような、そんな目だった。

あれは、俺たちが知ってる「熊」じゃない。
何かが、おかしい。この町で、俺たちの知らない、何か良くないことが、静かに起きてる。

(編纂者による注記:この消防団員による投稿は、他の感情的な論争の奔流の中に埋もれ、ほとんど注目されることはなかった。しかし、この記録は、工藤氏の調査メモに残された「熊が何かを掘り起こしていたという噂」と不気味に符合する、数少ない現場からの客観的な証言である)
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