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【第二章:天災と人災(2028年)】
第25話:資料No.024(鈴木二曹のボイスレコーダー記録②)2028年
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【資料No.024】
資料種別:デジタルボイスレコーダーの音声ファイルからの書き起こし
記録年:2028年
(以下は、元陸上自衛官・鈴木誠二曹(仮名)が残した、二度目の音声記録である。ファイル名は「280825_report.mp3」。前回の独白(資料No.021)から約二ヶ月が経過している。彼の声からは、以前のような自らを鼓舞するような響きは完全に消え失せ、疲労と、それを超えた明らかな動揺、そして、現実と幻覚の境界線が曖昧になりつつあるかのような、切迫した恐怖が感じられる)
録音開始:2028年8月25日 23:55
(録音開始。背景には、ジー…という、虫の声のような、単調な音が続いている。風はなく、蒸し暑い夜であることがうかがえる。鈴木二曹の声は、前回よりもさらに低く、ひどくかすれている。誰かに聞かれることを極度に恐れているかのように、ほとんど囁きに近い)
鈴木二曹: ……鈴木誠、二曹。……報告。……これは、報告だ。……独り言じゃない。誰か…誰かがこれを、いつか聞くことを信じて、記録する。俺は、正気だ。まだ、正気だと思いたい。
(数秒の沈黙。ゴクリと、彼が唾を飲み込む、生々しい音が記録されている)
鈴木二曹: 派遣から、三ヶ月が過ぎた。……地獄の日々は、変わらない。変わらないどころか、悪化している。夏になって、気温が上がって…現場の臭いは、もう、思い出したくもない。だが、そんなことは、もうどうでもいい。肉体的な過酷さなど、もう、何も感じない。問題は、それじゃないんだ。
(彼の呼吸が、少しだけ速くなる)
鈴木二曹: …あの、臨時埋葬地の土が、やはり、おかしい。……気のせいでは、断じてない。小隊長にも、何度か、それとなく報告した。「鈴木、疲れてるのか」「最近、お前、少し変だぞ」。そう言われて、終わりだ。誰も、本気で取り合ってくれない。だが、俺は、この目で見たんだ。何度も、何度もだ。
(声が、さらにひそやかになる)
鈴木二曹: …気のせいか? 埋めた場所の土が、少し盛り上がっているような…。前回の記録で、俺はそう言った。だが、今はもう、「ような気がする」なんていう、曖昧なレベルじゃない。確実に、動いているんだ。
鈴木二曹: 雨が降った日の翌朝が、一番ひどい。ぬかるんだ地面に、亀裂が走っていることがある。俺たちが埋めた、あの長い溝に沿って、まるで内側から、巨大なミミズでも這い上がってこようとするみたいに、土が、不自然に、持ち上げられているんだ。俺は、一度、その亀裂に、スコップの柄を突き刺してみたことがある。……ズブズブと、どこまでも入っていった。下は、空洞になっているんだ。まるで、埋めたはずの「何か」が、土の中で、縮んだり、あるいは…移動したりしているみたいに…。
(彼の歯が、カチカチと鳴る音が、微かに聞こえる)
鈴木二曹: そして、音だ。……夜中に、誰かが啜り泣くような声が聞こえる。最初は、近くの避難所から風に乗って聞こえてくる、ご遺族の方々の声だと思っていた。だが、違う。あの声は、もっと近くから、もっと…低い場所から聞こえてくる。
鈴木二曹: 先週の、月が出ていない、真っ暗な夜だった。俺は、どうしても気になって、一人で、懐中電灯だけを頼りに、あの場所へ行った。……行かなければ、よかった。
(嗚咽をこらえるような、息遣い)
鈴木二曹: …声は、確かに、地面の中から聞こえていた。…ひく、ひく、という、赤ん坊がしゃくり上げるような、か細い啜り泣きだ。それは、俺たちが埋めた、あの長い溝全体から、まるで共鳴するように、無数に響いていた。
鈴木二-曹: 俺は、恐怖でその場に凍りつきながら、懐中電灯の光を、ゆっくりと地面に向けた。……そして、見てしまったんだ。
(彼の声は、もはや囁きではなく、恐怖に引きつった喘ぎに近い)
鈴木二曹: …土の表面が、濡れていた。いや、湿っていた。まるで、誰かが流した、大量の涙みたいに…。そして、その湿った土くれの一つ一つが、月明かりもない暗闇の中で、ほんのわずかに、燐光のような、青白い光を放っていた。…まるで、無数の、小さな目が、地面の中から、俺を見上げているみたいに…。
(数秒間、彼の荒い呼吸音だけが続く)
鈴木二曹: …俺は、逃げ帰った。腰が抜けて、這うようにして、テントまで戻った。あれ以来、夜は一睡もできていない。目を閉じれば、あの青白い無数の光が、瞼の裏に浮かんでくる。
鈴木二-曹: 俺は、狂ってしまったのか。辞令書にあった通り、これは「極度の災害ストレスによる幻覚」なのか。そうであってくれと、心の底から願っている。だが、あの啜り泣きの声は、今も、このテントの外から、微かに聞こえているんだ。
鈴木二曹: …小隊長は、明日、俺を専門のメンタルヘルス担当隊員に診せると言っていた。…もう、終わりかもしれん。だが、これだけは、記録しておかなければならない。
鈴木二曹: …あの土は、生きている。
…俺たちが埋めたものは、死んではいない。
…土の中で、泣いている。そして、おそらくは…腹を、空かせている。
(録音終了)
資料種別:デジタルボイスレコーダーの音声ファイルからの書き起こし
記録年:2028年
(以下は、元陸上自衛官・鈴木誠二曹(仮名)が残した、二度目の音声記録である。ファイル名は「280825_report.mp3」。前回の独白(資料No.021)から約二ヶ月が経過している。彼の声からは、以前のような自らを鼓舞するような響きは完全に消え失せ、疲労と、それを超えた明らかな動揺、そして、現実と幻覚の境界線が曖昧になりつつあるかのような、切迫した恐怖が感じられる)
録音開始:2028年8月25日 23:55
(録音開始。背景には、ジー…という、虫の声のような、単調な音が続いている。風はなく、蒸し暑い夜であることがうかがえる。鈴木二曹の声は、前回よりもさらに低く、ひどくかすれている。誰かに聞かれることを極度に恐れているかのように、ほとんど囁きに近い)
鈴木二曹: ……鈴木誠、二曹。……報告。……これは、報告だ。……独り言じゃない。誰か…誰かがこれを、いつか聞くことを信じて、記録する。俺は、正気だ。まだ、正気だと思いたい。
(数秒の沈黙。ゴクリと、彼が唾を飲み込む、生々しい音が記録されている)
鈴木二曹: 派遣から、三ヶ月が過ぎた。……地獄の日々は、変わらない。変わらないどころか、悪化している。夏になって、気温が上がって…現場の臭いは、もう、思い出したくもない。だが、そんなことは、もうどうでもいい。肉体的な過酷さなど、もう、何も感じない。問題は、それじゃないんだ。
(彼の呼吸が、少しだけ速くなる)
鈴木二曹: …あの、臨時埋葬地の土が、やはり、おかしい。……気のせいでは、断じてない。小隊長にも、何度か、それとなく報告した。「鈴木、疲れてるのか」「最近、お前、少し変だぞ」。そう言われて、終わりだ。誰も、本気で取り合ってくれない。だが、俺は、この目で見たんだ。何度も、何度もだ。
(声が、さらにひそやかになる)
鈴木二曹: …気のせいか? 埋めた場所の土が、少し盛り上がっているような…。前回の記録で、俺はそう言った。だが、今はもう、「ような気がする」なんていう、曖昧なレベルじゃない。確実に、動いているんだ。
鈴木二曹: 雨が降った日の翌朝が、一番ひどい。ぬかるんだ地面に、亀裂が走っていることがある。俺たちが埋めた、あの長い溝に沿って、まるで内側から、巨大なミミズでも這い上がってこようとするみたいに、土が、不自然に、持ち上げられているんだ。俺は、一度、その亀裂に、スコップの柄を突き刺してみたことがある。……ズブズブと、どこまでも入っていった。下は、空洞になっているんだ。まるで、埋めたはずの「何か」が、土の中で、縮んだり、あるいは…移動したりしているみたいに…。
(彼の歯が、カチカチと鳴る音が、微かに聞こえる)
鈴木二曹: そして、音だ。……夜中に、誰かが啜り泣くような声が聞こえる。最初は、近くの避難所から風に乗って聞こえてくる、ご遺族の方々の声だと思っていた。だが、違う。あの声は、もっと近くから、もっと…低い場所から聞こえてくる。
鈴木二曹: 先週の、月が出ていない、真っ暗な夜だった。俺は、どうしても気になって、一人で、懐中電灯だけを頼りに、あの場所へ行った。……行かなければ、よかった。
(嗚咽をこらえるような、息遣い)
鈴木二曹: …声は、確かに、地面の中から聞こえていた。…ひく、ひく、という、赤ん坊がしゃくり上げるような、か細い啜り泣きだ。それは、俺たちが埋めた、あの長い溝全体から、まるで共鳴するように、無数に響いていた。
鈴木二-曹: 俺は、恐怖でその場に凍りつきながら、懐中電灯の光を、ゆっくりと地面に向けた。……そして、見てしまったんだ。
(彼の声は、もはや囁きではなく、恐怖に引きつった喘ぎに近い)
鈴木二曹: …土の表面が、濡れていた。いや、湿っていた。まるで、誰かが流した、大量の涙みたいに…。そして、その湿った土くれの一つ一つが、月明かりもない暗闇の中で、ほんのわずかに、燐光のような、青白い光を放っていた。…まるで、無数の、小さな目が、地面の中から、俺を見上げているみたいに…。
(数秒間、彼の荒い呼吸音だけが続く)
鈴木二曹: …俺は、逃げ帰った。腰が抜けて、這うようにして、テントまで戻った。あれ以来、夜は一睡もできていない。目を閉じれば、あの青白い無数の光が、瞼の裏に浮かんでくる。
鈴木二-曹: 俺は、狂ってしまったのか。辞令書にあった通り、これは「極度の災害ストレスによる幻覚」なのか。そうであってくれと、心の底から願っている。だが、あの啜り泣きの声は、今も、このテントの外から、微かに聞こえているんだ。
鈴木二曹: …小隊長は、明日、俺を専門のメンタルヘルス担当隊員に診せると言っていた。…もう、終わりかもしれん。だが、これだけは、記録しておかなければならない。
鈴木二曹: …あの土は、生きている。
…俺たちが埋めたものは、死んではいない。
…土の中で、泣いている。そして、おそらくは…腹を、空かせている。
(録音終了)
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