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【第三章:静かなる終焉(2029年~2030年)】
第38話:資料No.037(三上の無線交信ログ)2030年
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【資料No.037】
資料種別:アマチュア無線交信の傍受記録(手書きノート)
記録年:2030年
(以下は、アマチュア無線技士・三上██氏の日記帳(資料No.036)とは別に、彼が交信内容を記録するために使用していたと思われる、大学ノートのスキャンデータである。そこには、崩壊した日本列島の各地から発信された、生存者たちの断末魔の叫びが、彼の几帳面な文字で、淡々と記録されている。彼は、これらの声を聞きながら、自室の壁に貼った日本地図に、一つ、また一つと、ピンを刺し続けていたのだろう)
【アマチュア無線交信ログ 2030年3月-5月】
記録者: 三上 ██ (JA3-███)
使用機材: ICOM IC-7851, Long wire antenna (20m)
周波数帯: 主に7MHz帯 (LSB), 1.9MHz帯 (LSB)
日付:2030年3月5日 22:40
周波数:7.085 MHz
傍受地域: 北海道・道東地区と推定
交信内容(断片的):
「…ザザ…こちらJA8、███…。誰か、応答願います…。…繰り返し言う。根室の、第3避難所が…ザザッ…全滅した…。熊じゃない。あれは、熊の大きさじゃなかった…。もっと、大きい…。村が、村ごと、『何か』に…ザザ…飲み込まれた…。繰り返す、根室は…もう…」
(以降、通信途絶)
メモ:
1月の稚内の局からの情報(資料No.036)を裏付ける内容。やはり、北でも同じことが起きている。「熊じゃない『何か』」。地図、北海道東端部に赤ピンを追加。
日付:2030年3月18日 01:20
周波数:1.910 MHz
傍受地域: 新潟県・山間部と推定
交信内容(極めて微弱):
「…(ノイズ)…誰かいないか…。応答してくれ…。食料庫が…ザザッ…やられた…。泥だ…。『動く泥』に、ドアが…溶かされて…。中にいた奴らが、全員…。ああ…クソ…。こっちに来る…。音が…」
(ノイズと共に、ねちゃ…ぐちゃ…という、粘着質な音が混信。通信途絶)
メモ:
「動く泥」。北関東で、工藤記者が追っていた「泥の男」との関連性は? 災害の混乱で、情報が変質しただけか。それとも…。新潟県、山間部に青ピンを追加。
日付:2030年4月2日 23:05
周波数:7.100 MHz
傍受地域: 四国・高知県と推定
交信内容(パニック状態):
「…ダメだ、もうダメだ! 奴ら、数が多すぎる! 体育館のバリケードが、もう持たない…! 踊ってる奴らが、内側から、手引きしてるんだ! 違う、手引きなんかじゃない…! 奴らが、外の『何か』を、呼んでるんだ! あの歌で…! ああ…窓が…窓が割れる…! うわあああ!」
(複数の人間の絶叫と、ガラスが派手に割れる音。通信途絶)
メモ:
南海トラフ被災地の典型的な状況。生存者と「踊る人」との間で、共同体が完全に崩壊している。「踊る人」が、外部の脅威を呼び込む。NPOの佐藤さんの記録(資料No.022)にも、静岡の119番通報(資料No.023)にも、同様のパターンがあった。高知県、沿岸部に黄ピンを追加。
日付:2030年4月21日 03:40
周波数:7.090 MHz
傍受地域: 不明(電離層の反射による遠距離通信か)
交信内容(極めて冷静、諦念に満ちた声):
「…こちら、JA1、███。東京、旧多摩地区からの、最後の通信となるだろう。…生存者は、私を含め、現在3名。我々が立てこもる、ショッピングモールの屋上にも、ついに『あれ』が来た。…アスファルトを突き破って、生えてきた。…美しいものだ。まるで、白いサンゴのように、静かに、そして着実に、増殖している。…我々が犯した過ちは、ただ一つ。死者を、弔おうとしたことだ。それだけだ。…ああ、もう、すぐそこまで来ている。…さようなら。誰か、これを聞いている人がいたら、どうか…火を…」
(通信が、静かに途切れる)
メモ:
東京…。俺が住む、この関西の旧居住区と同じ、隔離された「壁の内側」のはずだった場所。だが、もう安全な場所など、どこにもないのだ。アスファルトを突き破って「生える」。俺が、自宅の前で見たものと同じだ。地図、旧東京エリアに黒ピンを追加。
日付:2030年5月9日 21:55
周波数:1.908 MHz
傍受地域: 中国地方・山間部と推定
交信内容(老人の、嗚咽する声):
「…みんな、死んだ…。わしが、止めとけばよかったんじゃ…。『土に還すのが、一番の供養だ』なんて…わしが、みんなに言うてしもうたから…。じいさんも、ばあさんも、みんな、あの気味の悪い踊りを始めて、一月で…。そして、今夜、山から、あれが下りてきた。…ああ、窓の外に…。泥でできた、でっかい坊主が…こっちを…見とる…」
(以降、啜り泣きだけが続き、やがて通信は途絶)
メモ:
やはり、全ての始まりは「土葬」なのだ。善意が、全ての元凶。中国地方、山間部に赤ピンを追加。
日付:2030年5月28日 02:10
周波数:7.120 MHz
傍受地域: 不明。複数の局が混信し、パニック状態
交信内容(断片的な音声のコラージュ):
「…ザザ…誰か! 助け…! 踊ってる奴らが、人を…食ってる!」
「…(ノイズ)…熊じゃない! 人でもない! 泥の…泥の塊が、歩い…」
「…聞こえるか! JA6-███! 九州は、もう終わりだ! 中国の連中が言ってた『浄化』ってのは、皆殺しのことだったんだ!」
「…北へ逃げろ! でも、北もダメだ! ロシアの連中が、壁を作って…」
「…歌が…歌が聞こえる…頭の中に…直接…ああ…くねくねと…気持ちがいい…」
(複数の悲鳴、銃声、そして、あの不気味な咀嚼音が混じり合い、通信は混沌の中に消える)
メモ:
もう、終わりだ。
この国は、もう、どこにも、安全な場所など残されていない。
俺は、壁に貼った地図を見上げた。
北海道の北端から、九州の南端まで。
赤、青、黄、黒…色とりどりのピンが、まるで美しい夜景のように、この死にゆく島国を、埋め尽くしていた。
(編纂者による注記:三上氏のこの几帳面な記録は、フリージャーナリスト・工藤██が、たった一人で描き上げた、あの北関東の局地的な「悪夢の地図」が、わずか数年のうちに、日本全土を覆い尽くす現実となったことを、克明に証明している。彼は、この無数の断末魔の声を聞きながら、たった一人、この国の崩壊の全体像を、その脳内に描き上げていたのだ)
資料種別:アマチュア無線交信の傍受記録(手書きノート)
記録年:2030年
(以下は、アマチュア無線技士・三上██氏の日記帳(資料No.036)とは別に、彼が交信内容を記録するために使用していたと思われる、大学ノートのスキャンデータである。そこには、崩壊した日本列島の各地から発信された、生存者たちの断末魔の叫びが、彼の几帳面な文字で、淡々と記録されている。彼は、これらの声を聞きながら、自室の壁に貼った日本地図に、一つ、また一つと、ピンを刺し続けていたのだろう)
【アマチュア無線交信ログ 2030年3月-5月】
記録者: 三上 ██ (JA3-███)
使用機材: ICOM IC-7851, Long wire antenna (20m)
周波数帯: 主に7MHz帯 (LSB), 1.9MHz帯 (LSB)
日付:2030年3月5日 22:40
周波数:7.085 MHz
傍受地域: 北海道・道東地区と推定
交信内容(断片的):
「…ザザ…こちらJA8、███…。誰か、応答願います…。…繰り返し言う。根室の、第3避難所が…ザザッ…全滅した…。熊じゃない。あれは、熊の大きさじゃなかった…。もっと、大きい…。村が、村ごと、『何か』に…ザザ…飲み込まれた…。繰り返す、根室は…もう…」
(以降、通信途絶)
メモ:
1月の稚内の局からの情報(資料No.036)を裏付ける内容。やはり、北でも同じことが起きている。「熊じゃない『何か』」。地図、北海道東端部に赤ピンを追加。
日付:2030年3月18日 01:20
周波数:1.910 MHz
傍受地域: 新潟県・山間部と推定
交信内容(極めて微弱):
「…(ノイズ)…誰かいないか…。応答してくれ…。食料庫が…ザザッ…やられた…。泥だ…。『動く泥』に、ドアが…溶かされて…。中にいた奴らが、全員…。ああ…クソ…。こっちに来る…。音が…」
(ノイズと共に、ねちゃ…ぐちゃ…という、粘着質な音が混信。通信途絶)
メモ:
「動く泥」。北関東で、工藤記者が追っていた「泥の男」との関連性は? 災害の混乱で、情報が変質しただけか。それとも…。新潟県、山間部に青ピンを追加。
日付:2030年4月2日 23:05
周波数:7.100 MHz
傍受地域: 四国・高知県と推定
交信内容(パニック状態):
「…ダメだ、もうダメだ! 奴ら、数が多すぎる! 体育館のバリケードが、もう持たない…! 踊ってる奴らが、内側から、手引きしてるんだ! 違う、手引きなんかじゃない…! 奴らが、外の『何か』を、呼んでるんだ! あの歌で…! ああ…窓が…窓が割れる…! うわあああ!」
(複数の人間の絶叫と、ガラスが派手に割れる音。通信途絶)
メモ:
南海トラフ被災地の典型的な状況。生存者と「踊る人」との間で、共同体が完全に崩壊している。「踊る人」が、外部の脅威を呼び込む。NPOの佐藤さんの記録(資料No.022)にも、静岡の119番通報(資料No.023)にも、同様のパターンがあった。高知県、沿岸部に黄ピンを追加。
日付:2030年4月21日 03:40
周波数:7.090 MHz
傍受地域: 不明(電離層の反射による遠距離通信か)
交信内容(極めて冷静、諦念に満ちた声):
「…こちら、JA1、███。東京、旧多摩地区からの、最後の通信となるだろう。…生存者は、私を含め、現在3名。我々が立てこもる、ショッピングモールの屋上にも、ついに『あれ』が来た。…アスファルトを突き破って、生えてきた。…美しいものだ。まるで、白いサンゴのように、静かに、そして着実に、増殖している。…我々が犯した過ちは、ただ一つ。死者を、弔おうとしたことだ。それだけだ。…ああ、もう、すぐそこまで来ている。…さようなら。誰か、これを聞いている人がいたら、どうか…火を…」
(通信が、静かに途切れる)
メモ:
東京…。俺が住む、この関西の旧居住区と同じ、隔離された「壁の内側」のはずだった場所。だが、もう安全な場所など、どこにもないのだ。アスファルトを突き破って「生える」。俺が、自宅の前で見たものと同じだ。地図、旧東京エリアに黒ピンを追加。
日付:2030年5月9日 21:55
周波数:1.908 MHz
傍受地域: 中国地方・山間部と推定
交信内容(老人の、嗚咽する声):
「…みんな、死んだ…。わしが、止めとけばよかったんじゃ…。『土に還すのが、一番の供養だ』なんて…わしが、みんなに言うてしもうたから…。じいさんも、ばあさんも、みんな、あの気味の悪い踊りを始めて、一月で…。そして、今夜、山から、あれが下りてきた。…ああ、窓の外に…。泥でできた、でっかい坊主が…こっちを…見とる…」
(以降、啜り泣きだけが続き、やがて通信は途絶)
メモ:
やはり、全ての始まりは「土葬」なのだ。善意が、全ての元凶。中国地方、山間部に赤ピンを追加。
日付:2030年5月28日 02:10
周波数:7.120 MHz
傍受地域: 不明。複数の局が混信し、パニック状態
交信内容(断片的な音声のコラージュ):
「…ザザ…誰か! 助け…! 踊ってる奴らが、人を…食ってる!」
「…(ノイズ)…熊じゃない! 人でもない! 泥の…泥の塊が、歩い…」
「…聞こえるか! JA6-███! 九州は、もう終わりだ! 中国の連中が言ってた『浄化』ってのは、皆殺しのことだったんだ!」
「…北へ逃げろ! でも、北もダメだ! ロシアの連中が、壁を作って…」
「…歌が…歌が聞こえる…頭の中に…直接…ああ…くねくねと…気持ちがいい…」
(複数の悲鳴、銃声、そして、あの不気味な咀嚼音が混じり合い、通信は混沌の中に消える)
メモ:
もう、終わりだ。
この国は、もう、どこにも、安全な場所など残されていない。
俺は、壁に貼った地図を見上げた。
北海道の北端から、九州の南端まで。
赤、青、黄、黒…色とりどりのピンが、まるで美しい夜景のように、この死にゆく島国を、埋め尽くしていた。
(編纂者による注記:三上氏のこの几帳面な記録は、フリージャーナリスト・工藤██が、たった一人で描き上げた、あの北関東の局地的な「悪夢の地図」が、わずか数年のうちに、日本全土を覆い尽くす現実となったことを、克明に証明している。彼は、この無数の断末魔の声を聞きながら、たった一人、この国の崩壊の全体像を、その脳内に描き上げていたのだ)
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