盗賊に誘拐されました。

曼珠沙華

文字の大きさ
上 下
6 / 12

5

しおりを挟む
それから毎日のように彼女は来てくれた。

いつもは隣にアゲハがいるのだが、今日は用があると言って出て行った。

初めて彼女と二人きりだった。

まぁ、それでも彼女と意思疎通を図る術なんてないんだけれど。

そう思っていたら、彼女が私の手に触れてきた。

そして私の手の平に指で何かを書き始めた。


「ハー……ツ?」


驚いた。

「あなた文字が書けるの!?」

彼女はにっこりと笑って頷いた。

失礼なことだが、彼女は文字が書けないと思っていた。
これなら意思疎通できる。

「今のは?」

また手の平に文字を書く。

な……ま……え

「名前!ハーツっていうのね!」

こくりと頷いた。

嬉しい。
アゲハ以外の人と言葉を交わすのは久しぶりだった。


か……わ……い……そ……う


可哀想。

「私のこと?そうね、そう思われても仕方ないわ」

ハーツが悲しげな表情を見せた。
そんな表情すらも彼女は美しかった。

「でも大丈夫よ!もちろん帰りたいけど、何不自由なく過ごせてるわ」

無理に笑って見せる。
だが、そんなことで彼女は納得してくれなかったようで、


に……げ……よ……う


「え!ど、どうやって?」


た……す……け……が……き……て……る


「助けが来てる?もしかしてお父様たちが!?」

ハーツは思いっきり頷いた。

あぁ、なんてこと。
ハーツは私のためにお父様たちにここの場所を伝えてくれたのだ。

「ありがとう、ハーツ!」

思わず両手で彼女の手を握りしめた。
だが彼女は嫌がる様子もなく、むしろ頬を染め、照れたようにはにかんだ。


あ……し……た……の……よ……る……け……っ……こ……う


明日の夜決行。


どくりと心臓が震えた。

ハーツに詳しい計画を説明してもらう。
ハーツの話によればアゲハは明日も留守にするらしい。
だが、あさっては分からない。
だから明日決行するしかない。

「わ、分かったわ。明日の夜ね」

ハーツは最後にまた手の平に文字を書いた。


『リン、頑張って』と。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21,918pt お気に入り:1,372

百鬼夜荘 妖怪たちの住むところ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:852pt お気に入り:16

運命の番(同性)と婚約者がバチバチにやりあっています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,270pt お気に入り:29

月曜日の地縛霊

MaY
BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

役目を終えて現代に戻ってきた聖女の同窓会

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,750pt お気に入り:77

処理中です...