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価値2 【ローズ】
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画面の中で腕を組み、高圧的な態度を取る悪役令嬢。
いつだって自分が正しいと思い、他人を見下す。
人の幸せが許せず、その醜い心にあるのは己の利権のみ。
ヒロインと攻略対象たちの恋路を邪魔する悪役令嬢が目障りで仕方なかった。
だから、国外追放もしくは牢獄行きという結末を迎える時ざまあみろと思った。
今までイライラモヤモヤしていた分、すっきりした。
悪役が退場した物語は幸せなシナリオへと突入する。
ハッピーエンドで締めくくられるのだ。
そう、悪役さえいなければ……。
目が覚めると陽の光に照らされた見慣れた部屋にいた。
起き上がろうとするが、体が痛い。
馬車を飛び出したところまでは覚えている。
あれからどうなった?
見たところ手や腕に擦り傷がある程度。
そうだ、ライリーは?
アレックスは?
もし二人のどちらかが……いや、二人とも命を落としていたら……。
すぐにベッドから下りようとした時、扉がノックされた。
「……どうぞ」
勢いよく扉が開き、入ってきたお母様に強く抱きしめられた。
「あぁ、よかったわ!ローズ!目が覚めたのね!どれだけ心配したか!」
「ごめんなさい、お母様」
その後ろにはお父様もいて、心底安心した表情をしていた。
あの時と同じだ。
雷で意識を失ったあの時と。
「本当に、ごめんなさい」
心配ばかりかけさせて。
でも今はそれよりも……。
「お母様、あの……ライリーたちは……」
するとお母様の表情が曇った。
その表情に絶望する。
え?
シナリオを変えられなかった?
救えなかった?
「お母様、まさか……」
「違うの。私は止めたのよ。きっとあなたが優しすぎるからって」
??
「どういう意味……」
すると再び部屋の扉が開いた。
そこにライリーとアレックスが立っていた。
「よかった!二人とも生きて……」
「ローズ様ご説明願えますか?」
「え?」
アレックスが問う。
二人ともすごい剣幕だった。
「どうしてあの時馬車から飛び出したのですか?もう少しであなたは命を落とすところだったのですよ!」
あぁー……。
お母様は焦った様子で間に入ろうとしてくれた。
「責めないであげて。この子はね、あなたたちを……」
「守りたかったの」
お母様の言葉を遮り、理由を告げる。
「あなたたちを守りたかった。それだけよ」
「それだけって……それで死んでたらどうするんだ!」
ライリーが叫ぶ。
「でも、みんな生きてるわ」
にっと笑って、ごまかしてみる。
ライリーは一瞬驚いた顔をしたものの、さらに眉間の皺が深くなった。
「あんた頭おかしいぜ……」
「ライリー、言葉が過ぎるぞ」
「けどっ……」
アレックスがライリーを制する。
「ローズ様、これからはこのような無茶はされませんように」
「努力するわ」
「それから……」
ふっとアレックスの表情が緩む。
「ありがとうございました」
「え……」
「あの時敵が強く、情けない話ですが私は正直勝てそうにありませんでした。それこそ命を落としていたかもしれない。あなたを守るためにせめて相討ちをと思ったのですが、守るべきはずのあなたが敵の隙を作ってくれたおかげで私は命を救われました」
アレックスは跪き、ローズの手を取り、キスをした。
「まだあのような無茶をされたことに怒りはあります。ですがそれ以上に、救われたこの命をあなたに捧げたいと思いました。どうかこのままあなたの護衛でいさせてください」
驚いた。
てっきりもうやってられないと言われると思っていたのに。
「もちろんよ。でも……」
「でも?」
「命はいらないわ。私には重すぎる」
「重い?」
「あなたたちは道具じゃないもの」
アレックスとライリーの目が見開く。
「いえ、我々は……」
「ライリー、傍に来て」
ライリーを手招きして呼ぶ。
ライリーは困惑したまま、ローズの傍へ来た。
「手を貸して」
触れたままのアレックスの手。
そしてもう片方でライリーの手を取る。
自分よりも温かな体温がなんだかおかしくて笑った。
「ほら、とても温かい。私よりも。こんなに温かいのに道具だなんて笑っちゃうわ」
ライリーの瞳が揺らいだ。
「俺たちが、道具じゃない?」
「えぇ。尊い命を持った人間よ」
「あんたやっぱり頭……いや、なんでもありません。ローズ様」
ライリーは手を離し、踵を返して立ち去ろうとした。
「ライリー」
「はい」
「様も敬語もいらないわ。あなたらしくない。無理しているでしょう?」
またライリーの目が見開く。
「アレックスも敬語じゃなくて大丈夫よ」
「いえ、私はこのままで」
にこりと笑うアレックスはイケメンだ。
攻略対象でもおかしくないくらいに。
本当に生きててよかった。
「なぁ」
視線を泳がせ、頭を掻くライリー。
「道具でないとするなら、私は……俺は、あんたの何になれる?」
その言葉に今度はこちらが驚いた。
でもすぐに笑ってみせる。
「そうね。友人なんてどうかしら?」
将来ライリーはヒロインに自分は道具ではないことを教えられる。
そして恋に落ちるのだ。
けれどそれはまだ何年も先の話。
それまでライリーは自分を道具だと思い込んで生きていくことになる。
少しでも伝えられただろうか?
彼もまた尊い人間だと。
素晴らしい価値を持った人間だと。
少しでも伝えられていますようにと切に願った。
いつだって自分が正しいと思い、他人を見下す。
人の幸せが許せず、その醜い心にあるのは己の利権のみ。
ヒロインと攻略対象たちの恋路を邪魔する悪役令嬢が目障りで仕方なかった。
だから、国外追放もしくは牢獄行きという結末を迎える時ざまあみろと思った。
今までイライラモヤモヤしていた分、すっきりした。
悪役が退場した物語は幸せなシナリオへと突入する。
ハッピーエンドで締めくくられるのだ。
そう、悪役さえいなければ……。
目が覚めると陽の光に照らされた見慣れた部屋にいた。
起き上がろうとするが、体が痛い。
馬車を飛び出したところまでは覚えている。
あれからどうなった?
見たところ手や腕に擦り傷がある程度。
そうだ、ライリーは?
アレックスは?
もし二人のどちらかが……いや、二人とも命を落としていたら……。
すぐにベッドから下りようとした時、扉がノックされた。
「……どうぞ」
勢いよく扉が開き、入ってきたお母様に強く抱きしめられた。
「あぁ、よかったわ!ローズ!目が覚めたのね!どれだけ心配したか!」
「ごめんなさい、お母様」
その後ろにはお父様もいて、心底安心した表情をしていた。
あの時と同じだ。
雷で意識を失ったあの時と。
「本当に、ごめんなさい」
心配ばかりかけさせて。
でも今はそれよりも……。
「お母様、あの……ライリーたちは……」
するとお母様の表情が曇った。
その表情に絶望する。
え?
シナリオを変えられなかった?
救えなかった?
「お母様、まさか……」
「違うの。私は止めたのよ。きっとあなたが優しすぎるからって」
??
「どういう意味……」
すると再び部屋の扉が開いた。
そこにライリーとアレックスが立っていた。
「よかった!二人とも生きて……」
「ローズ様ご説明願えますか?」
「え?」
アレックスが問う。
二人ともすごい剣幕だった。
「どうしてあの時馬車から飛び出したのですか?もう少しであなたは命を落とすところだったのですよ!」
あぁー……。
お母様は焦った様子で間に入ろうとしてくれた。
「責めないであげて。この子はね、あなたたちを……」
「守りたかったの」
お母様の言葉を遮り、理由を告げる。
「あなたたちを守りたかった。それだけよ」
「それだけって……それで死んでたらどうするんだ!」
ライリーが叫ぶ。
「でも、みんな生きてるわ」
にっと笑って、ごまかしてみる。
ライリーは一瞬驚いた顔をしたものの、さらに眉間の皺が深くなった。
「あんた頭おかしいぜ……」
「ライリー、言葉が過ぎるぞ」
「けどっ……」
アレックスがライリーを制する。
「ローズ様、これからはこのような無茶はされませんように」
「努力するわ」
「それから……」
ふっとアレックスの表情が緩む。
「ありがとうございました」
「え……」
「あの時敵が強く、情けない話ですが私は正直勝てそうにありませんでした。それこそ命を落としていたかもしれない。あなたを守るためにせめて相討ちをと思ったのですが、守るべきはずのあなたが敵の隙を作ってくれたおかげで私は命を救われました」
アレックスは跪き、ローズの手を取り、キスをした。
「まだあのような無茶をされたことに怒りはあります。ですがそれ以上に、救われたこの命をあなたに捧げたいと思いました。どうかこのままあなたの護衛でいさせてください」
驚いた。
てっきりもうやってられないと言われると思っていたのに。
「もちろんよ。でも……」
「でも?」
「命はいらないわ。私には重すぎる」
「重い?」
「あなたたちは道具じゃないもの」
アレックスとライリーの目が見開く。
「いえ、我々は……」
「ライリー、傍に来て」
ライリーを手招きして呼ぶ。
ライリーは困惑したまま、ローズの傍へ来た。
「手を貸して」
触れたままのアレックスの手。
そしてもう片方でライリーの手を取る。
自分よりも温かな体温がなんだかおかしくて笑った。
「ほら、とても温かい。私よりも。こんなに温かいのに道具だなんて笑っちゃうわ」
ライリーの瞳が揺らいだ。
「俺たちが、道具じゃない?」
「えぇ。尊い命を持った人間よ」
「あんたやっぱり頭……いや、なんでもありません。ローズ様」
ライリーは手を離し、踵を返して立ち去ろうとした。
「ライリー」
「はい」
「様も敬語もいらないわ。あなたらしくない。無理しているでしょう?」
またライリーの目が見開く。
「アレックスも敬語じゃなくて大丈夫よ」
「いえ、私はこのままで」
にこりと笑うアレックスはイケメンだ。
攻略対象でもおかしくないくらいに。
本当に生きててよかった。
「なぁ」
視線を泳がせ、頭を掻くライリー。
「道具でないとするなら、私は……俺は、あんたの何になれる?」
その言葉に今度はこちらが驚いた。
でもすぐに笑ってみせる。
「そうね。友人なんてどうかしら?」
将来ライリーはヒロインに自分は道具ではないことを教えられる。
そして恋に落ちるのだ。
けれどそれはまだ何年も先の話。
それまでライリーは自分を道具だと思い込んで生きていくことになる。
少しでも伝えられただろうか?
彼もまた尊い人間だと。
素晴らしい価値を持った人間だと。
少しでも伝えられていますようにと切に願った。
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