実の父に隣国へ死にに行けと言われた王女は、隣国の王に溺愛される。

曼珠沙華

文字の大きさ
4 / 41

3

しおりを挟む
「隣のサファイア国を知っているか?」

サファイア国。
隣の大国だ。
昔、母に聞かされたことがある。

「竜が住まう国」

「そうだ。おぞましい魔の国だ」

魔の国?

ちがう、母から聞かされたのは。


「オリビア。隣のサファイア国にはね、とても優しい竜が住んでいるのよ」


優しい竜がいる国だって……。


「聞いておるのか!オリビア!」


大きな声にびくりと体が震えた。

「は、はい……」

父は派手に舌打ちした。

「その国に我々は正義の鉄槌を下そうとしたのだ。正義の戦いだ。だが悔しいことに、あと一歩のところで叶わず敗れた」

正義の戦い?
サファイア国はなにか悪いことをしたの?

聞きたくとも父の眼光が問うことを許さなかった。

「敗れた我々に傲慢なサファイア国は非情な要求をしてきた」

父は間を空け、じっとオリビアを見た。

「娘を嫁によこせと言ってきたのだ」


エメラルド国の王女を、サファイア国の嫁に。


「私にはお前の他にもう一人娘がいる。分かっているな?」


知っている。
王妃の娘だ。
母が私を生むより先に生まれた、私の腹違いの姉。


「アリスはこの世の誰よりも美しく育った自慢の娘だ」

「お前と違ってな」と聞こえたような気がした。

「奴らそれを知っていたのだろう。美しいアリスに目をつけるのも当然のことだが、あのおぞましい国へ嫁がせるわけにはいかん」

嘆かわしいと、父は顔を覆う。
だが、すぐに残虐な笑みに変わった。

「そこでだ、私は思い出したのだ。あぁ、もう一人私の娘がいるではないか、と」

身代わり。
生贄。

私にしか頼めないこと。

そういうことか。

魔の国って言われているから「死にに行け」ってことなのかな。

悲しいことに変わりはないが、希望が見えた。
それなら生きる選択もまだ残されている。

母の言葉を守れる。

「お前はアリスの代わりに魔の国へ嫁ぎ、そこで自害しろ」

「……え」


自害?


どうして、何故。
そんな言葉しか浮かばない。


「戦争に負けたこの国はサファイア国に従属するしかない。魔の国に、だ。我々が正義であるはずなのに、そんなこと許されるはずがない。サファイア国と対等になるためには、お前がサファイア国での非道な仕打ちを嘆き、自害するしかないのだ」

言葉が出なかった。
父は続ける。

「愛する娘を失った私はサファイア国に非を唱えることができる。対等ではなく、むしろ優位に立つことができるかもしれん」


愛する娘?

涙がこぼれた。

生涯私を愛してくれた人は二人だけだ。

おじいちゃん……お母さん……。

会いたい。

この国のために死ねば、お母さんも許してくれるかな。


「くれぐれも魔の国で生き長らえようとするでないぞ。よいな?」


この国のために。

父と王妃はともかく、亡くなった祖父と母は深く愛してくれた。

二人がいたこの国を守れるのなら。
そして、二人の元へ逝けるのなら。


オリビアは、大きく頷いた。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます

由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。 だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。 そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。 二度目の人生。 沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。 ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。 「今世は静かに生きられればそれでいい」 そう思っていたのに―― 奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。 さらにある日。 皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。 「沈薬は俺の妃だった」 だが沈薬は微笑んで言う。 「殿下、私は静王妃です」 今の関係は―― 皇叔母様。 前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。 それを静かに守る静王。 宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

処理中です...