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第1章 虚像の輝きと冷たい光
人魚らしくない人魚(side・魔女)
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姫が出て行った後、魔女は目を閉じ、
出会った日を思い浮かべた。
それは色褪せることのない記憶。
あの日、姫は傷だらけで流されてきた。
普段は国から出ない人魚が傷だらけで流されてくるのは、珍しいを通り越しておかしい。
しかし、閉鎖された国でのことなんかわかるはずがない。
あたしはこの人魚をどうするか考えた。
あたしのところには傷を負った魚が多く訪ねてくるが、人魚が訪ねてきたことはない。
それは、美醜にこだわる人魚がお化けのようにしわくちゃなあたしの元に来ないからだろう。
あたしだって高飛車で高慢ちきな人魚なんか大嫌いだ。
だけど、流れてきた人魚を見るといてもたってもいられなくなり、気づけば助けていた。
ベッドに横たえ、傷の治療をする。
消毒している時も、薬がしみて痛いはずなのに目を覚まさないどころかうめき声すらあげない。
どんな生活をおくったらこんな子ができるのか…。少なくとも、ロクでもない環境だったことはわかった。
治療を終えて人魚の顔を覗き込む。
まだ起きそうにない。
(あたしみたいな醜いものがいたら怒鳴り散らされるかねぇ)
だけど、目の前にいるのは患者。怒鳴り散らせるだけの力があるなら元気ということだ。
それでいいじゃないか。
心の中で割り切るとあたしは目の前の患者のために食事を作りに行った。
食事を作りながら患者の人魚を思い浮かべる。
綺麗な白銀の髪は闇の中でも輝き、肌も真っ白で滑らかだった。
しかし、その白い肌には多くの傷跡があり…いっそ白いからこそ目立っていた。
そして、体は折れそうなほど細い…というより、細すぎるほどで、治療しているときに見たがアバラが浮いていた。
(あの国では何があったんだか…)
あの様子では固形物は食べられない。
スープだけ作って持っていくと、人魚は起きて辺りをキョロキョロ見回していた。
「起きたのかい?体調はどうだい?」
声をかければビクリと肩を震わせておそるおそるといったようにこちらを見た。
その瞳は翡翠のようで場違いにも綺麗だと思った。
「あ、あの…あなたが助けてくれたのでしょうか…?」
予想と違って怒鳴り散らすことのない人魚。
それどころか丁寧な言葉を使いこちらに話しかけてきた。
「あ…あぁ。傷を負ってたから治療はしたよ。怪我の具合はどうだい?」
「えっと…あんまり痛くないです。あの、助けてくださり、ありがとうございます」
彼女は頭を下げてお礼を言ってくれた。
当たり前のことかもしれないが、ほかの人魚ではこうはいかない。
彼女は人魚にしてはまともだった。
そして、人魚らしくない人魚だった。
軽い衝撃を受けながら持ってきたスープを人魚に渡す。
「とりあえず、それでもおあがり。あんたは痩せすぎだよ。それはスープだから飲みやすいはずだ」
彼女はスープを受け取ると一口飲んだ。
そして、なぜかボロボロ涙を流し始めた。
慌てたのはこちらだ。何があったのかわからない。
ただ涙を流し無言で泣いている。
(傷が痛む?スープが嫌い?本当は食べたくなかった?あとは…)
「…………しい」
少しから回った思考に滑り込むように、かすかな声が鼓膜を揺らした。
「おいしい…」
流れる涙は止まらないが口もとに浮かんでいるのはかすかな笑み。
そして、一口ずつ味わうようにスープを飲む人魚。
その時、あたしは彼女の事情はわかっていなかったけど…彼女なら優しくしてもいいと思った。
それが最初の姫との出会い。
人魚らしくない姫との交流は患者と看護者ではじまった。
出会った日を思い浮かべた。
それは色褪せることのない記憶。
あの日、姫は傷だらけで流されてきた。
普段は国から出ない人魚が傷だらけで流されてくるのは、珍しいを通り越しておかしい。
しかし、閉鎖された国でのことなんかわかるはずがない。
あたしはこの人魚をどうするか考えた。
あたしのところには傷を負った魚が多く訪ねてくるが、人魚が訪ねてきたことはない。
それは、美醜にこだわる人魚がお化けのようにしわくちゃなあたしの元に来ないからだろう。
あたしだって高飛車で高慢ちきな人魚なんか大嫌いだ。
だけど、流れてきた人魚を見るといてもたってもいられなくなり、気づけば助けていた。
ベッドに横たえ、傷の治療をする。
消毒している時も、薬がしみて痛いはずなのに目を覚まさないどころかうめき声すらあげない。
どんな生活をおくったらこんな子ができるのか…。少なくとも、ロクでもない環境だったことはわかった。
治療を終えて人魚の顔を覗き込む。
まだ起きそうにない。
(あたしみたいな醜いものがいたら怒鳴り散らされるかねぇ)
だけど、目の前にいるのは患者。怒鳴り散らせるだけの力があるなら元気ということだ。
それでいいじゃないか。
心の中で割り切るとあたしは目の前の患者のために食事を作りに行った。
食事を作りながら患者の人魚を思い浮かべる。
綺麗な白銀の髪は闇の中でも輝き、肌も真っ白で滑らかだった。
しかし、その白い肌には多くの傷跡があり…いっそ白いからこそ目立っていた。
そして、体は折れそうなほど細い…というより、細すぎるほどで、治療しているときに見たがアバラが浮いていた。
(あの国では何があったんだか…)
あの様子では固形物は食べられない。
スープだけ作って持っていくと、人魚は起きて辺りをキョロキョロ見回していた。
「起きたのかい?体調はどうだい?」
声をかければビクリと肩を震わせておそるおそるといったようにこちらを見た。
その瞳は翡翠のようで場違いにも綺麗だと思った。
「あ、あの…あなたが助けてくれたのでしょうか…?」
予想と違って怒鳴り散らすことのない人魚。
それどころか丁寧な言葉を使いこちらに話しかけてきた。
「あ…あぁ。傷を負ってたから治療はしたよ。怪我の具合はどうだい?」
「えっと…あんまり痛くないです。あの、助けてくださり、ありがとうございます」
彼女は頭を下げてお礼を言ってくれた。
当たり前のことかもしれないが、ほかの人魚ではこうはいかない。
彼女は人魚にしてはまともだった。
そして、人魚らしくない人魚だった。
軽い衝撃を受けながら持ってきたスープを人魚に渡す。
「とりあえず、それでもおあがり。あんたは痩せすぎだよ。それはスープだから飲みやすいはずだ」
彼女はスープを受け取ると一口飲んだ。
そして、なぜかボロボロ涙を流し始めた。
慌てたのはこちらだ。何があったのかわからない。
ただ涙を流し無言で泣いている。
(傷が痛む?スープが嫌い?本当は食べたくなかった?あとは…)
「…………しい」
少しから回った思考に滑り込むように、かすかな声が鼓膜を揺らした。
「おいしい…」
流れる涙は止まらないが口もとに浮かんでいるのはかすかな笑み。
そして、一口ずつ味わうようにスープを飲む人魚。
その時、あたしは彼女の事情はわかっていなかったけど…彼女なら優しくしてもいいと思った。
それが最初の姫との出会い。
人魚らしくない姫との交流は患者と看護者ではじまった。
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