ロストパートナーズ

篠宮璃紅

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第2話「否定シタイ未来」

1.待ち合わせ

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“夢”と現実は違う。少なくとも僕はそう思いたい。
夢の中の僕は酷い奴。夢の中の妹は可哀想な子。
そんなのは認めない。認めたくない。認めてたまるか。
僕とあいつは違う。そうじゃないと、否定しないと……




昨日よりも遅い起床だった。少し遅めに設定された目覚まし時計によって起こされ、毎日行う儀式めいた支度を済ませリビングへと進む。

普段この家では私が一番早くに起き、次に父、最後に母と順番がほぼ決まっている。だが休日には父と変わらない時間に目を覚まし、二人で朝食を摂る。そんな日でも母は遅れてやってきて朝食の時間を一緒に過ごせないと嘆くことが多い。

父は料理をしない。私はリビングの奥にあるキッチンから漏れる包丁の音に驚いた。どうやら珍しく母が起きているようだ。料理が好きな母だが、朝キッチンに立つところに遭遇することはまずない。今日は本当に珍しい日だ。
リビングに入っていき、「おはよう」と声をかける。ソファーに座る父はこちらに振り向かず新聞紙を見つめながら返事をする。こちらはいつも通り。私はキッチンに近づいた。

すると母が私の格好を見て、朝食の支度をしている手を止めた。


「ゆ、悠ちゃん?どうしたのそんな恰好して」

「えーっと……」

「も、もしかしてお弁当!?お弁当準備する!?」

「いや、いい、いいから」

「だってあなたその恰好……今日土曜日でしょう?」


母はまだ混乱した様子だ。こちらもその反応は不思議に思わない。なぜなら私の通う花宰学園は土曜日の授業がない。平日の授業が長い分土曜は部活動を優先させている。私は部活動に勤しむような勤勉な生徒ではないから、今来ている制服も必要ない。

何故いつもより遅い時間に起きて、制服を纏っているのか。私は母にも簡単に説明した。

事の始まりは、沙姫からのメールだった。


『やっほー悠!明日時間あるかなぁ?実は今日悠を探すのに必死でクラスの子が学校を案内してくれるって言ってくれてたのを断っちゃってさぁ、その時悠に案内してもらうって言っちゃったんだよねー。明日が休みなのは知ってるけど、学校は開いてるんだよね!?だったら明日案内してもらおーって思って!返事待ってまーす!』

「…………はい?」


これでも簡単に略したほうだ。本来の文面は文と呼べる要素が少なく、顔文字、絵文字のオンパレード。他にも記号やらなにやらを多種多様使用しておりただのメールが暗号文書のようになっていた。読み終えた頃は内容が頭に入ることなくただ疲れていた。

まとめると、今日土曜の休日を使って私に学校を案内してほしいということだ。授業はないが部活動や委員の仕事をするため校舎は解放されている。案内するのに学校側の支障はない。寧ろ転校翌日の休日を潰してまで学校を知りたいという真面目にもとれる転校生の行為に驚きながらも、喜びで拍手するほどだろう。

昨日の今日だ。沙姫がやっと出会えた、ユウを知る人物である私と行動したいのもわかる。だから私は昨日のメールの返事は解読次第すぐに返事を返した。よって、今制服を着て親に驚かれているのだ。


「……ていうわけで」

「そう……新しいお友達ができてよかったわね。そうだ!悠ちゃんやっぱりお弁当持っていきなさい、お母さん久しぶりに作るから」

「な、何でよ」

「新しいお友達と一緒に食べるためよぉ。まだ時間あるんでしょ」


私が返事をするよりも前に、母は材料を取り出し朝食と並行して弁当の準備をしだした。


「よかったじゃないか悠。母さんも久しぶりに悠の弁当を作るんだ、きっと嬉しいんだよ」


後ろから父がそう言って母の後ろ姿を眺めている。

そういえば、母に朝食と弁当を用意してもらうなんて何年ぶりだろう。


母が用意してくれた弁当はかさばったが、集合場所の校門前に到着した。時間は指定されたものの5分前。余裕は十分にある。

しかし問題は沙姫のほうだった。昨日の登校風景は知らないが、帰りに道が分からず迷子になって泣きついてきたのは知っている。果たしてあんな状態で時間通りに辿り着くことができるのだろうか。正直不安しか感じていない。
何度か携帯の画面を確認する。沙姫からのメールはない。少なくとも彼女の中ではまだ到着する目途が立っているということか。

携帯の画面を見ている視界の端に一人の生徒が写る。少し小柄な男子生徒だ。

雰囲気からして恐らく1年生。2年の私から見れば下級生にあたる。どこかの部活か委員会に所属しているのだろう。沙姫のような真面目人間か、私のようなもの好きでなければ無所属の人間が来る理由はない。

特に目立った様子はない。一般生徒。だが、不思議と目に留まった。跳ねた赤毛。いかにも優等生ですと言わんばかりの眼鏡。真面目が服を着て歩いている。

男子生徒はこちらに見向きもせず校門を抜けていく。私は、何故か彼から目が離せなかった。どこかで、見たことがあるような容姿をしていたからだ。どこで、いつ、『彼』を見かけた……?

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