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第2話「否定シタイ未来」
2.遅刻
しおりを挟む「……う。悠ってば、大丈夫?」
ぼーっとしていた。気が付くと目の前に手を突き出してひらひらとする沙姫がいた。
「え、あ、あぁ。大丈夫……ていうかあんたいつからそこに」
「ほんのついさっき!遅刻しちゃってごめんねっ」
「遅刻?」
携帯を確認した。確かに時刻は沙姫が指定していたよりも5分ほど違っている。5分以上もあの一年生を見つめていた自分にも驚きだが、へらへらと笑いながら謝罪と呼べるか怪しい謝罪をする沙姫にも驚きだ。
「あんたね、何で遅刻したのよ。また迷子?」
「えっと、それがコンタクトがうまくはまらなくてさ」
「コンタクト……眼鏡で来ればよかったじゃない。持ってるんでしょう?」
「やだ!メガネはやだ!たとえ遅刻することになっても眼鏡なんてつけない!」
果たしてそれは声高らかに宣言することだろうか。私は呆れて何も言えなかった。
沙姫がコンタクトというのは意外だった。いや、よく考えれば意外でもないのかもしれない。夢の中の住人であるシャラと同一視するのはよくないとわかっているが、そんな風に考えるなら、見えているだけマシと言える。
沙姫は考え込む私の腕を引いた。散歩途中の犬が繋がれているリードを引っ張るように。早く校舎の中を案内しろという意味だろう。
私は茶色の毛をした大型犬に引っ張られ、校門をくぐった。
最初に見えてきたのは本校舎と呼ばれる場所。この花宰学園は中等部と高等部が併設されている大型な学校なため校舎も多い。大昔は女子学校、その後男女共同学校となり今の校舎の規模になった。そのため、入れば急に校舎が迎えてくれる。
「これって中等部の校舎なんだよね。悠はここの中学校だったの?」
「えぇ、家が近かったし姉さんもここの卒業だったから」
「へぇ、お姉さんと一緒なんだぁ」
「年が離れていたから、一緒に通ったことはないけど」
中等部はさすがに校舎を通りすぎただけだ。だが沙姫に話しているうちに、毎日見ている校舎のはずがとても懐かしいものに見えてきた。日頃身近にあればあるほど、あまり意識しなくなる。ユウの夢も同じようなものになれば、どれほど助かるか。思い出に浸りながらもため息を吐いていた。
そういえば夢の頻度が高くなったのは中学に入ってからだった。
それまでは平和の中掃除や雑用を任されている光景ばかりだったが、成長したユウと彼が天使病に侵されている片鱗を見せるようなものを見させられることが多くなった。
今となっては何のきっかけで夢の続きを見るようになったのだろうか―――
私は沙姫に声をかけた。
「ねぇ、沙姫」
「なぁに?」
「夢についての話なんだけど、あれって」
「きゃあ!」
私の言葉を遮るように、沙姫との間にサッカーボールが飛んできた。トン、トンと転がっていくボールは私たちから遠ざかるように中等部校舎に消えていく。
すいませーん、と駆け寄って来た男子部員は立ち止まりもせずボールを追いかけて行った。
「ご、ごめん、なんだっけ?」
「……なんでもない」
きっと、何かがその質問は必要ないと止めたのだろう。どうやら暫くは一緒に行動することになる。質問ならいつでもできる。今は、必要ないのだ。
沙姫は私の言葉を待っていたが、私は気にしないで、と案内を続けるためにグラウンドへ向かう階段を下りて行った。
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