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王と対峙しても一歩も引かない
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「王の布告?」
翔は飲食店の店主と話をしていた。
「ああ、そうさ。国王が異世界から召喚した人々に、職業とスキルの授与儀式を行うんだ」
「職業とスキルは授与儀式を経ないと獲得出来ないのか?」
「そりゃそうさ!なんたって、モンスターと戦う為の職業とスキルだからね。職業とスキルを持たずに戦ったら、人間なんてあっけなくモンスターに殺されるよ」
店主は一般論を語る。
一般論が通じない超人を前にしながら。
「最近は奴隷が不足してるって国中で言われているからね、本当なら、奴隷が欲しいところなんだけど、モンスターに対抗出来るのは職とスキルを授与された異世界人だけだって言うからね」
店主もそうだが、国中の人間が労働を忌避し、鎖で繋がれた人間を奴隷として酷使していた。
「そろそろ、正義の城で授与儀式が始まるはずだよ」
「正義の城?」
「ああ、ギルデンスターン王国の国王ギルデンスターン3世の住まう王城さ」
悪趣味な城の名前だ、と思いながらも、声には出さなかった。
翔は勘定を済ませてマリー達と店を出る。
「確認しておくか」
翔とマリー達は正義の城へ向かう。
≪正義の城≫
正義の城には現世から召喚された人々が集まっていた。
翔の圧倒的存在感に人々は気付く。
「お、おい、あれって翔じゃね?」
「いないと思ってたけど、あいつも来てたんだな」
「あいつが連れてる女、全員カワイイな」
「ああ、レベル高いよな」
「翔くんも来てたんだ」
「告っちゃえば?」
クラスメイトや他クラス、他学年の生徒達が翔について口々に話す。
翔の圧倒的存在感は翔でも封印するのが困難な、まさしく超弩級のスーパー・ミラクル・ウルトラ・ファンタスティック・アルティメット・ハイパー・レボリューションなオーラだった。
翔と言う圧倒的存在を世界から隠す事など不可能に等しいのだ。
そうこうしていると、豪華な馬車が通った。
「フォーティンブラスさまだ!」
「フォーティンブラスさまー!!」
異世界の住人達が歓声を上げる。
馬車はオープンカーの様な構造になっていて、フォーティンブラスと呼ばれる女性が手を振る。
フォーティンブラスはティアラを着けて、ドレスを着ている。
体中に金銀財宝が鏤められている。
「うううう、きれいですう」
とマリーは羨ましそうに言った。
「ああ、衣服も綺麗だし、フォーティンブラスって呼ばれている女も綺麗だね」
とユリア。
「悔しいですけれど、確かに美しいですね」
とレイナ。
「ウチ、あんな綺麗な人を見るん、初めてかも知れん」
とカッサンドラ。
「ボクも、あんな綺麗になれるかなあ」
とバネッサ。
「わたくしも認めざるを得ない美しさですわ」
とシャーロット。
「あの馬車に乗っているのは誰だ?」
翔が群衆の一人に訊ねる。
「あれはギルデンスターン王国の国王ギルデンスターン3世の唯一の子、フォーティンブラス王女さまだ」
ヒゲもじゃの爺が答えた。
「ほお」
フォーティンブラスは長い銀髪をした、美しい女だった。
「うううう、ショウ様、マリーよりもあの人の方が良いんですか?」
とマリー。
「アタイの方があの王女よりもショウ様の事を好きだよ!」
とユリア。
「レイナの方がショウ様に相応しいです!」
とレイナ。
「ウチはショウ様のそばにいられたらそれだけで幸せです、、、、嘘です、やっぱり構ってほしいです」
とカッサンドラ。
「なんだかボク、ショウ様があの人を見てると、嫌な気持ちになる」
とバネッサ。
「わたくしだって、姫でしたわ!わたくしはショウ様の為に全て手放す覚悟がありますわ!」
とシャーロット。
「別に恋愛対象として興味を持っていたから見た訳ではない。情報収集の一環として視認を実行に移したまでだ」
翔が事も無げに言うと、マリー達は安堵した。
人を一人見るだけでも、周囲の者に絶大な影響を及ぼす。
それが翔と言う人間だった。
いや、それは最早、人間と言う概念を超越した一つの現象だった。
「止まりなさい」
フォーティンブラスが馬車の御者に言う。
マリー達の声を聞き、翔を見たのだ。
「あなた、獣人を六匹も連れてるけど、ちゃんと管理出来てるんでしょうね!?」
フォーティンブラスは翔に語気強く問い質す。
「六匹、、、、だと!?」
翔は問い返す。
「そうよ!獣人は一匹二匹と数えるのよ!?そんな事も知らないの!?この神聖なるギルデンスターン王国の中でも最も荘厳な正義の城の付近で汚らわしい獣人を散歩させるなんて!一体全体、どう言う神経をしてるのよ!信じらんないわ!!」
フォーティンブラスの言葉に、辺りは静まり返る。
マリー達はうつむき居心地悪そうにしていた。
予想はしていた、といったところか。
「そうだよな、普通じゃねえよ」
「カワイイっつっても獣人だよな」
「翔くんってああいう趣味なんだー」
「幻滅―」
クラスメイトやギルデンスターンの住人たちも、フォーティンブラス王女の言葉に同調する。
「これからギルデンスターン王主催の下、異世界人に職とスキルの授与が行われます。それまでにその汚らわしい獣人を連れてこの場から去る事ですね」
フォーティンブラス王女は吐き捨てるように言うと、御者に命じて馬車を動かし、王城の中へと姿を消した。
群衆は獣人を排除しようとしたが、翔の放つ静かだが巨大な殺気に圧倒されて沈黙した。
時計は十二時を指し、正義の城の頂上から白髪の男が姿を見せる。
「ギルデンスターン王だ!」
「ギルデンスターン3世!!」
群衆はギルデンスターン三世に歓声を上げる。
ギルデンスターン三世が片手を少し上げると、群衆は静まり返った。
三世は口を開く。
「この城は、ギルデンスターン初代国王の指揮下で建設された。この大鐘楼と共に」
三世は城の頂上に取り付けられた大鐘楼を見る。
「罪人の処刑が執行された時、大鐘楼は打ち鳴らされ、人民は悪が討ち滅ぼされた事を知り、安堵して眠りに就いた」
三世の言葉に群衆は感銘を受ける。
「そして人々は安寧を取り戻した。人々は秩序を回復した。しかし」
三世は語気を強める。
「それは人の世界の出来事だ。近頃になって、モンスターの動きが活発になりつつある。人々の安寧が再び失われようとしている」
三世は胸に手を当てて嘆く。
「そこで余は異世界より召喚されし者たちを集め、名誉と資金援助を保証し、職とスキルの授与を行い、モンスターの討伐を任命する事にした!!!」
三世は手を大きく翳して宣言した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
群衆は三世の言葉に歓呼で応える。
「紹介しよう!異世界より来たりし救世主たちだ!!!」
三世は手招きをする。
群衆に見える位置に、異世界召喚された人間たちが姿を現す。
それは翔と同じ学校のメンバーだった。
DQNもリア充も、学級委員長もいた。
先ほど、フォーティンブラスと翔が対峙した時に居た生徒の姿も有る。
「それではこれより職とスキルの授与儀式を執り行う!!!」
三世の指示に呼応して宮廷魔術師が現れる。
そして禍々しい正方形の箱が運ばれてきた。
「このボックスこそ、異世界人にスキルを付与するスキルボックスなり!!!」
三世が宣言すると、群衆は歓声を上げる。
「異世界人よ、スキルボックスに手を翳すのだ!!」
三世の命に従い、次々と学校の面々はスキルボックスに手を翳す。
「ウェーイ!!俺のスキルは≪超貫通≫だってよー!!」
スキルが授与された瞬間、その人間にスキルの名称と効果が心に直接伝達された。
「小生のスキルは≪未来予知≫か。小生らしい理知的なスキルだな」
「オレのスキルは≪稲妻投下≫???ンダこりゃ!?」
当たりスキルが次々と授与されていく。中にはチートスキルと呼ぶに相応しいものも有った。
「全員にスキルが授与されたようだな、それでは次に職の授与を執り行う」
三世がそう言うと、宮廷魔術師たちは奥に下がり、神官たちが前に出た。
職はスキルと違い、スキルボックスの様な特別な道具では無く、神官たちの儀式によって授与される。
スキルの場合、どのような性質のスキルが付与されるのか見当が付かない。
しかし職は当事者たちで選別出来た。
職は召喚された人間以外も当然持っていて、それは本人の意向や境遇、素質を考慮して選別される。
モンスターと戦う事を前提に集められた召喚された人間はスキルボックスでスキルを手に入れて、獲得したスキルが発揮出来る様な職が選別された。
「俺のスキルは≪超貫通≫だから職は射手か、ウェーイ!!」
「小生のスキルは≪未来予知≫だから僧侶か」
「ンだよ!オレの≪稲妻投下≫はどの職がインだよ!?盗賊!?」
次々とスキルを補強する職が授与される。特にスキルに適した職が無い場合は、当人の気質から職を選んだ。
そして職能を発揮する装備が配られる。
射手は弓矢を装備し、僧侶は錫杖を手に取る。
「全員にスキルと職が授与された!!翌日から異世界人にはパーティを編成して、モンスターの討伐を命ずる!!」
その時ちょうど、宿屋探しを終えた翔がマリー達と正義の城にやってきた。
「おい!」
翔は大声で城の頂上にいるギルデンスターン三世を呼んだ。
ギルデンスターン三世は広場にいる翔を見下ろす。
「俺も召喚された人間だ。俺はスキルも職も授与されていないぞ!」
翔の言葉に群衆は騒然とする。
ただそれは、事の是非を論ずる類のものではなく、翔の言葉を反復する程度だった。
「あいつ陰キャぼっちじゃん」
「あのインテリ気取りの底辺め!」
「ブハッ!!アイツ遅刻してヤンの!!ウケル!!ツカダセェ!!」
リア充と学級委員長とDQNが翔を罵倒する。
それに呼応して他のクラスメイトも翔を非難する。
「こんな大事な式に遅刻するなんてありえねー」
「前から思ってたけど、翔くんって団体行動出来ないよね」
「非常識、迷惑」
ギルデンスターン三世が手を翳すと、群衆もクラスメイトも口を噤む。
「その方、異世界召喚された人間だという事は真実の様だな」
話の通じる人間か、と翔は思った。
「だが、その方が連れている獣人は何だ!?神聖な王都を何と心得る!?」
翔は認識を改めた。
「獣人の何が問題なんだ?」
「何が問題だと!?獣人など汚らわしい!!モンスターの亜種だ!人間の亜種では無い!獣人に文明生活など出来はしない!!」
ギルデンスターン三世は声を荒げる。
「俺は獣人を取りまとめて国を創ったぞ!?」
翔は反論した。
「ふははははははは!!!」
ギルデンスターン三世は大笑いする。
家臣やクラスメイト、群衆もそれに同調して笑う。
「この愚か者!!!」
ギルデンスターン三世が罵声を浴びせると、皆、静まり返った。
「獣人を集めて出来るのは、国では無い、牧場だ!!!」
ギルデンスターン三世の言葉に、皆は大笑いした。
「ギャハハハハ!!牧場だってよ!!」
「確かに!!」
「ウケル!!!」
とクラスメイト。
「わはははは!!」
「さすがギルデンスターン三世!!」
と群衆と家臣。
マリー達は沈黙して下を向き縮こまる。
「ゲームをしよう、ギルデンスターン三世」
翔はギルデンスターン三世に提案する。
「ゲームだと!?人間の王たる余と獣の飼い主である其の方が対等だとでも思うたか!?」
ギルデンスターン三世は翔の言葉に反発した。
「お前が偉い分、俺はハンデを負う」
ギルデンスターン三世が偉い分、と表現する事で、翔は対等か否かと言う話をすり替える。
「ゲームはリアル・ボードゲームだ。その名の通り、ボードゲームで行う事を、そのまま現実で行う。俺のチームは俺が王将。お前のチームはお前が王将。先に敵の王将を倒せば勝ちだ」
「痴れ者め!その様な事をして、一体余に何の得が有る!?」
「勝者は敗者の所有する全てを手に入れる事が出来る。つまり俺が負ければ俺自身と俺の国に山ほどいる獣人が全てお前の物になる。奴隷にでもするが良い」
「ショウ様、、、、?」
マリー達は翔の言葉に不安を増大させる。
「その代り、俺が勝てばお前の所有する全てを奪う」
翔の言葉にギルデンスターン三世は怒号する。
「余の所有するものと其の方の所有するものが釣り合うとでも思うたか!?」
「だから俺はハンデを負う。俺のチームは俺一人だ。お前のチームは召喚された人間、兵士、群衆、その全員で良い。死ぬか敗北を認めれば負けだ。スキルも職も授与されていない俺を倒せばお前の勝ちだ」
「ほう」
ギルデンスターン三世はニヤリと笑う。
「国中で奴隷が不足しているんだろう?民の窮状を救うのも王たるものの使命ではないのか?」
翔は更に駄目押しをした。
「よかろう!契約成立だ!大鐘楼が鳴り響いた瞬間を勝負開始とする!衛兵よ、大鐘楼を打ち鳴らせ!!」
ギルデンスターン三世は兵士に指示を出す。
ギルデンスターン三世の命に従い、兵士たちは大鐘楼を鳴らす準備をする。
「最後に其の方に良い事を教えてやろう」
ギルデンスターン三世は不敵に笑う。
翔は飲食店の店主と話をしていた。
「ああ、そうさ。国王が異世界から召喚した人々に、職業とスキルの授与儀式を行うんだ」
「職業とスキルは授与儀式を経ないと獲得出来ないのか?」
「そりゃそうさ!なんたって、モンスターと戦う為の職業とスキルだからね。職業とスキルを持たずに戦ったら、人間なんてあっけなくモンスターに殺されるよ」
店主は一般論を語る。
一般論が通じない超人を前にしながら。
「最近は奴隷が不足してるって国中で言われているからね、本当なら、奴隷が欲しいところなんだけど、モンスターに対抗出来るのは職とスキルを授与された異世界人だけだって言うからね」
店主もそうだが、国中の人間が労働を忌避し、鎖で繋がれた人間を奴隷として酷使していた。
「そろそろ、正義の城で授与儀式が始まるはずだよ」
「正義の城?」
「ああ、ギルデンスターン王国の国王ギルデンスターン3世の住まう王城さ」
悪趣味な城の名前だ、と思いながらも、声には出さなかった。
翔は勘定を済ませてマリー達と店を出る。
「確認しておくか」
翔とマリー達は正義の城へ向かう。
≪正義の城≫
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翔の圧倒的存在感に人々は気付く。
「お、おい、あれって翔じゃね?」
「いないと思ってたけど、あいつも来てたんだな」
「あいつが連れてる女、全員カワイイな」
「ああ、レベル高いよな」
「翔くんも来てたんだ」
「告っちゃえば?」
クラスメイトや他クラス、他学年の生徒達が翔について口々に話す。
翔の圧倒的存在感は翔でも封印するのが困難な、まさしく超弩級のスーパー・ミラクル・ウルトラ・ファンタスティック・アルティメット・ハイパー・レボリューションなオーラだった。
翔と言う圧倒的存在を世界から隠す事など不可能に等しいのだ。
そうこうしていると、豪華な馬車が通った。
「フォーティンブラスさまだ!」
「フォーティンブラスさまー!!」
異世界の住人達が歓声を上げる。
馬車はオープンカーの様な構造になっていて、フォーティンブラスと呼ばれる女性が手を振る。
フォーティンブラスはティアラを着けて、ドレスを着ている。
体中に金銀財宝が鏤められている。
「うううう、きれいですう」
とマリーは羨ましそうに言った。
「ああ、衣服も綺麗だし、フォーティンブラスって呼ばれている女も綺麗だね」
とユリア。
「悔しいですけれど、確かに美しいですね」
とレイナ。
「ウチ、あんな綺麗な人を見るん、初めてかも知れん」
とカッサンドラ。
「ボクも、あんな綺麗になれるかなあ」
とバネッサ。
「わたくしも認めざるを得ない美しさですわ」
とシャーロット。
「あの馬車に乗っているのは誰だ?」
翔が群衆の一人に訊ねる。
「あれはギルデンスターン王国の国王ギルデンスターン3世の唯一の子、フォーティンブラス王女さまだ」
ヒゲもじゃの爺が答えた。
「ほお」
フォーティンブラスは長い銀髪をした、美しい女だった。
「うううう、ショウ様、マリーよりもあの人の方が良いんですか?」
とマリー。
「アタイの方があの王女よりもショウ様の事を好きだよ!」
とユリア。
「レイナの方がショウ様に相応しいです!」
とレイナ。
「ウチはショウ様のそばにいられたらそれだけで幸せです、、、、嘘です、やっぱり構ってほしいです」
とカッサンドラ。
「なんだかボク、ショウ様があの人を見てると、嫌な気持ちになる」
とバネッサ。
「わたくしだって、姫でしたわ!わたくしはショウ様の為に全て手放す覚悟がありますわ!」
とシャーロット。
「別に恋愛対象として興味を持っていたから見た訳ではない。情報収集の一環として視認を実行に移したまでだ」
翔が事も無げに言うと、マリー達は安堵した。
人を一人見るだけでも、周囲の者に絶大な影響を及ぼす。
それが翔と言う人間だった。
いや、それは最早、人間と言う概念を超越した一つの現象だった。
「止まりなさい」
フォーティンブラスが馬車の御者に言う。
マリー達の声を聞き、翔を見たのだ。
「あなた、獣人を六匹も連れてるけど、ちゃんと管理出来てるんでしょうね!?」
フォーティンブラスは翔に語気強く問い質す。
「六匹、、、、だと!?」
翔は問い返す。
「そうよ!獣人は一匹二匹と数えるのよ!?そんな事も知らないの!?この神聖なるギルデンスターン王国の中でも最も荘厳な正義の城の付近で汚らわしい獣人を散歩させるなんて!一体全体、どう言う神経をしてるのよ!信じらんないわ!!」
フォーティンブラスの言葉に、辺りは静まり返る。
マリー達はうつむき居心地悪そうにしていた。
予想はしていた、といったところか。
「そうだよな、普通じゃねえよ」
「カワイイっつっても獣人だよな」
「翔くんってああいう趣味なんだー」
「幻滅―」
クラスメイトやギルデンスターンの住人たちも、フォーティンブラス王女の言葉に同調する。
「これからギルデンスターン王主催の下、異世界人に職とスキルの授与が行われます。それまでにその汚らわしい獣人を連れてこの場から去る事ですね」
フォーティンブラス王女は吐き捨てるように言うと、御者に命じて馬車を動かし、王城の中へと姿を消した。
群衆は獣人を排除しようとしたが、翔の放つ静かだが巨大な殺気に圧倒されて沈黙した。
時計は十二時を指し、正義の城の頂上から白髪の男が姿を見せる。
「ギルデンスターン王だ!」
「ギルデンスターン3世!!」
群衆はギルデンスターン三世に歓声を上げる。
ギルデンスターン三世が片手を少し上げると、群衆は静まり返った。
三世は口を開く。
「この城は、ギルデンスターン初代国王の指揮下で建設された。この大鐘楼と共に」
三世は城の頂上に取り付けられた大鐘楼を見る。
「罪人の処刑が執行された時、大鐘楼は打ち鳴らされ、人民は悪が討ち滅ぼされた事を知り、安堵して眠りに就いた」
三世の言葉に群衆は感銘を受ける。
「そして人々は安寧を取り戻した。人々は秩序を回復した。しかし」
三世は語気を強める。
「それは人の世界の出来事だ。近頃になって、モンスターの動きが活発になりつつある。人々の安寧が再び失われようとしている」
三世は胸に手を当てて嘆く。
「そこで余は異世界より召喚されし者たちを集め、名誉と資金援助を保証し、職とスキルの授与を行い、モンスターの討伐を任命する事にした!!!」
三世は手を大きく翳して宣言した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
群衆は三世の言葉に歓呼で応える。
「紹介しよう!異世界より来たりし救世主たちだ!!!」
三世は手招きをする。
群衆に見える位置に、異世界召喚された人間たちが姿を現す。
それは翔と同じ学校のメンバーだった。
DQNもリア充も、学級委員長もいた。
先ほど、フォーティンブラスと翔が対峙した時に居た生徒の姿も有る。
「それではこれより職とスキルの授与儀式を執り行う!!!」
三世の指示に呼応して宮廷魔術師が現れる。
そして禍々しい正方形の箱が運ばれてきた。
「このボックスこそ、異世界人にスキルを付与するスキルボックスなり!!!」
三世が宣言すると、群衆は歓声を上げる。
「異世界人よ、スキルボックスに手を翳すのだ!!」
三世の命に従い、次々と学校の面々はスキルボックスに手を翳す。
「ウェーイ!!俺のスキルは≪超貫通≫だってよー!!」
スキルが授与された瞬間、その人間にスキルの名称と効果が心に直接伝達された。
「小生のスキルは≪未来予知≫か。小生らしい理知的なスキルだな」
「オレのスキルは≪稲妻投下≫???ンダこりゃ!?」
当たりスキルが次々と授与されていく。中にはチートスキルと呼ぶに相応しいものも有った。
「全員にスキルが授与されたようだな、それでは次に職の授与を執り行う」
三世がそう言うと、宮廷魔術師たちは奥に下がり、神官たちが前に出た。
職はスキルと違い、スキルボックスの様な特別な道具では無く、神官たちの儀式によって授与される。
スキルの場合、どのような性質のスキルが付与されるのか見当が付かない。
しかし職は当事者たちで選別出来た。
職は召喚された人間以外も当然持っていて、それは本人の意向や境遇、素質を考慮して選別される。
モンスターと戦う事を前提に集められた召喚された人間はスキルボックスでスキルを手に入れて、獲得したスキルが発揮出来る様な職が選別された。
「俺のスキルは≪超貫通≫だから職は射手か、ウェーイ!!」
「小生のスキルは≪未来予知≫だから僧侶か」
「ンだよ!オレの≪稲妻投下≫はどの職がインだよ!?盗賊!?」
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「全員にスキルと職が授与された!!翌日から異世界人にはパーティを編成して、モンスターの討伐を命ずる!!」
その時ちょうど、宿屋探しを終えた翔がマリー達と正義の城にやってきた。
「おい!」
翔は大声で城の頂上にいるギルデンスターン三世を呼んだ。
ギルデンスターン三世は広場にいる翔を見下ろす。
「俺も召喚された人間だ。俺はスキルも職も授与されていないぞ!」
翔の言葉に群衆は騒然とする。
ただそれは、事の是非を論ずる類のものではなく、翔の言葉を反復する程度だった。
「あいつ陰キャぼっちじゃん」
「あのインテリ気取りの底辺め!」
「ブハッ!!アイツ遅刻してヤンの!!ウケル!!ツカダセェ!!」
リア充と学級委員長とDQNが翔を罵倒する。
それに呼応して他のクラスメイトも翔を非難する。
「こんな大事な式に遅刻するなんてありえねー」
「前から思ってたけど、翔くんって団体行動出来ないよね」
「非常識、迷惑」
ギルデンスターン三世が手を翳すと、群衆もクラスメイトも口を噤む。
「その方、異世界召喚された人間だという事は真実の様だな」
話の通じる人間か、と翔は思った。
「だが、その方が連れている獣人は何だ!?神聖な王都を何と心得る!?」
翔は認識を改めた。
「獣人の何が問題なんだ?」
「何が問題だと!?獣人など汚らわしい!!モンスターの亜種だ!人間の亜種では無い!獣人に文明生活など出来はしない!!」
ギルデンスターン三世は声を荒げる。
「俺は獣人を取りまとめて国を創ったぞ!?」
翔は反論した。
「ふははははははは!!!」
ギルデンスターン三世は大笑いする。
家臣やクラスメイト、群衆もそれに同調して笑う。
「この愚か者!!!」
ギルデンスターン三世が罵声を浴びせると、皆、静まり返った。
「獣人を集めて出来るのは、国では無い、牧場だ!!!」
ギルデンスターン三世の言葉に、皆は大笑いした。
「ギャハハハハ!!牧場だってよ!!」
「確かに!!」
「ウケル!!!」
とクラスメイト。
「わはははは!!」
「さすがギルデンスターン三世!!」
と群衆と家臣。
マリー達は沈黙して下を向き縮こまる。
「ゲームをしよう、ギルデンスターン三世」
翔はギルデンスターン三世に提案する。
「ゲームだと!?人間の王たる余と獣の飼い主である其の方が対等だとでも思うたか!?」
ギルデンスターン三世は翔の言葉に反発した。
「お前が偉い分、俺はハンデを負う」
ギルデンスターン三世が偉い分、と表現する事で、翔は対等か否かと言う話をすり替える。
「ゲームはリアル・ボードゲームだ。その名の通り、ボードゲームで行う事を、そのまま現実で行う。俺のチームは俺が王将。お前のチームはお前が王将。先に敵の王将を倒せば勝ちだ」
「痴れ者め!その様な事をして、一体余に何の得が有る!?」
「勝者は敗者の所有する全てを手に入れる事が出来る。つまり俺が負ければ俺自身と俺の国に山ほどいる獣人が全てお前の物になる。奴隷にでもするが良い」
「ショウ様、、、、?」
マリー達は翔の言葉に不安を増大させる。
「その代り、俺が勝てばお前の所有する全てを奪う」
翔の言葉にギルデンスターン三世は怒号する。
「余の所有するものと其の方の所有するものが釣り合うとでも思うたか!?」
「だから俺はハンデを負う。俺のチームは俺一人だ。お前のチームは召喚された人間、兵士、群衆、その全員で良い。死ぬか敗北を認めれば負けだ。スキルも職も授与されていない俺を倒せばお前の勝ちだ」
「ほう」
ギルデンスターン三世はニヤリと笑う。
「国中で奴隷が不足しているんだろう?民の窮状を救うのも王たるものの使命ではないのか?」
翔は更に駄目押しをした。
「よかろう!契約成立だ!大鐘楼が鳴り響いた瞬間を勝負開始とする!衛兵よ、大鐘楼を打ち鳴らせ!!」
ギルデンスターン三世は兵士に指示を出す。
ギルデンスターン三世の命に従い、兵士たちは大鐘楼を鳴らす準備をする。
「最後に其の方に良い事を教えてやろう」
ギルデンスターン三世は不敵に笑う。
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