美しき怪人は少年少女探偵団を眠らせてくれない

white love it

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第4章

5.

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「どう? 私がつくろうとしている世界について、少しは理解できたかしら?」

 誰も答えなかった。
 智也達は立ち上がった。
 一瞬にして同時だった。
 呼吸は完璧に合っていた。まるで背中ごしに縛られている四人組ではなく、足が八本ある一体の生き物のような動きだった。
 八本の足は完璧に統率を保ったまま床を蹴り、ネイレとの間合いを一瞬にして詰めた。
 誠がブレーキをかけ、乃愛と亜紀が時計回りに身体をひねると、床を蹴った智也が勢いそのままにネイレの鳩尾へと蹴りを突き刺した。

「くっ!!」

 一瞬ネイレの顔が苦悶に歪み、ソファから床面に滑り落ちる。
 その隙きを見逃さず、四人はナイフを跨いだ。誠が後ろ手にナイフを掴み、器用にロープを切り落とす。
 わずか数秒の出来事だったが、その間、智也はネイレの身体を踏みつけていた。
 ネイレの身体はとても花車だった。だが同時に、そのフォルムは女性としての美しさを完璧に体現していた。
 おまけにとても柔らかかった。
 智也は足の力を緩めそうになったが、その思いが脳裏に浮かぶか浮かばないかの瞬間に、乃愛の言葉が冷たく響いた。

「足を緩めるのはなしよ」
「……うん」

 全員のロープが解けると、誠はナイフをネイレに向けた。
 智也は足を離したが、ネイレは床に突っ伏したまま動かない。

「あんたが教えてくれたんだぜ。触れ合った状態、濡れて通電性の高まった皮膚、そして強い感情があれば、。さてと、今度はこっちのターンだな? あんたをどうするかは俺達が決める。だろ?」

 誠の声はネイレに負けないほど、ひんやりとしていた。

「…○※○※○……」
「何だって?」

 ネイレが顔を上げた。艷やかな黒髪がふわりと落ちる。
 その表情を何と形容していいのか、智也には分からなかった。あまりにもせつなげで、あまりにも儚げだった。だが間違いなく、この世界のどんなものより美しかった。

「すべての悩みが解決する世界よ。安全で安心に暮らせる。事故もない。犯罪もない。身体の不調もすぐに分かる。お金の不平等もない。完璧な世界なのよ。それとも、今のこの腐りきった汚物溜めみたいな世界を良くする手が、他にあるの?」
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