聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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黴と闇

4.

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「いや、蓋がなかったんなら、それこそ、なんとかして脱出した可能性はあるよ」

「どうやって!? だって、穴を登るのは無理だし、肩車したり、米俵に乗っても穴の入り口まではとても届く距離じゃないのよ。紐や縄に使えるものだって、そうはないだろうし、あっても穴の中から投げて、運良く木に巻きつけられる確率ってどのくらいだと思ってるの?」

「どんなに低くったってゼロじゃないよ。ドッペルゲンガー説よりは高いね。それに、土を盛り上げて、踏み台を作るっていう手もあるし」

 普段、家で妹のゆきにやり込められているうっぷんを晴らすかのように、和人はまくしたてた。
 だが、良子も負けてはいなかった。生来のチヤホヤされて育ったお嬢様気質が、言い負かされるということを許さなかった。

「あのね、土を盛り上げるっていうけど、スコップもないのよ。しかも一人は女性で、もう一人は子供よ。そんな体力あると本気で思ってるの。日本のバラエティ番組に出てくる体力自慢の、お笑いタレントだって無理よ。むしろ、穴の外から覗いたドッペルゲンガーと目が合ってしまった本体が、そのまま消滅してしまったって考えるほうが、よっぽど理屈に合ってるわ」

「あはは」

 幸子の快活で、屈託のない笑い声が部屋に響いた。
 大きく口を開けて白い歯が見えるが、少しも下品ではない。
 むしろ、爽やかささえ感じさせる笑い方だった。

「どちらの意見も、それなりに理屈にかなっているところが面白いな」

「幸子さんは、どう思います?」

 だが幸子は、手をあげて良子の質問を制した。

「今は何とも答えられない、としか言えない。不十分な情報だけで、敵の全体像もつかめないまま突っ込むような真似は、八十年前のあの戦争で懲りたからな」

 それだけ言うと、幸子は立ち上がり、浴衣を手にした。

「温泉に行ってくる。良子さんもいかがかな?」
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