聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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黴と闇

6.

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 夜、布団を二つ並べて寝ることになっても、和人は少しも緊張することはなかった。
 たとえ暗闇に幸子の真っ白な肌が浮き上がっていても、寝返りをうった幸子と目が合っても、和人は少しも動じずに寝入れるつもりだった。

「そういえば、聞いたことなかったですよね? 幸子さんの子供の頃のこと」

 和人が幸子に語りかけると、すぐに返事があった。澄んだ、でも落ち着いた声だった。

「あの時代に、あんまり楽しい思い出はなかったな。ただ家族が健在だったのは、もちろんありがたいことだったと思っている。今となってはね」

「そんなに大変な時代だったんですか?」

 幸子はまた寝返りをうって、天井に目をやった。

「いわゆる第一次大戦が終了したあとの時代ね。この国は勝ったとはいえ、世界的な大恐慌に巻き込まれていったわ。大勢の人たちが貧困に巻き込まれていった一方で、国と軍の暴走は確実に強くなっていった。なまじ勝ち続けたことで、歯止めがかからなくなったんでしょうね。暗く、重く、息苦しい時代だった。家族が食べていくために、身体を売る女性もたくさんいた。それも田舎の農家の娘だけじゃない。都会の、もとをたどれば裕福な家の出で、女学校も出たような、ある程度年のいった分別のある婦人もなのよ」

「……しかも、そのあとは戦争に負けて焼け野原になるわけだしね」

「いや、それは少し違う。戦争に負けたことは確かに衝撃だったし、家の資産が減ったことも、夜、街をうろつく米兵から身を守るのも大変だった。だが一方で、ついに底にたどり着いたという実感もあった。もうこれ以上、出口の見えないトンネルを走らなくてもいいんだ、というね。少なくとも市井の人々はそう思っていたはずよ」

「市井の人々は? 幸子さんは違うの?」

    和人が聞いたとき、幸子はすでに目を閉じていた。
 暗闇の中で、幸子の静かな声がかろうじて和人の耳に届いた。

「どうなんだろう? 私は…… 私は、もしかしたら今もトンネルの中なのかもしれないな……」

 トンネル…… その言葉は和人の耳に残った。
 目を閉じると、暗い穴底にいる二人が思い浮かんだ。まるで、トンネルのように横穴が掘られており、米俵などわずかな食料がある。穴の壁からは、地下水がチョロチョロと流れている。
 一人は少年。もう一人は年のいった女性。
 目を凝らすと、その顔は、色が白く、鼻筋がとおった美しい顔にみえる。
 和人は、はっとして目を開けた。
 目が冴えてしまった。
 目を閉じて、一生懸命眠りにつこうとするが、うまくいかない。
 瞼の裏には、幸子の白い肌の残像だけが残っていた。
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